14-6, 先生たちの新年会
元日夜、某所。
「新年あけましておめでとうございます!」
「はい、あけましておめでとうございます!」
乾杯する数人の大人たち。
それは、乙時雨の先生たちの新年会。
もちろん、元旦は家族で過ごしたい、という人のために、自由参加にはしてあるが、毎年かなりの人数が集まる。
「さあ、そろそろ山場ですかね」
「受験ですか」
「三年生の担任はやっぱり今の時期大変ですよね」
「そうそう。」
「でも、今年はなかなかじゃないですか?とくに上位三人」
「雨宮、春日崎、新、ですね?」
「よくご存じで」
まわりに丸聞こえなひそひそ話をはじめる数人。
どうやら、三年生をもっている先生たちのようだ。
「先生方そんな話していいんですか~?プライバシーにかかわりません?」
「いいんですよ、ここだけですから」
「まったくもう」
ほかの人たちはかるくつっこんで、そちらの話に戻る。
そして、三年生の担任たちだけの会話がはじまる。
「進学希望はどうなってるんですか?」
「雨宮は刃流になってますね。本人、あまり進学に興味がないようで、
無理やり書かせた感じですので…信憑性にはかけますよね~」
「もうそろそろ願書もチェックしないといけないころなのに?」
まわりが驚く。
「超人的な点数をたたき出してるわりには、って感じですよね」
「出席日数は大丈夫なんですか?」
「ああ、ぎりぎり足りてますよ」
「なるほど…そこまで計算済みというわけですか」
雨宮麗がこの頃ほとんど授業にでていないことは、ほかの先生たちにも知れ渡っていた。
誰にも気にする勇気がなく、放ったらかしにいていたのだが。
「あの成績ならもっと上を目指せるのに。もったいないですね。」
「上を目指す、といったら新は頑張ってますよね。」
「そうですね、一応推薦が決まっています。」
「春日崎はどうなんですか?」
「ああ、彼女は留学ですよ」
「留学?」
それをきかれた英語科の教師は、あたりをみまわしてから、声を小さくして言う。
「実は、本人は近くの高校でいいといっていたんですよ。
それでですね、前に二年生の子に、彼女は留学させるべきだとすがられまして」
「ええ?後輩がかわりに、ですか?」
小さな声で叫ぶまわりの先生たち。
「はい。彼女、英国とのハーフなんですが、そちらに留学したかったらしいんですよ」
「では何故近くの高校で良いと?」
「それがですね…」
こたえるのを一度ためらうが、決心する。
「本人と一度話をしたんですが、どうも彼女、両親が亡くなっているようで…、世話になっている親戚の方に、お金をださせるなんてことはしたくないようで」
「奨学金制度を利用すればいいのに」
「そうなんです。でも、その事実が親戚のかたにしれれば、余計迷惑をかけるだろうとか、そんなこと考えていたんじゃないでしょうか」
「ではこっそり推薦するおつもりですか?」
「はい。成績も十分ありますからね… …でも、これで良かったんですかね」
迷っている。
本当に、その英語科教師は迷っている。
それが、まわりにもじわじわと伝わり、重たい空気が流れ始める。
その横では、一、二年の先生たちが騒いでいるが、誰もこちらを気に留めない。
「良かったんですよ…」
誰かがそういい、そして皆がうなずく。
それ以上の話題は、しばらくでてこなかった。