15-1, 新学期 -乙時雨-
「あーテストかあ」
冬休みも終えて、新学期。
怪我の軽い歌波はすでに退院していた。
「まだ先じゃない。2月末でしょ?」
空桜につっこみをいれる。
「だって、今回のテストひどかったら進級できないかもしれないよ!!」
「何いってんの。空桜ちゃんそんないうほど悪くないじゃん」
苦笑いの歌波。
「それに、頭の良い人って格好いいじゃん」
「・・・先輩みたいな?」
寂しそうな歌波に、空桜はにっこりと笑いかける。
「歌波もだよ」
「何よ・・・」
うつむく歌波。
「うららん、勉強教えてくれないかなー、ねえ?」
歌波の肩を叩く。
歌波は黙ったまま歩き続ける。
「どうしたの?まだどこか痛い?」
首を横に振る。
「なんでもないよ、大丈夫」
「そう?何かあったらいってね」
「ありがとう」
空桜ちゃんは
私のことどう思ってるのかな?
友達?
どんな?
どんな、友達?
*
──卒業式かあ
実行委員募集、と書かれた貼り紙を見て、春田紗優は感慨にふけていた。
──お姉ちゃんも、あと、二ヶ月で・・・
窓の外に映し出された空を見る。
青々とした、雲ひとつない冬の空。
そうだ、屋上に行こう。
私の大好きな、あの場所。
お姉ちゃんが間近に感じられる、あの場所。
階段をあがり、最上階。
この先には大きな空が広がっている──
重たい扉をあけようとしたとき、会話は聞こえてきた。
「答辞・・・?」
「うん。雨宮さんやるかわからないから、私かあんたかで考えといてって」
扉の隙間からのぞく。
真夜とまどかだ。
「やったら~?」
無責任に言い放ったのは真夜。
フェンスに手をかけ、空をぼんやりと眺めている。
「そうじゃないでしょ」
その後ろで溜息をつくまどか。
「雨宮さんやるかわからない・・・って。そりゃあ、まあ怪我でしばらく入院してるってきいたけれど、卒業式までにはなおるでしょう?どういうことよ、やるかわからないって」
真夜が突然振り返る。
「何故私にきくの?」
まどかは手をひらひらさせる。
「・・・答辞、やれっていわれたら、あんたやる?」
挑発する目で真夜を見る。
「そうねぇ、最後に保護者たちの前で良い子ぶるのもありかもねぇ」
くすくすと笑う真夜。
「やりたいの、新さんは?」
聞き返されて一瞬戸惑うまどか。
「名誉なことだとは思う。けれど、雨宮さんの代理、っていうのは嫌よ」
きっぱりと言い放つ。
「なら、彼女がやってくれることを祈れば?」
笑顔で返す真夜。
「ただでさえ授業あんまり出ていない人よ。任せて当日こなかったら?アドリブで答辞する?」
一方、まどかは焦っているようだった。
真夜は再び目をそらすと、くすっと笑って言った。
「できないの?」
「は?」
「彼女が来なかったら?私が即興でやってみせようか?ん?」
フェンスにもたれかかる真夜。
「面白い」
まどかは腕を組むと、賞賛の目で真夜を見た。
「じゃあ、私は出番なしでいいのかな。頼むよ。じゃ」
そう言って、まどかは扉のほうへ向かう。
立ち聞きしていた紗優はあわてて階段を駆け降りる。
「彼女が来なかったら、ね」
まどかの後姿に、真夜は叫んだ。