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2-3, 立雲と八代

夕暮れのまちを、立雲は歩いていた。

冷たい風が、彼女の短い髪をそっとなでる。


ふと、耳元にコツ、コツと、足音がひびきだした。

自分の近くによってくる、音の主など大体わかる。


「部活がえり?」

立雲は振り返りもせず、歩きながらそういった。

「じゃなかったらこんな時間に此処歩いてないよ」

後ろの影もまた、歩調を変えずに応えてくる。

ききなれた、優しげな男の声。

彼はとなりの男子校の、 私の大切な人。

「そういうと思った。 でも・・・ 何か用があるんでしょう?」

「まあ なくはない」

この会話に、感情がこもることはまだない。


「それで、何?」

立雲は一度、足をとめた。

後ろは少し驚いたような表情をしてから便乗した。

「まだ あの高校目指しているのか?」

立雲はふっ と微笑む。

「何、いきなり・・・。

 そうだね、あきらめるはずないよ。

 例え未来が・・・ 

 未来がいなくなってしまったけれど、私は目指してるよ。

 あなたもそうでしょ?」


「まあ」

素っ気無い返事をかわされる。

「久しぶりだけれど、素直じゃないのは変わってないね」

立雲は微笑を浮かべて歩き出す。


「ねえ、八代

 私は今まで恐れていたのかな」

立雲は小さく呟いた。

「乙時雨の生徒会長?」

「そう・・・ あの不幸なめにあう、っていう噂は

 未来があんなことになる前まではなかった」

微笑が憫笑にかわっていく。


「私はあの事実を受け入れられなかった

 だからわざわざ編集試験うけてさ、刃流にうつったよ。でも」

しばらく間をおいたのち、立雲は振り返った。

「誰かが、私が雨宮さんと似ているといった」

八代と呼ばれた彼は、無表情だった。


「そうなのかな・・・ 私は雨宮さんと似ていますか?

 そう考えたら・・・ 彼女はそんな恐ろしい人でもないのかなと」

立雲は前を向きなおす。無表情で、八代はきいている。

「だから吹部を使って、乙時雨にいった。

 生徒会長さんとも会えるのかなって」

「それで」

人が話している時は普段、興味無さそうにきいている八代が珍しく、

話をうながした。


「でも勇気がでなくて、向こう側の吹部の部長さんにあってお終い・・

 何度いっても。

 私は一度だけ、雨宮さんの姿をみたことがある。

 ツインテールをしているのに腰まであるって、長い髪よね

 前は膝まであったって噂できいたけれど」

「随分と幼い髪型なんだな」

感情のこもっていない会話。

八代は橙の空を眺めているし、立雲は足元をみている。


「話してみたいのに、言葉がみつからない。

 そっか、私達もそうだったね。

 私と八代と未来たちと初めて一緒にでかけたときも、そうだったね。」

「あの二人にはとくに興味もなかったからな」


「未来はね、完璧だったよね。 学級委員としても、

 ・・・選挙管理委員長としても。

 私は憧れていたよ。 恋愛だって欠かしていなかったし、両立でしょ。」

「君は?」

思いがけない応えに、一瞬戸惑った。

「恋愛に部活・・・ もう大変だよ、八代」

が、立雲は愛らしい笑みを浮かべて振り返った。


「私にはとても厳しくて、もう無理そう。

 文化祭での発表は人数不足で違う部の子雇うはめになるし、

 どこかの誰かさんも全然連絡くれなかったし。」

「こっちもこっちで忙しいからな」

どうしてこの人はそう、冷静というか、なんというか。

人の話、自分に関係あるところしか聞いていないし。

思わずため息をもらしてしまう立雲。


「まあそんな八代が好きだよ」

立雲が再び笑いかけると、今度は八代も微笑み返した。

「知ってる」










──・・・


立雲を家までおくりとどけた後、八代はある人物を見かけた。

かよっている中学の卒業生、つまり先輩。


立雲は例の生徒会長と話してみたいといっていた。

恐れていた、とも。

だが自分には大して関係のない話だ。

春田未来を友達と思ったことなんてなかった。

むしろ、気にしたことすらない。


彼女がいなくなったとき、立雲たちは悲しんでいた。

自分だけが平然としていたらしい。

そんな八代に、声をかけた人がいた。

雨宮啓とその人は名乗った。

麗の兄にあたる人物───・・・


「お、八代じゃないか デートの帰りか?」

向こうも此方に気付いたようだ。

大きく手をふってくる。


「制服でデートなんてしませんよ」

無表情で応えると、啓は憫笑を浮かべる。

「そういうと思った。本当よくわからねーな、中学生って」

「妹さんとうまくいってないんですね」

ズバッといわれ、啓の顔に図星という文字が浮かび上がる。


「本当シスコンですね そんなだから彼女できないんですよ」

──くそっ 変わっちゃいねぇぜ、こいつ

八代を見ていると、ニヤニヤと憎まれ口をたたかれるより、

無表情でさりげなくいわれる皮肉のほうがいたく感じてくる。


「そうだな、シスコンだな・・・ うん、そうだよな・・・」

「あなたみたいな外れた大人にならなければ良いですね」

「そうだな・・・・  って、八代っ!」

叫んだときにはすでに、八代の姿は消えていた。

「あのやろう」

外れた大人は、街中で怒声をあげた。

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