10-3, 初めての贈り物
「うららん、いる?」
次に生徒会室のドアをあけたのは空桜だった。
いつも以上に楽しげな表情で、入ってくる。
麗も自然と笑顔になる。
「どうしたんですか?」
よんでいた本をとじ、椅子をすすめる。
「あのねっ もうすぐ12月でしょ?
12月といえばクリスマスでしょ?
クリスマスといえばパーティでしょ!」
やけに顔が近い。
「それでー、しぐれんちで、やらない??」
麗の笑顔が一瞬凍った。
「しぐれの・・ですか? そう・・・ですねぇ」
視線をそらす。怪訝な表情で空桜がみつめる。
短い沈黙が流れてから、麗は賛成した。
空桜はよかった~と満面の笑み。
それみて、苦笑する麗。
しぐれの、家。
心のなかで何度も自分にいいきかす。
きっと大丈夫、ですよね・・・。
何度も、何度もひびかせる。
「・・・体調悪い?」
「え!いや、そういうわけでは・・・
・・・えっと心配してくださったのならごめんなさい」
「あ、うん・・・」
雰囲気が気まずくなってくる。
不安そうな空桜は、らしくない。
麗が笑ってごまかしても、きかない。
「何かあるんだったら、相談・・・してよね」
寂しげにつぶやく。
そして立ち上がり、椅子をひく。
出ていく間際
空桜は振り返り 再び微笑んだ。
麗の頬がほんのり 赤くなった気がした。
・・・クリスマスパーティといえば、プレゼントが必要ですね・・・
景色をながめながら、麗は考えていた。
そして、思い出していた。
──・・・
「今年はサンタさんに何お願いしよ?」
走り回る少年の姿、
幼き日の自分の姿。
当時高校生だった兄が、園児の弟に笑いかけている。
麗は部屋の端でひとり、読書していた。
「麗は何かほしいものあるか?」
兄の声が耳にとどく。
「ない」
けれど、本当はあった。
お金で買えないものがずっと、欲しい。
サンタは毎年兄だった。
両親に何かを買ってもらった記憶は、まったくといっていいほどない。
それ以前に
両親を愛した記憶も 愛された記憶も
彼女にはなかった。
自分を愛してくれたのは 兄と弟だけだった。
「姉ちゃんなんで欲しいモノないの~?
ゲームとかお菓子とか、いっぱいあるじゃん!」
渉はいつでも楽観的だった。
両親が亡くなるその日まで。
「渉はお願いしたら」
簡単に手に入るようなものを欲しいなんて 思ったことはなく
毎日ただ つまらない本ばかり 麗は読んでいた。
だから啓からのプレゼントも 何らかの本であることが多かった。
それも、啓の好きな歴史の本。
興味があったわけではない。 けれど、兄がくれたから。
だから、四六時中読んでいた。
「じゃあ、もし姉ちゃん何か欲しいモノできたら、かわりにお願いしてあげるからね」
啓も渉も、やさしかった。
そんな二人に 今まで一度も 贈り物をしたことがない。
今更、気付いた。
「とりあえず、四人分かっておきますか・・・」
生徒会室で、ひとりつぶやく。
「・・・・立雲さんや紗優さん・・は・・・ ・・・」
外を走るバド部を眺めながら、数えていた。