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2-1, しぐれの友達

気持ちの良い朝だった。

彼女にとっては、とても・・・ とても気持ちの良い朝だった。


「もう11月かー。文化祭ももー何週間後だし〜。 はやいなぁ〜」

そんな会話が耳にはいってくる。


そう、彼女のかよっている刃流学院では、いまが文化祭シーズン。

──面倒臭いよなぁー。 乙時雨は二月なのにぃー。

・・・参加しなくていいよねぇ・・別に・・。


やる気なさげに、彼女は廊下を歩く。

声をかけてくれるような人はいない。

だが、こちらをみてくすくすと笑う者は在る。


──別に、いい。 もう友達できたから、こんなとこで笑われたりしてても、いいもん。

今度は逆に彼女が微笑した。

窓の外をみる。

向こうの方にみえる、高等学校。

──うららんと・・・、空桜ちゃん♪  ・・・でも。

目線を上にずらす。

青白い空がみえる。

──うららんのお兄ちゃん・・・かっこよかったっけ・・会いたいな・・・

彼女の頬は赤く染まっていた。














キーンコーン カーンコーン──・・・・


やってきた昼休みはいつもどおり、暇なものだった。

とくにしたいこともなく、中庭で草をちぎって遊んでいた。



「草が可哀想」

ふと、うしろで声がした。

振り向くと、二人の少女がたっていた。

見覚えの・・・あるような、ないような。


一人は嫌そうな表情をしている。

「奏さん 小学校のとき、クラリネットやってたんだって?」

無表情で問うもうひとり。


「はぁ」

いきなりきかれても、わけがわからない。 

小学校のクラブで、クラリネットを担当していたのは事実なのだが。

「文化祭で吹部の発表があるのですが 急に人手がたりなくなってしまって・・・

 奏さんなら ふけるとおもって」

感情のこもってない声、 麗を想像してしまう。

いや・・・ この人はちがう。なんだかすこし、違う。


「代理にやれと?」

「うん、無理なら別に」

真剣さもなにもないのに、強引に誘っている感じのその言葉。


断ろうと思った。 だが。

「あのさ、嫌ならはっきりことわりなよ。」

後ろで眉間にしわを寄せている子が口を開いた。

その発言がうざったかったから。

「じゃぁやりますよ!」

そういったら、舌打ちされた。

「なんなの?あんたがしぐ嫌なわけぇ?ならいいよ??」


「いや、困ります」

「りっちゃんー いーじゃんそんなやつじゃなくてもさー ほかに代理とかいるって」


「なにいってんの?」

「だってりっちゃんさ、こいつってあれじゃん、ほら、噂の一年生・・・」

やはり最終的にはしぐれの悪口になってしまう。


「帰っていいよ?」

「りっちゃん・・・・・・そう!わかった。もうしらない。趣味悪いことくらい自覚しておきなよ!じゃあね!」

しぐれを無視して、別の話をする二人だったが、

舌打ちをしたほうは、つれない表情でそのまま去っていった。

もう一方・・・・、は 相変わらず無表情である。

──この人・・ やっぱうららんに近い存在・・・ なのかなぁ??


