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10-1, 初雪

生徒会室。いつものように、麗が一人でくつろいでいた。

その日は日本史の本を読んでいた。


不意にノックの音を耳にし、本をとじると

戸をあけてはいってきたのは春田紗優だった。


「あの・・・あたし、きちんと謝ろうと思って」

もぞもぞしながら麗の対面に腰掛ける。


「ずっと・・ごめんなさい。仇だとか、ずっと、思ってて」

「いえ」

麗の笑みに、紗優は胸をなでおろす。


「色々な人に出会って、励まされて・・・

 あたしが間違ってたんだなって思って・・

 そしたら、春日崎先輩の話を耳にして、それでなんだか助けたくなって

 だって・・・あたしと似てるのかなって思ったから」

目を合わせて話す勇気はまだなかった。

うつむきながら憫笑を浮かべ そして麗がゆるしてくれることを願った。


「生徒会長になるの、お姉ちゃん夢だったんです。

 でも・・・一年生のとき、書記に立候補したの落ちちゃって、自信なくしちゃって・・・

 少し勉強はできても、運動は苦手だし、容姿もふつうだしって、マイナス思考だったんです」


口をつぐんではいるのものの、麗は必死に耳をかたむけていた。

麗がきちんときいているのかいないのか、紗優は気にせず

自分にいいきかせるように、語り続けていた。


「だからもし同級生が生徒会に入ったなら、どんな人なのか気になるから、選挙管理委員やったんだっていってました。

 ・・・そこに雨宮先輩が現れて、快挙を達成して、お姉ちゃん、先輩のこと嫉妬したんです

 それで・・・・不安定だったんだと思うんです・・・ だから・・・・」


必死で涙をこらえていた。


ずっとわかっていた・・・

でも、わかっていたからこそ、自分は 姉が憎んでいた人をかわりに憎んだ。


姉が逝ってしまった原因は、麗にあると・・・ 憎んだ。


けれどわかっていなかった・・・

姉、未来が どんな気持ちで麗を見ていたのか


嫉妬と共に憧れが芽生えていたのではないかと 今では思う。


「春田さんは・・・ 素敵な人だったと思いますけど」


「お世辞ですか?まいりますよ・・・

 だって先輩頭良くて可愛い上に、運動もできるんでしょ?

 お姉ちゃんが嫌いになった理由、よくわかります」

ごまかした。

そうでもしないと、泣いてしまいそうだったから。


「でもやさしいんですね」

微笑む。

麗をまっすぐ見つめて、 と思ったら

麗は窓の方を向いていた。 

少しがっかりする。


「雪降ってますね」

静かな声だった。


紗優もそちらをむく。

今年に入って初めてだった気がする。

雪・・・ なんとなく、切ない。


「お姉さんのかわりに、しっかり目にやきつけてくださいね・・・

 生徒会室の窓からみた、風景」


お姉ちゃんが憧れた部屋からみた、初雪・・・・・。

ただ、嬉しかった。


空をみあげれば、そこに未来がいる気がする。

そこから、白いふわふわしたものが降ってくる。

天からの贈り物に見えて 幸せな気持ちになる。


「また、ここにきて、こうして、見てもいいですか?」


麗の肯定に、違う涙が流れた。

感謝の言葉も浮かんでこないくらい、嬉しくて 哀しくて。


「先輩は・・・どうして、生徒会長になろうと思ったんですか」

涙のせいでうまく喋れない。

けれど、きいてみたかった。ずっと前から。


その質問に、麗は驚いていた。

「春日崎さんの前では・・・強がってたんですよね・・・」

微笑をうかべる。


「幸せな家庭に憧れていたんです。

 所詮はないものねだりですよ。家が無理なら学校を幸せな場所にって、そう思ったんですかね。みんなが安心して楽しく通える場所にできたらよかったのに」


紗優の涙が 一瞬とまった。

見上げる。

麗は哀しげな笑みを浮かべ、空を見ていた。


幸せに・・・したかった なのに

逆に不幸になるといわれて・・・・

それ以上の不幸・・・ ないじゃない・・・・


「あたっ、あたし・・・・最低なこと・・・・考え・・・」

「事実じゃないですか」


え・・


「僕のせいなんですよ」


そんなこと・・・・

だってそれは先輩が・・・

先輩・・・が?


「それは・・・」


「信頼って怖いんですね」

刹那、扉があけられた。

振り返る紗優。


本の束をかかえた少女が、失礼しますと入ってくる。


「え・・・ 園部さん?」

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