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15-6, 球技大会当日

一月も中旬、寒空の下行われるは、球技大会。

受験勉強で疲れている三年生たちが羽をのばせる最後の学校行事だ。


最後の行事を存分に楽しもうと気合の入った三年生

寒いせいか念入りに準備体操を行う二年生

初めての行事にドキドキを隠せないでいる一年生


校庭も体育館も賑わっていた。


「うららん!退院したんだね!おめでとうー!!」

体育館の壁にもたれかかっていた麗を見つけた空桜が駆け寄る。


「教えてくれたら良かったのに」

麗の手をぎゅっと握る空桜。

はしゃぐ空桜に対し、麗はそっと微笑むだけだった。


二人のやり取りを、歌波は後ろで見ていた。


その更に後ろから、ひそひそ話が聞こえる。

誰もが、壁際の麗に注目を寄せていた。

麗はそれに気がついてはいたが、気にすることはなく、ただ空桜の話に受け答えする。

とはいっても、あまり言葉は出さず、微笑んで返してばかり。


「もう怪我は大丈夫なの?急にスポーツして平気?」

「さあ、できれば見学していたいですね・・・」


そんな会話のあと、開会宣言が行われ、体育館ではバスケットボールの競技が始まった。


はじめは、一年生。

ほかのクラスに特に知り合いがいない空桜は、競技を純粋に楽しんだ。


歌波は少し運動が苦手なようで、頻繁にパスを外したりドリブルを取られたりしていたが、真剣さは伝わっていた。

それが微笑ましくて、空桜も本気でプレーする。


シュートを入れるたび、あまり話したこともないようなクラスメイトとハイタッチをする。

空桜はとても楽しそうだが、歌波はどこか気まずさを感じているようだった。


ときどき、壁際の麗に目をやる。

横のコートでほかのクラスの試合も同時に行われていたが、麗は空桜たちだけを見ていた。

その目線が嬉しくて、更に本気になる空桜。


本気になりすぎて空ぶることも多かったが、空桜はもともと運動神経が良かったので、バスケ部員の少ないクラスながら善戦した。


麗と反対側の壁際では、各クラスの上級生たちが同じチームの一年生を応援していた。

シュートが決まればみんなで喜ぶし、外すと残念がる人もいれば、舌打ちをする人もいて、下級生に対する反応は様々だった。

その中に、腕を組んで愉快そうに眺めるのが一人。春日崎真夜である。

終始空桜を見ていたのだろうか、彼女のほうを見るたび目があった。


・・・まあ、同じ3組だし。

そう思うようにして、気にせずボールを操った。



結果、見事初戦は勝ち抜いたが、準決勝でバスケ部員だらけのクラスに破れた。



続いて二年生の競技が行われている間、空桜はずっと麗のそばにいた。

それぞれのクラスごとで固まっている中、端に学年の違う二人でいるのは、異臭を放っていたに違いない。


春田紗優が、ときどき微笑ましそうにこちらを見ていた。

彼女は2年4組。初戦の相手は3組だった。

空桜はチームの応援がてら、紗優に声援を送っていた。


2年3組の結果は、初戦敗退。

紗優のチームが優勝した。




そして、ついに、誰もが楽しみにしていた試合が始まる────

グラウンドで競技していた一二年生も、自分の競技の応援を忘れて体育館に集まりだす。


三年生の選手たちが、次々にコートに入っていく。


「うららんでないの?」

「人数足りてそうですし」


その会話をきいた観客たちが、残念そうな顔を見せる。


「みんなうららんが見たいんじゃない?」

「まさか」


ひそひそ声がきこえる。

誰もが麗の噂をしている。


──きっと、うららん凄く強いんだ・・・

直感的にそう思った。


麗をコートに押し出す前に、試合は始まっていた。


始まってすぐ、集まってきた生徒たちがあるコートのまわりに寄ってたかる。


「3組対4組だよね?」

注目を浴びているコートを見る。


平均より少し高いくらいの身長で、凄まじいジャンプ力を見せ、次々とボールを奪っていく、3年3組の───


「うわあ、春日崎先輩なんでもできるんだなぁ」

「さすがは元キャプテンですね」


引退はしたものの、二年生のときには女子バスケットボール部のキャプテンを勤めていた真夜。

その実力は確かなもので、見事なドリブルに、華麗なノールックパス。パスを出された方も戸惑うレベルだ。


一方、隣の1組対2組は静かだった。

一二年生は、自らのクラスよりも真夜に注目を寄せる。


得点は、1組が圧倒的だった。


「負けてるよ?」

「そうですね」


まったく気にしていない様子の麗。


「でないの?」


返さない。

諦めて1組対2組の試合を見る。

麗の2組は、これといって飛びぬけて上手い人もいないようで、負けても仕方がないようだった。



ハーフタイム


