8-4, 鳩羽立雲
翌日 文化祭準備で盛り上る学院内──・・・・
友達と話しながら道具などを運んでいる生徒がほとんどのなか
しぐれは一人、無言で 尚且つ笑顔で歩いていた。
手に、黒い楽器ケースだけをもち。
周りから噂声がきこえるが 気にしない。
くすくすと笑ってくる人がいても しぐれは決して気にしない。
そんなしぐれは、音楽室の前で一度、足をとめた。
「先輩います か」
扉も開かずただ入り口にたち 笑顔のわりには感情のなさすぎる声で。
だが扉はひらいた。
しぐれが超能力を使ったわけではない。
先輩と呼ばれた人物が、中からでてきたのである。
「奏さん!きてくれたんだ」
鳩羽立雲。
ショートカットでボーイッシュな外見をしているわりには優しげである。
そして麗と似たオーラをまとっている。
「・・・・・リハー・・・サル」
「はりきってるのね奏さん。
ええ、もう少しでステージもできあがるそうだから、後でいきましょう」
「・・・で」
「それまで練習したい?どうぞ、入って」
楽しそうではある。
だがあまり呂律がまわっていないようで 言葉が途切れ途切れになってしまっている。
緊張ではない。違和感、だ。
目の前の人物とは 数日前に仲良くなった。
だが無意識に 同じく数日前に 微笑んだ麗の顔と照らし合わせてしまう。
どこか似ているその面影
顔も声も性格も 別人なのに何故か・・・ そう、何故か。
麗が笑うと 嬉しくなる 楽しくなる
立雲が笑うと 勿論嬉しいけれど まず麗をおもいだす
不思議な自分
不思議すぎてわからない 自分。
入った音楽室でならんで座っていた奏者たちに、しぐれに声をかけるものなどいないけれど
立雲がその場にいるのならそれで十分だった。
「では もう一度いきましょうか」
立雲の美声が響いた。
「おつかれさま、奏さん」
空が赤くなってくる頃 解散となった後。
今度は立雲の方からしぐれに声をかけた。
「あ、おつかれさまですけど・・・」
「暗いな?」
「え?」
「表情」
「あ」
ついには表情までもがくらくなっていたのか自分。
何を考えていたのだ自分。
話題、話題。
考えないと 続かないかな。
「あの、先輩っていつ引退するんですか部活」
「え?ああ・・・・ 文化祭終わったらしようと思ってるかな」
「そうなんですか」
「ここはエスカレーターで高校いけるからね。だから皆遅いんだと思う」
「そうなんですか・・・・」
そういえばうららんは部活は・・・・・・
なんてまた考えてしまう自分は本当になんなのだ。
この間微笑みをみることができたというのに、何を心配しているというのだ。
話題・・・・・・・・・、話題!
「あの」
「奏さんって本当 雨宮さんのこと好きなんですね?」
え・・・・・・・・・?
「顔にそうかいてありますよ」
・・・・・・・・え? えっと?
・・・・ ・・・
「冗談です ・・・・・あ、れ もしかして図星でした・・・?」
「先輩は好きじゃないんですか?」
「え?」
「うららんのこと 嫌いなんですか?」
必死だった。
わからない。 自分なんてもうわからなくていい、くそくらえ。
「嫌いじゃない!むしろ好きかも!あ、それで私、もっと雨宮さんのこと知りたいかな?」
「本当」
「うん。 いったでしょ」
・・・・・・・・・。
立雲は協力してくれた。 あの日の屋上で、そう。
「それに、私だけじゃないはず。 乙時雨はともかく、刃流で私が・・ 私たちが、広めましょう。
雨宮さんは悪い人じゃないって」
「・・・・・・うん!!!!」
「笑顔が一番だね」
微笑むしぐれに 立雲もあわせた。