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15-7, 球技大会後日

その日は、図書の当番だった。

お気に入りの小説を手に、図書室の扉を開ける。

カウンターには、見慣れた顔が座っていた。


「委員長、担当今日じゃないですよね・・・」

貼ってある当番表を確認する。

委員長はそれを指差すと言った。

「園部さんの当番の日、でしょ」


園部歌波は、黙っていた。

何故この人がここにいるのだ、自分が当番でないと知っているにも関わらず。

考えられる理由はひとつだった。

「私に何か?」


それをきいて、委員長、春日崎真夜は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「嫉妬?」

「は?」

わけがわからない、といった様子の歌波。


「園部さんってそんな顔できるんだねぇ~!もっと真面目で内気な子かと思ってたけれど、実はそうでもないんだ~?」

くすくすと笑う真夜。

歌波は更に不機嫌になる。

「それとも感情を顔に出しやすいのかな~?真岸辺さんと出会っていろいろ変わっちゃった?」


──なんなんだ


「でも、あくまで見ているだけしかできない・・・もともと内気な自分に勝とうとしても、そんなすぐに変われるはずがない。だから嫉妬が生まれ、憎いと思う」


──なんなんだこの人は


「球技大会のとき、ちらっと園部さんが見えてね、確信しちゃったよ~」


──言うな


「ずーっとずっと妬んでいた相手を、久しぶりにできた友達が」

「何を!!!」


「何を言い出すかと思えば・・・ちっとも意味がわからないです」


ニタァと笑う真夜。

それを睨みつける歌波。


「素直でいい・・・って、いってたねぇ、あの子」


「・・・私には、関係ありません・・・」


「じゃあずっと迷ってる?」


真夜の目が、突然鋭くなる。

歌波は背筋に冷たいものを感じていた。


「・・・委員長には、関係のないことです・・・」


歌波は手に持っていた本を握り締めると、来た道を戻った。

扉に手をかける。

しかしなかなか開けない。

歌波は、振り返らずに言った。


「委員長は、生徒会の信任投票・・・どうなさったんですか」


真夜の顔は見えていないが、笑っているように感じられた。


「私は普通にあの人は凄いと思ってるよ」


「・・・そうですか」

歌波はドアノブをまわすと、静かに部屋を出て行った。


真夜は、一人、微笑んでいた。

すべてを悟ったかのような目で、閉じられた扉を見据えていた。


ふと、視界に担任の姿が入った。

真夜が会釈すると、彼女は笑顔でこちらへ近づいてきた。


「留学するんだってね」

「は?」

唖然とする真夜。


そしてはっとする担任。しかしすぐに隠し切れないと思い、打ち明けることにした。

「奨学金制度で・・・推薦しようと思ってるの」

「私そんなこと頼んでません」

真夜の真剣な目が担任を襲う。担任は負けじと見つめ返す。

「頼まれたけれど、あなたじゃない。素敵なことでしょ、あなたに夢を叶えてほしいって思ってくれる人がいるのって」

真夜の目が泳ぐ。


「心配いらないわ。保護者の方々には学校側からの推薦って伝えておくから」

「なんで」

「え」

「なんでそんなことするんですか」


真夜がカウンターをバン、と叩いて立ち上がる。

本を読んでいた数人が驚いてこちらに視線を向ける。


「あなたが優秀だから・・・」

「違います」


「私は優秀なんかじゃ」

泣きそうな顔の真夜。

その頭をなでる担任。


「でも一生懸命勉強してきたでしょ? ・・・素直でいいのよ」


その言葉は、真夜の頭の中に何度も響いた。


──素直でいい


ついさっき、自分がいった言葉。

つい先日、下級生が叫んだ言葉。


確かに・・・

自分が素直だったといえば嘘になる


けれど・・・


私が勉強をしてきたのは、何のためだろう?

誰かに勝つため?何かを得るため?


競うことは好きだ

人が悔しがってくれるのも好き


けれど・・・


純粋に、勉強をすることが好きなんだろうな・・・


ああ、そうだ


私はこんなにも愚かだったんだ──



真夜は顔を上げる。

「では・・・お言葉に甘えます」



「私、留学したいです。どうすればいいですか?」


それを聞いて、担任の顔が明るくなった。


「職員室においで」



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