選手たちがタオルで顔を吹く中、こちらへ向かってくるのが一人、二人。


一二年生が「かっこいいー!」と黄色い声をあげる。



「出ないの?」

一人目は、腕を組んでそう言った。


「出てもらわないとさ、準決勝にすら進めないの」

二人目は、腰に手を当てて言った。


どちらも鋭い目つきで麗を睨んだ。

そしてお互い鼻で笑いあう。


「少しはクラスに貢献してくれたらどう?去年あれだけ喝采あびておいて、今年は見物?良いご身分ね」

「せっかくだから、次の試合は2組とやりたいんだけどなぁ~?ねえ、新さん?」

「何いってるの春日崎さん?私はあなたと違って運動は得意じゃないから相手がどうだろうと構わないわよ?ただ、勝ちたいだけ。クラスでね」


挑発しあう二人。

似たもの同士なんだな、と認識する空桜。

そして、麗の肩をおす。


「でなよ。見たい」


そして、麗が二人に引っ張られるようにしてコートへ入っていくと、周囲もざわめいた。


麗のかわりに、新まどかが代わりにベンチに入る。



試合が再開すると──

真夜の試合は言うまでもなく圧勝。


しかし後半は、少し違った。


前半、真夜ばかりみていた観客たちが、麗たちの試合にも注目していたのだ。


高い身長を利用して、軽々とジャンプボールを制した麗のボールをとるチームメイト。

麗は声をだすことなく、手の動きだけでパスの指示をする。


真夜に劣らない、優雅なドリブル。

パスに困っている人がいれば、即座にあいている場所へ移動して貰いに行く。

身長もあれば、足も速かった。

長い髪が邪魔そうではあったが、素晴らしい反射神経で動き回る。


受け取ったパスを軽々とドリブルすると、そのままレイアップ。

ゴールに吸い込まれるかのように入っていく得点。


普段は麗を恐れて近づかない人たちもみな、その技に拍手を送る。

空桜も心地よくて、精一杯の声援を送る。


大幅にリードされていた得点が縮まる。

真夜も余所見するほどに、麗の活躍ぶりは度をこえていた。


圧勝。


麗のゴールは百発百中と言って良いほど正確で、最後のほうになると、麗にパスが回った時点で相手チームは戦意を喪失しているようだった。


盛大な拍手が送られる。


久しぶりのことに歯がゆかったのか、麗の頬が少し赤く染まっているように見えた。


試合終了後、まどかが手を差し出す。

麗は楽しそうに、ハイタッチをして見せた。


その後ろに、真夜が仁王立ち。


「直接対決と行きましょうか」

「・・・お手柔らかに」


今度は、出場を拒むことはしなかった。


初戦敗退で暇になったのか、ほかの種目の三年生たちも増え、体育館が狭い。

もう一組ある準決勝には目もくれず、真夜率いる3組 対 麗率いる2組の対決が始まるのを待つ。


ジャンプボールは、真夜と麗。

真夜より高い選手もいたのだが、その跳躍力から抜擢された。

麗のほうが5cm以上高かったが、真夜は怖気づくこともなく目の前で戦えることを楽しんでいた。


結局、5cmの差は大きかったようで、ボールは麗が叩いたが、すぐにパスカットでボールを奪い返すと、ゴールへ走り出す真夜。

それを追いかけることなく打たせると、次に自分に回ってきたボールを決めて、開始早々2点ずつ。


「真剣にやってる?」

「もちろんです」


会話も交えながら、攻防は続いていく。


どちらかが得点をいれると、拍手喝采が起こる。


空桜は誰よりもそれを楽しんでいた。

歌波が先ほどからチラチラとこちらを見ていることにも気づかずに。


真夜のスリーポイント、麗のレイアップ。

慣れた手つきで、得点はどんどん加算され───




ピーーーッ



試合終了のホイッスルがなる。

両者が並んで礼をすると、観客からは拍手の嵐が起こった。


「ようやく笑ったね」

真夜は麗に声をかけると、背をむけた。

待っているクラスメイトたちの元へと歩いていく。


麗がその背を目で追っていると、後ろから空桜が飛びついた。

「かっこよかった!」

精一杯の笑顔を麗に向けると、麗もまた、汗を流して微笑んでいた。


そこで空桜が周りの視線に気がつく。

「かっこよかったですよね?」

周りでそわそわしていた生徒たちに叫ぶ。

照れくさそうに頷く者もあれば、目線をそらす者もあった。


「みなさん多分、ほんとはうららんのこと尊敬してるんじゃないんですか?勉強もできて、運動もできて、美人だし。そうでしょ?変な迷信信じちゃだめですよ。素直でいいと思います」


麗が驚いて空桜の顔を覗く。

少女の顔は、至って真剣だった。

まっすぐな目で、ひそひそと会話している人たちに語りかけていた。


麗は一礼すると、空桜の腕を引っ張って体育館の出口へと向かった。



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