1-5, お嬢様
「駄目だったね・・・」
空桜は生徒会室から追い返され、近くにある中庭で、空をながめていた。
「もうやめようよ、空桜ちゃん。あんな人信じるのやめようよ」
歌波は相変わらずうつむいている。声が多少ふるえている。
その弱弱しい格好をみて、空桜は怒りをひろった。
「は?何いってんの?歌波なにいってんの??
会長別に何も悪くないしやさしい人じゃん!なんで信じちゃだめなの?」
ただ、おもいをぶつけただけだった。叫んでみただけだった。
「だって・・・ だって私たち、もしそれで失敗して不幸な目にあったらどうするの?」
歌波は恐れている。麗の存在を恐れている。
空桜は一瞬目を大きく開き、そしてつらせる。
「・・・・・・おこらないよ。 自分を信じた人を不幸にするはずない!!!!」
叫んだ。
信じたい、その気持ちを叫んだ。
大きく強く、ぶちあけた。
歌波の震えがとまる。
・・・・何だ・・・あれは・・・・
先ほどからそこで寝ていた少女も空桜の怒声で目を覚ましたようだ。
うららんを・・・信じている人が・・・・いる?
ぽかんと口をあけ、彼女は空桜の真剣な瞳をみつめていた。
鳴く鳥も限られてくる十一月の空。
芝生という名の黄色いじゅうたん。
「のどかなのに・・・・。」
うららんだって・・・・。
制服のリボンをほどき、西へと向かう太陽にかざす。
そしてすぐに結びなおし、すっと立ち上がると空桜のほうへとむかった。
「あんたは・・・ うららんのこと何で信じようと思ったわけ」
話しかけると彼女らはぎょっとした顔つきで
「しぐれ?!」とはもる。
先ほどまであれだけ幼稚であったというのに、
今はまるで、まったくの別人であるかのような冷静さをもった彼女。
「何で・・・ あんな恐れられてるような人信じようとか思えたわけ」
「だ、って、だって、会長は、、、 やさしい人、だから」
そんなしぐれが不気味で、言葉が途切れ途切れになってしまう。
「あ、あ、あ、あんただって・・・、会長のこと信じてるでしょ?」
「・・・・・・」
固まるしぐれ。
「なんで・・・ なんで戸惑ってるの?!友達なんじゃないの?!」
「友達・・・・・?」
"友達" その言葉が脳内を廻る。
「ちがう?の?」
──うざいよねー、社長令嬢で?しかも理事長の娘?何でもできるんだろ、うぜぇ
─友達ってのはさ?もっとうちらみたいな庶民がつくるべきもので?
あんたには必要ないだろどうせ。オジョウサマ。
「うららんは・・・・・ しぐの・・・友達・・なの?」
声がふるえている。
「だってそうでしょ?!」
普通にいったその言葉。 それがしぐれの胸に響いた。
今に泣きそうな顔をしている。
歌波も少し・・・ どうようしているようである。
空桜の目は純粋に輝いていた。
夕暮れの紅い光をあびて、茶色くそまっていた。
真直ぐと、前をみていた。
しぐれにはそれが羨ましかった。
前を向いて歩いていける彼女が。
今までうざいといわれ続け、それにすっかり慣れてしまった自分。
そんな自分が情けなく感じてくる。自分にも・・・・ 友達が?
彼女は自分を、友達・・・と?
わからない。
でも、この人だけは・・・。
「友達・・・だよね?」
ほしかったもの。
ずっと、ほしかったもの。
でも・・・ 無理だと思い、あきらめていたもの。
「ほーらー・・・!あたしも友達になってあげるから!!!ね?
会長も友達なんでしょ??」
友達になってくれる。
その言葉が嬉しい。 今までのなにより、嬉しかった。
裕福すぎる家に生まれ育ち、家にいても退屈、外へでても相手にしてくれる人が数少なく
ずっと一人・・ さみしかった、孤独なお嬢様。
でももう違うんだ。
嬉しすぎる言葉をもらった。
「うんっ!!!」
元気よく、しぐれは応えた。