8-5, 春日崎真夜
同時刻、乙時雨では
「このたび図書室に新しい本が入ったようですので 整理をしたいとおもいます」
空桜の目の前には、まじめそうな先輩。
その時間、図書委員はこの先輩、正確にいえば委員長によびだされていた。
先刻、あくびをしてにらまれた。
そのせいでもあるかもしれない。どうも目があわせづらい。
「本の並べ方のプリントを配布します」
隣にすわっている歌波はなぜか真剣。
こんな面倒くさい行事に本気になれる理由がまずわからない。
「歌波って委員会すきなの?」
そっと耳打ちした。
歌波は首をよこにもたてにもふらず、ただ微笑んだだけだった。
再び委員長に鋭い視線をむけられる空桜。
このまじめな人、嫌い。 そう、空桜は当然のごとく思う。
「では作業にうつってください」
そんなこんなで終わる、説明。
ぜんぜんきいてなかった・・・。
いいや、歌波にきくか適当で。
と、
「真岸辺さん」
委員長に手招きをされた。
きっとおこられるのだろう、そうおもいながらそちらへ向かうと彼女は深刻そうな顔をしてみせた。
「真岸辺さん、生徒会長と仲いいよねぇー?」
随分と嫌そう。
話し方も、先ほどとはまるで別人。
それがまた気に入らない。
麗を悪くいう人は、嫌い。 それが空桜の脳内。
「だから・・・なんですか?」
「本の一覧表を生徒会の方にあずけたままだったんだよねーとってきてくれる?」
この人・・・ 何?
もしかしてさっきまでまじめぶってただけ・・?
「じゃーよろしくね」
「は・・はあ」
やっぱり嫌いだなあ、この人。
気持ち悪いったらありゃしない。
「何・・・変な顔になってるよ?」
「はい?」
「険しい顔・・っていうの?何、私に恨みでもあるの、気持ち悪いからやめて。っていうか早くいこうよ?」
・・・・・・は?
は?
は?
まじめぶるにもほどがあるんじゃないすか。
いわゆる二重人格ってやつでは。
まさかね。
いや、現実にそんなのいないって。
まさか。
「春日崎さん」
と、そこで委員長に声をかけたのは担当の先生。
「あー、はい?」
声調が微妙に戻る。
「ちょっとこっち困ってるんだけど・・・」
「あ、いまいきます」
違う、この人は意識してやってる。
自分、わかってる。
何・・・? こっちが何、だよね。
何・・・? 私のこと嫌いなわけ?私、委員長ににらまれるようなことしたっけ?
何・・・? 私がたった今あとにした部屋の中で・・・ 歌波と委員長がはなしてる。
何・・・? 二人ともスマイル。 何でスマイル。 むかつくほどスマイル。
うららんに・・ 相談するか。
うららんならしってるもんね、顔と名前。 うん、知ってる。
予想通り。
「図書委員長?春日崎真夜さん、でしたっけ」
知っていた。
そしてその名前、ききおぼえがあった。
「え、それってもしかしてこの間のテスト2位だった人?」
空桜がきくと、麗はかすかに 眉間にしわをよせた。
「何でそんなことがわかるんですか?」
「うん、3年生の結構見てたから覚えてた。」
目をそらす空桜。
「・・・・そうなんですか」
「で。なんかすっごいむかつくのその人。
何あれ?二重人格を意識してやってるみたいな。」
「・・・・・・そうですね」
・・?
気まずい・・・・・・・・。
「僕は嫌いです。 彼女のこと」
・・・・・・。
「ついでをいうと 新さんって方も嫌いです」
・・・・・・・・・・。
「でも 一番嫌いなのは自分自身ですかねえ」
・・・・・・・・・・・・・・・。
何て なんて返せばいいの?
何で なんでそんなしんみりとしたこというの?
気がしずむよ・・・
最近楽しいのに 気が・・しずむじゃない・・?
何考えてるのさ?
「すいません、無駄な話を。 それで、何かほかに用事があったのでは」
「え、ああうん。 図書の・・なんだっけ。本の一覧表?」
「ああ、新しく寄付していただいた本のですね。 今もってきます」
「うん・・・」
・・・・・うん
あんな楽しそうな顔してたのにこのあいだ。
やっぱり心のなかに・・・ まだ何か・・ 暗いものが、あるの?かな?
「うららんなんかあったんだったら、相談のるけど・・・」
「何もないですよ? はい、一覧表これです」
「あ・・・ありがとう じゃあ・・」
「はい」
まずくはないよね。
そういう雰囲気のなか部屋でたって・・・ まずくは・・ないよね・・。
私まで不安になったら・・だめだよね。