6-1, 試験結果
「雨宮」
社会科の教師であるわたしは、例の問題児に話しかけてみることにした。
彼女は普通に、ふりむいた。
「はい」
「今回の期末、どうしたんだ?」
「何がですか」
感情のこもってない声。
「何って、点数だよ」
あきれてしまう。
「お前、授業に参加してこないから試験こないのかと思っていたのだがな。」
「・・・・・」
じっと、見つめられる。
真剣な目。
「で、受けてみたら点数がこれだ」
「これ?」
「初めてだよな。お前の誤字減点」
「・・・・」
相変わらず無口なんだな。
「何かあったみたいだな」
「何も?」
「そうか?」
「試験での誤字が、何かトラブルに関係しているとでもいうのですか」
トラブルねぇ。
こいつ・・・ 一体。
「今まであの点数とってきて、どうなんだ?」
「どうとは」
「勉強したらとれるものなのか・・・ わたしは正直よくわからない」
「勉強?そうですね・・・・ 」
わたしはそのとき初めて、彼女の笑みをみた。
薄い、笑み。 なんだかすごく、不気味な笑み。
「そんな珍しい点数ですか?試験勉強は特に興味もないのでしていませんが」
していない?珍しい点数なのか?
ありえないだろう。
珍しいもなにも、平均点50、60であの点数は有り得ないだろう・・・。
*
空桜と歌波は順位ののっている掲示板のまえにたっていた。
「1学年200人前後なんだねー。初の乙時雨でのテスト!!!
順位発表すっごい緊張するんだけどぉぉっ」
「うん・・・・ そうだねっ!」
「みよっか、順位!」
緊張気味な歌波に、空桜が笑いかける。
「え、あぁ、うんっ」
二人は自分の名前をさがした。
「あっ!歌波あったぁ!」
「えっ?!どこ?!」
空桜が指差すさきを、歌波は焦りながら見た。
「あ・・・・」
なんとかトップ20には入っているってところ、か。
「歌波すごいねぇ」
空桜はにこにこ顔で、さらに順位を眺めていた。
歌波も空桜をさがすことにした。
あった。
「あ、空桜ちゃん平均的・・・・」
無理だぁなんていうから、てっきりもっと悪いのかと・・・・。
と・・・、なんだか向こうのほうが騒がしい。
あっちは・・・ 三年生の、かな?
「見てみる?」
となりの空桜も、どうやら気付いたようだ。
うなずく歌波。
そして二人はみた。
「・・・・・・・」
一瞬で凍りついた。
まさか・・・・・。
1位のらんにかかれた、その名前・・・・。
雨宮麗
499点
「5教科で失点1・・・・・・・・・?!」
つぶやいた自分の言葉がとても、恐ろしく。
あの人、試験勉強してなかったよね・・・・。
まわりの表情、そしてざわめきも同じことでだったらしい。
「う・・ららん・・・・凄い」
あの空桜までが、苦笑をしている。
ありえない・・・・・ この人・・・・・・。
平均いくつだと思ってるの・・・・。
*
私は、掲示板を見ていた。
変な噂が広まる前・・・
彼女がまだ、人気だったころだって、彼女の成績を知る者は異常に少なかった。
でもまさか・・・。
「やばくない?」
そう、私に耳打ちをしてくる人物があった。
返事をしようとはしているのだが・・・・ 呂律がまわらない。
やばいよ?やばすぎる。
でもなんなんだろう、この感じ・・・。
3位の私は何を思う・・・・・・・・。
*
「珍しいなんてレベルじゃないだろう。今まで毎回、全教科満点だったんだ。
ところが今回急に失点をつくった」
「・・・・・」
わたしはがんばって問い詰めていた。
「急に失点といわれましても・・・、僕だって人間ですよ?
しばらく授業に出席しなかったことは全然気にしていなかった様ですが・・・
試験にはうるさいのですね」
いや、それは、その。
校内の風紀を乱すような噂がたってしまっているなか
気にするわけにもいかなかった、それだけのことなのだが。
にしても。
毎回思うのだが、こいつはその、人間ばなれした実力をもつという神やら悪魔やらなのか。
それとも天才肌というものなのだろうか。
否、たとえそうであろうとこの不気味すぎる雰囲気と今回の失点から考えると
何か細工をしているに違いないのだ。だからこそ問い詰めているのではないか。
「話はかわるがお前、高校どうするつもりだ?進路の希望調査票、
だしていないだろう。もう11月だぞ?
その学力なら、偏差値70は余裕だろう?」
遠まわしに色々ときいてみればわかるはず。
「決めてないですね。まあ、そのうち」