10-2, 歴史の本
「何で驚くんですか?私、図書委員なので・・・」
机の上に、大量の本をおく。
歴史に関する本ばかりだった。
「な、なんかお邪魔しちゃいましたか?すいません」
急に消極的になる園部歌波。
どこかわざとらしかった。
「あ、いえお気になさらず」
「はい」
歌波の様子がおかしいことに、麗は気付いていた。
紗優も不思議そうにみつめている。
「それでこれ、何なんですか?」
「委員長からです」
図書委員の委員長?
紗優は考える。
・・・春日崎先輩?
「いまどきこういう本読んでるの会長くらいしかいないからって、いってましたけど・・」
机の端においてあった日本史の本に目をやる歌波。
「あと、謝罪とも」
麗の表情を、歌波は確認しない。
対する紗優は、麗に微笑みかけていた。
麗は──
*
廊下を歩いていた。
「マヤ」
唐突に 英語科の先生に呼び止められる。
振り向くと彼女は満面の笑みをうかべていた。
どうやら刃流祭の件ではないらしい。
「第一志望、英語面接が必要だっていってたわよね?」
「はい」
なんだ、そんなことか。
「練習とか、した方が良いわよね? 来週あたりの放課後にどうかしら」
「助かります。私はいつでも構いません」
「わかった。 マヤはいつでも礼儀正しいわね!」
・・・・。
礼儀正しい、お世辞でもそうでなくとも
私にとってそれは、いわれて嬉しい言葉ではない。
自分の辞書には、当然 と記されているのだから。
「マヤだったら内申書、なんでもかけるから、担任の先生もきっと楽ね!
でも、みんなにやさしくね。」
笑顔のまま、彼女は去っていった。
みんなにやさしく?
・・・やはりやさしさを演じるのは難しかった・・・のか
それとも演じているからこそ やさしくないのか・・・
やっぱり・・・ やさしくないんだ私って
別に・・・・
やさしくないって・・・・ 嬉しい気もするけど
不適な笑みがこぼれた。
*
「じゃあ私、失礼しますねぇ・・・」
深く一礼して、歌波は再び扉をあける。
紗優が呼び止めようとする。
だが、とくにはなしたいことがあったわけではない。
気付いたときにはもう、歌波の姿はなかった。
そんな歌波を、麗はじっとみつめていた。