9-7, 真相、事実。
「うーんよく見えない・・・ 近くいかない?」
舞台付近、少し前からそこで、割れた窓を見ていた。
誰かがよんだ事務の人っぽい人がきて、なんかやってる・・・
人並に視力はあると思うんだけど・・ やっぱり遠いか。
そんなことをただ、空桜は考えていた。
「ねえ、うららん?」
麗は突っ立っている。
やはり視線は窓のほうに向いているのだが、まるで焦点があっていないよう。
「峰岡さんて、今軽音部でしたっけ」
と、不意につぶやいた。
「え?峰岡さん?」
麗の視線は変わっていない。窓の向こう・・・ まさか見えてるっていうの?
麗の顔を覗き込む。
斜め上を向いているため、長い前髪が少し垂れている。
もう少しで普段は隠れている方の目が見える。
気になって、じっと見つめてしまう。
「あの窓割ったのやっぱりボールですね しかも故意的に」
「・・ん?やっぱり?ボール?ん?」
我にかえったが、話が理解し難く、戸惑ってしまった。
「さっき向こうの方にいたじゃないですか。峰岡さん。
窓の方にいた方々とコンタクトをとっていたようで。
その直後ですからね、割れたの」
「え、峰岡さんて・・・もしかして軽音部のライブとかによくでてる峰岡先輩のこと・・?」
「ええ。ソフトやってらっしゃるようなんですよ。
その人が近距離で投げて、向こうにいた人が受け取った。
事務の方がひろっていたドラムスティックは軽音部のでしょうね、何でそこにあったのかは知りませんが」
え?何いってるの?
ひろってた・・・とか、見えた?の?ここから?
「割れる瞬間はみてませんが。
まあ、関係ないことなんですけれどね」
すっと微笑み、麗は歩き出そうとしていた。
あわててついていこうとする、空桜。
「え、ちょっとうららん 何?もしかして全部見えたの?見えてたの?」
「見えましたけど?」
あれ、驚かれた
・・・・うららん視力いくつよ?
片目隠れてるし。
前から思ってたけど、それ絶対目悪くなるよね?
「視力・・・ 気にしたことなかったですね」
そういって、片目だけ、気にする素振りを見せた。
「あの、聞いちゃだめかもだけどさ」
「左ですか?」
あ・・・・
次の瞬間、麗は哀しげに微笑んだ。
「見えないんですよ」
え・・・・
当然のごとく
少女は言葉を失った。
考えたこともなかった。
何もかもが人並で、元気だけが取り柄だったような少女は、
驚きと哀れみに支配された。
人を支えたいと思い続け
初めてそんな友達ができた少女には
どうすることも
できなかった
「いいんですよ空桜さん・・・あの」
少女は見つめていた。
かすかに震えながら、少女は 空桜は
「ごめん・・・なさい 私聞いておきながら」
「謝られる理由がわかりませんよ・・?」
「ごめんなさい・・・」
ごめん ごめん・・・
心の中で
何度も 何度も
何度も
「あの・・・・私、お・・トイレいってきます」
らしくない、敬語になっていた。
ないてしまいそうだった。
どうしてかはあまりよく、わからない。
事実を知っただけなのに
自分には何もできないし それはきっと自分だけでなく
誰にもどうしようもないことなのに
なぜだかわからないけれど
彼女を支えてあげたいと思っていた自分の心に何かが刺さってしまったようで
気づくと自分は走っていた。