5-3, 集う兄弟
空は紅色。
夕日はもうすぐで沈んでしまうだろう。
彼女は走った。
久しぶりに帰る、自分の家へと──。
風で髪がゆれる。
前髪がういて、隠れている左眼が時々見える。
もう片方の漆黒の瞳は、真直ぐ前だけをみつめていた。
そしてようやく・・・ ついた。
家のドアの前にたち、鍵をまわしている少年が目に入る。
あれだ・・・・。
彼女はその少年に近づき、肩をたたいた。
振り向く少年。
彼の目はとてつもなく大きく見開かれていた。
「姉ちゃん・・・・」
まったくといっていいほど違いのない二人の顔。
「学校・・・いってるんですね・・・」
彼女の息はとても荒かった。
全力疾走でもしてきたのか・・・な?少年 渉はそう思う。
「いってる」
渉はにこっと微笑んだ。
「学校・・いったら、姉ちゃんかえってくると思ったから」
・・・・・どうして
麗は戸惑った。
弟の言葉をきいて、彼女は戸惑った。
「だって・・ オレがずっと家にいたから・・
姉ちゃん此処が嫌いになったんだろ・・・??
姉ちゃんも兄ちゃんも別々に暮らしちゃって・・・
・・・・つらかったんだから!!!」
「つらい?」
「つらいよ!!!!」
彼の目からは涙が流れでていた。
「つらくないわけない・・・」
そういって、渉は姉に抱きついた。
涙を流したのは 渉だけだった。
麗は感情をあらわしていない。
何を考えているのか、それは彼女自身にしかわからない。
「"彼"がくるまで、そこにしばらく音はなかった。
その場に響いていた烏の鳴き声をうちけした彼の足音。
二人ともすぐに気付いたようで、さっと振り向く。
渉は自分の顔を袖でふきながら。
目を丸くしたのは二人だけじゃなかった。
歩み寄ってきた彼もまた──。
「う・・・・らら?」
震える彼の声。
「兄ちゃん・・・・・?」
呼び返したのは麗ではなく、渉。
沈黙が流れる。
さきに口を開いたのは兄、啓だった。
「麗お前 もしかして」
それをきいた麗は一度、憫笑して
「残念ながら、あなたがたの期待には応えられませんね、まだ」
その場を去ろうとした。
「麗」「姉ちゃん!」
同タイミングに彼等は叫んだ。大切な人 へ。
麗は振り向かず、夕日に向かって歩き去るだけだった。