15-5, 今年の球技大会
「球技大会?」
「そうだよ。毎年冬の恒例行事」
翌日、昼休み。
空桜はいつもどおり、歌波と弁当を食べていた。
「うちは3組だから、2年生の3組と3年生の3組の先輩たちとチームになって、それぞれの競技の合計得点をきそうらしいよ」
きいた空桜は残念そうな顔をする。
「うららん2組だから敵同士じゃん」
歌波は、その名前を耳にして一瞬固まる。
空桜がきょとんとする。
「よく知ってるなって!」と、慌てて誤魔化す。
「でもまあ、一年生は一年生同士で対戦するだけだから・・・」
「なーんだ、じゃあうららんの試合たっぷり見れるね!」
嬉しそうな空桜。もくもくと手が進む。
それに対して、歌波は食べる手を休めていた。
「もうおなかいっぱい?」
歌波は首を横に振ると、また箸を動かし始める。
「元気なさそうだね。まだ痛いの?」
もっと激しく横に振る。
「元気だよ。ありがとう」
「そっか!」
安心した空桜は、また嬉しそうな表情に戻る。
歌波は自嘲的な笑みを浮かべ 友人の姿を見ていた。
「それで、なんの種目があるの?」
「えっと、毎年同じかはわからないけれど、去年は、バスケ、バレー、ドッジボール、サッカーだったらしい」
「へえ!バスケしたい」
ドリブルする素振りを見せる空桜。
「空桜ちゃんは運動神経良いもんね」
微笑む歌波。
「歌波だって悪くないでしょ?あー、でも怪我、響くかなぁ」
心配そうな顔をする空桜。
歌波は笑顔で否定する。
「怪我・・・っていったら、うららん、間に合うのかな」
そういいながら空桜が歌波の顔を見ると、歌波の目は曇っていた。
今まで見たことのないような表情。
嬉しそうでも、悲しそうでもない、汚いものをみるような目───
「歌波・・・?」
「ううん・・・ごめん」
すばやく弁当を包みなおす歌波。
「私、今日、図書委員の当番あったかも」
そういうと、弁当を手に持って早足で教室を出て行った。
ドアの閉まる音が響く。
歌波の机には、無造作に放られた弁当箱。
空桜もそれを追いかけるべく、慌てて弁当をおしこむと、席を立った。
*
──図書室
昼休み。
本を読みつつ調べ者をしている生徒もいれば、受験勉強だろうか、もくもくと問題集を解いている生徒もいる。暖房が暖かく、なかなかに快適な部屋である。
カウンターには、見覚えのある図書委員が座って本を読んでいた。
「歌波、きてません?」
図書委員、正確には、図書委員長に尋ねる。
図書委員長、春日崎真夜は、「は?」という顔を見せて、空桜の顔を覗き込んだ。
「ケンカでもしたの?」
唐突にそういわれて、空桜は固まった。
「凄い焦ってるね」
言われて気がついた。走ってきたせいもあってか、冬なのに汗が出ている。
真夜はくすっと笑う。
「来てないねぇ。今日当番じゃないし」
後ろにある当番表を確認して答える真夜。
空桜は、その言葉の意味を考える。
──歌波に、避けられた・・・?
目の前が真っ暗になったような、そんな気がした。
「この間、ここで見たよ」
読んでいた本にしおりを挟むと、それを閉じて言った。
「凄い思い悩んでるみたいだった。一人でそこの席に座ってさぁ、頭抱えちゃって?」
「いつですか・・・」
「いつって、冬休み前だよ」
頬杖をつく真夜。
空桜はいつの間にか俯いていたようだ。
真夜が、本の貸し出しをしている声が聞こえる。
いつもながら、真面目そうなキャラを演出している。
ただ、その顔がどうしても直視できない。
貸し出しが終わったのか、カウンターから出てくる音がする。
そして、肩に何か 暖かいものを感じた。
見上げると、真剣な表情の真夜が立っていた。
麗ほど高くはないが、それでも真夜が大きく見えた。
「あんたくらい能天気な子でも、辛いって思うことはあるものなんだねぇ」
空桜の頭にそっと手を置く。
「あんたさ、どっちが心配なの?園部さんと・・・雨宮さん」
驚いて、真夜の目を見る空桜。
何の表情もなく、ただまっすぐに問いかけてくる。
「どっちも心配です」
空桜もまっすぐに答える。
「どっちかを選べと言われたら?」
首を横に振る空桜。
「あんたやっぱ凄い。先輩と友人が同列なんだ」
嘲笑うかのような、真夜の目。
「うららんは先輩だけれど・・・友達ってことに変わりないです」
それをきいて、真夜が噴出す。
周りで勉強をしている人たちに煙たがられても気にしない。爆笑する。
「いいんじゃない?」
最後に空桜をぽんぽんと叩くと、真夜はカウンターに置いたままの本を手にとり、貸し出し用のパソコンをシャットダウンし始める。
生徒たちが、時計をみてぞろぞろと教室を出て行く。
「私はそういうの嫌いじゃないよぉ~」
くすくすと笑いながらも、そういって真夜は続いて扉のほうへ向かう。
空桜も時計を確認すると、真夜について外へ出る。
「あ、いいこと教えてあげよっか?」
別れる間際、真夜が突然立ち止まった。
「私、3組なんだ」