15-4, 去年の球技大会
「自分ほんまおもろいな~」
病室で、神近ちよは笑っていた。
彼女が今いるのは、親友である千景の部屋ではない。
長い髪を後ろで一つに束ねた麗が、壁にもたれて座っていた。
「千景も千景げで面白いわ。憧れの先輩のためなら何でもできるって」
ちよが手をひらひらさせる。
麗はそれを黙ってみていた。
「自分は、自分自身のことすらままなってないのにさ、人のこと気にしすぎなんちゃう?」
けらけらと笑うちよ。
それを聞いて麗は怪訝な顔をする。
「わかってますよ、そんなことは」
不機嫌そうである。
ちよは更に笑う。
「うちはあんたらのことはしょうみ知らん。でも、今の千景見てると滑稽やわ」
窓の外を見るちよ。
「僕に言われても」
目を閉じて答える麗。
「せやろうな、自分は千景とは他人やもんな、あくまで」
言われてちよを睨むと、ちよは意地悪そうに微笑んだ。
「もっと凄い人かと思ってたけれど、意外と自分、脆いな」
麗はちよを睨み続ける。
ちよは満足そうに笑うと、麗に背を向ける。
「そんなんじゃ、せっかく協力したるってゆーてる友人らが可哀想やわ」
くすくすと笑う。
「自分が中心やもんな」
そして、ちよは部屋の扉を思いっきり閉めた。
麗はそれを目で追った。その間無表情。
目線を窓のほうへやると、再びドアのあく音がした。
次に入ってきたのは、ちよではなかった。
麗がその顔をみて小さく微笑むと、少女は戸惑った。
「あの・・・」
園部歌波はうつむいた。
後ろ手でドアを閉めるが、目線は足元にやったまま動かさない。
「退院おめでとうございます」
その言葉に、歌波ははっとした。目を見開く。
そして、麗の姿を見る。
まだサポーターをつけたままの状態。どことなく痛々しい。
歌波は、言葉を発せずにいた。
しかし麗は黙って待っていた。ただひたすらに歌波を見ていた。
気まずい空気が流れる。
周りのベッドの人たちも、何だ何だと二人に注目をよせる。
入ってきた看護師が歌波を見て立ち止まる。
歌波はそれに気づくやいなや、「邪魔ですねすいません!」と慌てて部屋を飛び出していった。
残された麗に、看護師が近づく。
「歌波ちゃんと何かあったの?」
もちろん、歌波も入院していたのだから、名前は知っていた。
「何もない、っていったら彼女に怒られますかね・・・」
麗が窓のほうを見て言った。
「・・・二人、三階から落ちて怪我をしたってことだけれど、まさか、そんなこと」
看護師の懸念を、麗は笑って受けながす。
「まあ、麗ちゃんももうそろそろ退院できるわ。そうね・・・、麗ちゃん乙時雨中だったわよね?球技大会、でられそうね」
「球技大会? ああ・・・」
思い出す。
忘れていた。
受験に必死になっていたわけでもないのに、学校行事を忘れるなど・・・
頭を抱える。
「ちょっと響くかもしれないけれどねぇ。スポーツ好き?」
麗は首を縦にも横にも振らない。
「私の妹が乙時雨中なんだけれどね、去年、二年生にバスケ部でもないのに、凄くうまい子がいて、得点を決めまくって一躍有名になったかなりの美人の先輩がいるってきいたけれど、麗ちゃん三年生だっけ?もしかして知ってる?」
無視をしたわけでもないが、返事は返さない。
ただ、微笑んで話を聞いていた。
「そうは言っても麗ちゃんも美人さんだもんね。羨ましいな」
にこっと笑う看護師。
今度も麗は微妙に口角を動かしただけだった。