「奏さん やってくれるよね」

「はぁ・・・・」

反論のためにやるとはいってみたものの、本当はやる気なんて全然ない。

できればそんな面倒くさい打ち合わせのはなしはしたくない。

だが今更断るわけにもいかないような気がした。

相手が・・・ 麗に近い・・そんな人に思えたから。

「あ・・・ しぐれで・・・・いぃ」

とりあえず話題をそらしてみる。


「私は立雲(りつも)。3年生。

 奏さんバド部だから、吹部にうつれとはいわないけど

 その、そちらの部長にも相談しておかないといけないよね?」

──ああ、面倒くさい話だ。

 でも、本当に似てる。 あの時のうららんに、にてる。














───それは・・・ まだ小学生だったころ。

入るクラブがなく悩んでいた自分に、彼女は声をかけてくれた。


「吹奏楽部に、どうですか?」

「え?」

突然声をかけてきたその人は、全然知らない上級生。


「あの、あ、あたしぃ、運動部に・・・・」

「あ、そうなんですか すいません」

彼女は残念そうな表情をする。

それを気にしてしまうしぐれ、

「で、でもっ 音楽も好きだし・・・・ その、どんなことするんですか?」

とりあえずきいてみようと思った。


とりあえずだった。 だが・・・、

「自由気ままに吹いて奏でて楽しみます」

「吹奏楽・・・・」

上手かった。ユニークなこたえ。

よく意味がわからないけれど、なんだかひきつけられるような、そんな気がして。


「入ります・・・ 入りたい。」

それは正気だった。

しぐれのこたえをきいて、彼女はにっこりと微笑んだ。

・・・可愛い。


「あの、何でしぐに・・・?」

「さあ? それにしても素敵なお名前ですよね、奏さんて」

「え?・・・あのもしかして、苗字みてきめたんじゃ・・」

「あ、そうそう 自己紹介まだでしたよね。 雨宮麗です。よろしく」

「よ、ろしくです!!」


緊張しかしていなかった。

年上なのに、敬語?堅苦しくて、なんだかよくわからなくて。

でも彼女はとても、魅力的な人だったから。









──そして時はすぎ、今年の・・・ そう、四月。

部活見学をしていた頃だった。


「奏ちゃんはバド部はいってくれるんだよね?」

吹奏楽をつづけようと考えていたのだろうが、

入学式でやさしくしてもらった先輩に勧誘され、断れずにいた。


「五月はじめに、乙時雨との交流試合があってさ、

 向こうの部長とはなしにいかなきゃならんのよー。奏ちゃんついてきてくんない?」

「今から?」

「うん そりゃ。」

「・・・・・」

断れなかった。

自分が理事長の娘であることは学校中の誰もが知っていた。

だが彼女はそんなことはまったくお構いなく、やさしく接してくれた。

当時は"友達"なのだとおもっていた。 しかし違った。

単に部に勧誘したいがためにそうしていただけだったのだ。

そのとき彼女は先輩をしんじすぎないようにしようと決めた。


それに、乙時雨には・・・・ 憧れの人がいる。


ついていった乙時雨。

先輩はいっていたとおり向こう側の部長と交渉している。

それゆえに自分は暇人であった。

仕方なく校内を放浪してみることにした。


もしかしたら、会えるかもしれない。


ふと・・・、"生徒会室"の表札がみえ、足をとめてみる。

──生徒会?ちゃんと活動してるんだなぁ・・・

考えていると、扉があいた。

ドアのぶを握っている美形な彼女。ツインテールがよく似合っていて可愛らしい。

それはしぐれのよく知っている人、そして探していた人だった。

「麗ちゃん!」

彼女はすっと微笑み、

「どうぞ?」

と手招きをした。


入ってみることにした。

中はなかなかひろく、和やかな空間だった。

ソファーに腰をおろすと、二つ結びの彼女が口をひらいた。

「何、してたんですか?」

「あ・・・ 暇だったからぁ・・・」

久しぶりに会った憧れの人は、とてつもなくイメージチェンジしていた。

「そうですか どうでしょう?この学校は」

予想外だった。

優しげな瞳。ただ、前髪でかくれていて右眼しか見えない。


「良い・・・ 学校ですね」

かえす言葉が思い浮かばない。

前とはまったく別人のよう。


「ありがとうございます。 その制服は刃流ですね、しぐれ」

「!」

──名前覚えててくれてたっ・・・

同じ人・・・・なんだよね。嬉しい・・。


「そう、刃流。 あの・・・ 麗ちゃん・・・・、どうして生徒会室に」

「此処の生徒会長をつとめさせていただいているからです」

「生徒会長・・・・・・。」

うつむくしぐれ。

「何か・・・ お悩みですか?」

感情のこもっていない声で、そう問われた。

「えっ?!えっと・・その・・・部活見学で・・」

「ああ、バド部の交流試合?」

「そう・・だけどぉ・・、吹部も続けたくてぇ・・」

顔をあげると、麗は窓のそばで外を眺めていた。


「・・・・・・」

沈黙が流れる。



ふと、麗がふりむいた。

「誘われたから、とはではなく・・・ 本当に自分がやりたいほうを選べば良いと思いますが」


「え・・・ あぁ・・・うん」


「あなたの部活を決める権利があるのはあなた自身だけですから

 吹奏楽部でもバドミントン部でも・・・・ 好きな方選べば良いのです。

 ただ、勧誘していただいてる方とも相談しておいた方が良いとは思いますがね?」

「はい・・・・」










──・・・・


結局入ったのはバドだった。

バド部なら、交流試合でまたこの学校へこれる。

またあの先輩に、あえる。

そんな理由で私はあの勧誘を承諾した。


だから・・・ また会えた彼女と仲良くなれたことが嬉しかった。

"友達"として認めてもらえたことが嬉しかった。


そしてこの人も、そんな彼女に似ている。

だから・・・ 多少、めんどうくさくても。


「部長と顧問にいってきますねぇ」

「有難う御座います」


勇気をくれた。空桜ちゃんと、そしてうららんが勇気をくれた。

だから・・・ いまなら、"友達"をつくれるような気がした。

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