9-10, りっちゃんの昔話
喫茶には、優雅にお茶をする男女の姿があった。
「立雲さんたち!」
「あなたも吹部の準備、いいんですか?」
立雲と八代がくつろいでいるよこに、三人は腰を掛ける。
「さっきトラブルがあったでしょ、
それでまだちょっと時間がかかるっぽいから、待機中」
「手伝えばいいのにな」
「だってあんな展開予想外 私たちで解決できる問題じゃないよ」
相変わらず仲が良い二人。
羨ましそうにみつめる空桜。
「奏ちゃんも大変だよね。ごめんね」
「え?いやっ、別にいいんです!先輩が謝ることじゃ」
「しぐれちょっと礼儀正しくなってない?」
「成長しましたね」
しばらくは、笑い合っていた。
八代や麗も珍しく、楽しそうだった。
こんな時間がずっと、続けばいいのにと 空桜は思っていた。
そんなうまくはいかないと、わかっていながら強く願っていた。
「ところで大丈夫かな?さっきのパリーン」
「効果音かよ」
八代やしぐれが微笑む。空桜が、何かを思い出したかのように机をたたく。
「あっ、あれってたぶん峰岡先輩って人が、って、さっきうららんいってたよねっ?」
「あ、はい」
それで麗もやっと思い出す。
「峰岡ー? あ、峰岡って、もしかしたら知ってるかも」
「え!」
立雲と八代が顔を見合わせていた。それも、真剣に。
「ちょっと、昔話していい?」
──そのころ彼女らはまだ、小学生だった。
私立の中学を受けるため、塾に通い
そこで彼らは出会った。
塾には知り合いがいなかった。
もしかすると、同じ小学校の子がまずいないのかもと思うほどであった。
他校の子に話しかけるがそう簡単に仲良くなれるはずもなく、立雲は大抵の時間を一人で過ごしていた。
一人に慣れたころ、クラス替えが行われた。
立雲はひとより何倍も熱心だった。 その努力が実り、トップクラスに編入することとなった。
ここのみんなは頭がいい
だから、きっと一人の子なんてたくさんいる
それか、みんなで仲良しなんだ
そんなかすかな希望が、芽生えつつあった。
だが何故、 仲良くしてくれる子ができる、と思わなかったのか 今ではわからない。
緊張しながら授業を受けていた はずだった。
不意に扉のあく音がきこえた。
「椎名ー また遅刻だぞー これで何回目だ」
「いちいち数えませんよ」
ぶっきらぼうな彼と、一瞬目があった。
「せっかく今日、クラスあがってきた何人かが自己紹介してたのに」
「席替えしたんですか?」
・・・あ、一瞬私の方向いたの、元の席だったから
「お前、最前列。 じゃないといつの間にか寝てるからな」
なんて不真面目なんだろう、
どうしてそんな人がここにいるんだろう
不思議でたまらなかった。
再び目をやると彼もまた、こちらを見ていた。
「って、これ二人の出会いじゃないー!!峰岡先輩関係ない!!」
微妙に頬の赤い空桜がつっこみ、話が途絶える。
「え~しぐもっとききたい~~」
「じゃあもっとどうでもいい話するよー?」
「やったあ!!」
実に嬉しそうだった。