14-4, 一月一日 四
空桜たちが騒いでいる別のところでは───
「あら、中吉?」
おみくじの結果を無言で読んでいた真夜に、声がかけられた。
振り返ると、着物姿の新まどか。
豪華にしてはいるが、どうやら一人できているようだ。
「あけましておめでとぉ、新さん?」
「ふふ、あけましておめでとう、春日崎さん」
笑みをかわすがお互い目が笑っていない。
だが、そんなのは日常茶飯事で、まわりから見ると異様なオーラを放つ不思議な二人にだが、本人たちに気にする様子などない。
「あなたの服のセンス、相変わらず素敵ね?」
「うふふ~ありがとう~わざわざ褒めてくれてぇ」
皮肉を皮肉で受け止める真夜。
──わざとやってんの、これ?
うざさを感じつつ笑顔を保っているまどか。
「あなた最近勉強してるの?学年末は勝つよ?」
「なぁに?学年2位の座が欲しいの?それだけ?」
その言葉にはっとする。
自分が目指しているものは、悪魔で2位。
今まで、自分が一番じゃなきゃいやだった。
優等生を演じて…純粋なガリ勉にだってうちかって。
前回、はじめて順位を張り出されることになったとき、期待した。
私が… 私がって。
本当は…新入生代表挨拶だって、私であるはずだった。
でも、私は負けた。
受験の成績から、あの人はきっと満点だったんだ。
勝てるはずない。
でも、あきらめる?
頭のよさが半端ないといえど… 前回の雨宮の点数は499。
全教科満点なら、雨宮にかてるかもしれないし…
勝てずとも、1位にかわりはないし、春日崎にだって勝てる。
「っていうかさ」
我に返る。
いけない、すっかり考え込んでいた。
「どうしてそこまで順位にこだわるわけ?自分のベストだせればそれでよくね」
どうして…?
それは…
順位があれば…親に 先生に 友達に 認められるから…
春日崎さんあなたは そんなことはどうでもいいといいたいの?
認められたくはないの?
もう、今のまどかには、真夜の口調の変化など屁でもない。
「認めてもらうって、誰に?」
誰にって…
「誰もいないの」
「…でも、あなただって見栄をはって」
どうして?
どうしてそんなことをいうの?
私の今までの人生をめちゃくちゃにしたいの?!
「あんたはいいよね、自慢できる相手がいて」
は?
「それに比べて私は…誰に、いったい誰に!頑張ったってことを伝えれば留学できるのよ!高校!」
高校…?留学?
「私にはお金なんてない。あんたみたいに裕福じゃない。そりゃ、家が貧乏とか、そういうのじゃないけど…
でも…今の私は貧乏人となんら変わらない!言えないもの。
私頑張ったから留学するお金だして、なんて、間違っても言えないもの。
ならどうすればいい?留学して、幼馴染とあって、一緒に暮らすには、どうしたらいいか?
そんなの一つしかないでしょ?頑張って、自分のために頑張って…奨学生として…推薦してもらうしか…」
息をきらす真夜。
──こんな春日崎さん、初めて見た。
率直な感想はそれだった。
この人は、私と同類なのだと思っていた。
見栄ばっかはって、本当の自分をどこかに隠して…
でも、彼女は違うんだ。
本当の自分を、ちゃんと胸に秘めてるんだ。そして、ちゃんとそれを伝えられるんだ。
自分は違うんだって。
そうだ、私とは違うんだ。
私と違って、彼女はものすごく強いだ。
なんだか私、ばかみたいだ。
なんのための見栄なの?なんのために優等生ぶってるの?まわりの評判?ただそれだけ?
「…まわりに認めてもらえればね、きっと先生たちも見てくれるだろうって思って
だから内申とか、すごく大事にしてる。それはね、順位とかの問題じゃなくて、私のなかのベストなの。
人に負けたくないのは、見栄とかそんなじゃない。ただ相対評価で高い点をとるためよ」
凄い。尊敬してしまう。
春日崎なのに…
気持ち悪い性格で定評のある、いつも先生の前ではいい子ぶってる…二重人格を意識してやってるような…
そんなキャラだと思ってたけど
ちゃんとした理由があるんだ
「ごめん」
「は?」
「誤解してた」
「なにを~?」
でも、やっぱりうざいのにかわりはないか
いつも通りの真夜に戻り、少し安心している。
「…新年早々ばかな話したなって」
「本当にねぇ」
それなら、自分もいつも通りで構わない、よね?
「意外と自己主張激しいのね?春日崎さんて?」
「そうかしらぁ~?でもねぇ、私は私で、新さんは新さんであるわけだからぁ、別に順位を第一に考えてるなら私は否定しないかな」
「…なんかいいこといったね」
「でしょ」
そっか。
私は私だよね。
今までの私をつぶされたくない。
認められたいという気持ちを抱くのは、私の自由!
なら、私は!春日崎さんにも!雨宮さんにも!勝ちたい!
「でも」
…でも?
「負けるつもりはないよ?」
「っふふ、私だって」
今度の笑みは、正真正銘、心からの笑みだった。