14-3, 一月一日 三
「遅かったね!何してたの?」
そんな問いに、笑ってごまかす麗。
「ねえねえ!お賽銭しようよ!」
しぐれがはしゃぐのをみて、麗はそれについていく。
歌波と空桜は顔を見合わせながらも、それに便乗した。
「知らなかったよー」
後ろでゆっくり歩く立雲と八代。
「八代の友達にあんな凄い人がいたなんて」
その言葉に反応したしぐれが、二人のもとへ引き返してくる。
「凄い人って~?」
「あのね、初浦の理事長の息子さんと友達だったんだよ」
嬉しそうに話す立雲。
それをきいて、しぐれは凍りついた。
「初浦って、あの男子校だよね?」
空桜が歌波に問うと、歌波はぎこちなくうなずく。
歌波の異変に気がついた立雲が、顔を覗き込む。
はっとする歌波。
急に赤面する。
「えっと、それって青葉君?」
小声で問う歌波。
「そうだよ。知り合いだった?」
立雲が相変わらずの笑顔で問いかける。
顔を隠そうとする歌波に、空桜が飛び掛る。
「なーにー?いっちゃいなよ!もしかして歌波の好きな人~~??」
そんなことを言われて、余計赤くなる歌波。
「え、図星?」
その言葉に皆がどよめく。
「ち、ちがうの!ほら、空桜ちゃん、彩葉ちゃんってしってるでしょ」
うなずく空桜。
「幼馴染だよね?確か」
「うん。青葉君は、その、彩葉ちゃんのお兄さんだよ。今三年生だったかな」
「じゃあ従兄弟!」
「そ、そうだよ」
その場がさらにどよめく。
「え、じゃああなた、初浦の理事長の姪ってこと?!」
「…そうなりますね。ずっと黙ってたんだけど、うちの母親の旧姓、初浦なの。その、お母さんの兄にあたる人が、初浦の理事長…ってわけなの。だから何って感じだけどね」
何かをごまかして微笑む歌波。
鈍感な空桜や、とくに気にした様子を見せなかった立雲にはわからなかったが…
その場でただ一人、八代はなにかを感じ取ったとでもいうように、険しい顔をしていた。
やがて歌波も気がつく…。
先ほどから麗が一言も言葉を発していない。
顔を覗き込むと、目があったが、麗は無表情だった。
───なに?なんなの?
歌波は考える。
もう一人、別のことを考えている人がいた。
しぐれだ。
隣の男子校の理事長の姪…か。
確かに驚きではある。だが…凄いだなんて思わない。
だって自分は─── 言えない。
もう、軽蔑されたくない。
唇をかみしめるしぐれに気付かず、歌波は冷や汗を流していた。
───でも、いい機会だよね。
・・・うん、これで、よかったの?
…よくないといったところで、私に何ができる…?
黙ってみているしかできないのよ…?
…これで、いいのよ
「ねえ、先輩」
空桜たちが楽しげに笑っているそばで、歌波は麗に耳打ちをした。
「今晩、ちょっと付き合っていただけませんか・・・・?」
麗はそっと歌波の顔をみる。
真剣な表情だ。
「なーにしてるのっ?はやくお賽銭しようよ!」
突然わってはいるしぐれ。
麗は、歌波を睨むのをやめ、しぐれに微笑みかけた。
きょとんとするしぐれの頭に手をのせる。
「いきましょうか」
*
───これで良かったのでしょうか
麗は迷っていた。
───でも 後悔は・・・
これで、良かったんですよね