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14-5, 三階の窓

「いや~さっすがうららん、大吉ひくなんて!神様にも好かれてるんだね!」

しぐれと空桜は、帰り道を歩いていた。


「ほんとほんと!それに比べてしぐは吉だよ~つまんなーい。でもさ、どうしたんだろうね?うららんと歌波ちゃん、一緒にいっちゃったけど」

「うん。あの二人、仲良くなったのかな?」














「何ですか」


歌波の家に案内された麗は、客間で歌波を警戒していた。

家には二人以外誰もいないようだ。


「ちゃんとお話するのは初めてですよね・・・」

「はあ」

確かに、普段二人きりで話すことといえば、委員会のことなど事務的なことばかりだ。


「夜景、綺麗じゃないですか?低いですけれど」

窓の外を指差す歌波。


そこはマンションの三階。わずかに、街明かりが見える。


「良いですね」

外を横目に見て、答える。


そこは、広いとも狭いともいえない、ごく一般的なマンションの一室。

もちろん、しぐれの家や、麗の元の家と比べるとだいぶ小さいのだが、暮らすにあたって支障はなさそうな、快適な空間である。



「なんか、急にすいません」

麗の顔を見ないで言う歌波。

「…僕に何をもとめているんですか?」

歌波の背中に問いかける。



「・・・あなたの怨みを買った人間には不幸が訪れる」

つぶやく歌波。

「先輩は、自分を不信任に入れたたった3人を、恨んでいたんですか?」

「どうでしょう?」

即答。



もう、いい加減どうでも良い迷信だ。

だが、歌波にとって、それはとても大事なものだった。

「私が思うに、あれは先輩の意思じゃない」

麗を目をあわす。


「周囲の人間がそうさせた。勝手に先輩を持ち上げて、そして気がすんだらつきおとすんです。先輩は、いわば被害者ですよね」


「で?」


「なのに、どうしたらそんな平然としていられるんですか?空桜ちゃんたちのおかげですか?そうですよね、良い友達さえいれば」


窓に手をかける歌波。


「私は、良い友達にはなれなかった」


下を見下ろす。

暗くてよく見えないが、決して高くはない。



「先輩のことが嫌いだった人のなかに、自らの意思で亡くなった人がいるのなら・・・ その中には、先輩の噂をでっちあげるために自ら犠牲になる人がいてもいいんじゃないかって思うんです」


窓の外を呆然と眺める歌波の肩を、麗は後ろから引き寄せた。


「僕は他人に嫌われようと構いません。僕を嫌う人が、僕をどうしようと、それが他人であるならば、仕方のないことなのかもしれません」

静かな声で麗がいう。


「僕には何もできない」

真剣に、ただ歌波を見つめる。


「先輩は」


歌波は、そっと息を吸うと、言葉を発した。


「先輩は、知らないんです」


「知らない?」


「あんなのはただの迷信です。ばかげた噂に過ぎません。でもね、先輩のせいで不幸になった人がいないとは限らないじゃないですか」


「あなたですか?」

すぐに言葉をかえすと、歌波は目を丸くした。


「いえ・・・ 私は、幸せです」

空ろな目で答える。


「愚かなくらいに幸せなんです。こんなの、ゆるされないってくらい。あの子が不幸になるのに反比例して、私は・・・こんなにも幸せなんです」


歌波は、窓枠にかけていた手に力をいれると、体を浮かせた。

慌てて戻そうとする麗。


「待って、教えてください」


腕が震え始める歌波。


「何故、僕をここに呼んだんですか? ・・・三階から飛び降りて・・・ どうするんですか?」


何も言わない歌波。


「きっと、あなたの大切な誰かを・・・僕は不幸にしてしまったんでしょうね。だから、見せ付けたいのですか? ・・・構いませんよ?」




もう


誰も傷つけたくない



でも、 今の僕には───

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