11-3, 空桜と歌波の水曜日
「ふわ~っ・・ 眠い・・」
「ねたら?」
心地良い風。
隣には爽やかな笑みを浮かべた歌波。
昼休みの生徒会室
そこに麗の姿はなかった。
仕方なく一人で屋上へ向かうと、その途中歌波に誘われた。
そしていまに至る。
「屋上って案外静かだよねー」
毎日のようにきている場所。
でも 毎日のように変わる雰囲気。
「もう寒いからね。中庭とかはまだまだ人気なのに」
フェンス越しに見下ろす。
乙時雨の中庭が一望できる。
遠くには、かすかに刃流が見える。
「私高いところ好き」
歌波の髪が風になびく。
「へえ。イメージ的には高所恐怖症って感じだったんけど」
「よくいわれる」
笑いあいながら、二人はその場に弁当をひろげる。
「あ!サンドイッチ!」
「うん 手作りなのー」
「凄いね!歌波いいママになるよ」
「本当?」
歌波も空桜も楽しげだった。
ただ ほんの、一瞬だけ
「・・・歌波っていつも自分でつくってるよね。大変じゃない?」
それが苦笑となっていた。
「まあ、料理は・・嫌いじゃないし」
歌波の目がおよぐのを、空桜は見逃さない。
しぐれやうららんと接して こういうとこ、敏感になった。
でも歌波はとくに何も 悩んだりとか、してなさそうだし。
と、足音がした。
期待していた。
振り返ると、階段をあがってきたのは二年生だった。
・・やっぱうららんこないか。
「こんにちはー・・」
歌波はふつうに礼儀正しい。
先輩方は軽く手を振り、反対側へと向かった。
一人がこっちをにらんでいた気がした。
・・・気のせいだよね。知らない人だもん。
「歌波って真面目だよね」
「んー・・ 空桜ちゃんっていろんな先輩と仲良いよね。
だからなのかな。 なんか・・・疎いなって思うの」
疎い?
「ほら、私が真面目なんじゃなくて 先輩に挨拶ってふつうだと思うの・・」
・・・そうかな?
・・・確かに この一か月間で色々な先輩と親しくなった。
けれど、先輩は先輩だってきちんと思ってる・・・
・・・うららんは友達
・・・よくよく考えたらあたし、馴れ馴れしすぎたのかなあ?みんなに。
「でも、それも良いとこだよ、空桜ちゃんの」
やさしげな笑みをみていると、麗を思い出してしまう。
今日まだ一度も会っていない、ただそれだけで とてもさみしい。どうして?
あたしにも・・ さみしいって感情があったっていいじゃない。
つらいとき 友達は心の糧となるのだから。
「・・そうだよね。仲が良いならいいとして、先輩には謹んで接するべきだよね」
「謹むって・・・」
楽しそうだった。
歌波はいつも 楽しそう。 ・・・朝はよわいけど
あたしももっともっと 人に好かれる人間になりたい・・・な。