3-7, うるさいひと
だっるーいっ。
春田紗優は一人、歩いていた。
部活もやめた。
習い事は元からない。
家にいてもすることがないので、まちを少し放浪していたのだが・・・。
楽しくない。
逆に疲れた。
帰って寝よう。
そう思ったとき、不意に誰かによびとめられた。
誰だ。
驚いて振り向いたが、ただ
「おとしましたよ」とポケットティッシュを渡してきただけだった。
紗優は受け取ろうと相手の顔を見た。
そして更に驚かされた。
「あんた・・・、椎名君の・・・」
「はい?」
きょとんとされた。それもそうだろう、彼女にとって自分なんて風景の一部なのだから。
「何ですか?」
じろじろと見つめていると、不審そうに見つめ返してきた。
名前は知っている。
確か鳩羽立雲。 刃流の吹部の部長という名の彼女をみたときは唖然としたよ。
もう思い出となった私の嫌な記憶・・・。
まさかこの人の顔をみるだけで思い出してしまうなんて、むかつく。
「何でもないです すいませんでした」
紗優は立ち去ろうとした。だが、
「あなた、もしかして春田さん?」
え?!
何故此方の名前をしっている?紗優は目を大きく見開いた。
「未来に妹がいるってことは知っていたけれど、顔、似てるね」
お姉ちゃんの、友達?
「ワックドナルド・・・、良かったらどうですか?」
「はい?」
いきなり立雲が誘ってきた。
そういうのって彼氏といくものじゃないの?、思わず声にだしてしまいそうになった。
「おごりますから」
そう、憫笑をうかべていわれたものだから・・・
おごってくれるなら話はべつだよね、なんて思ってしまった。
「私、注文してくるから、何がいい?」
そこらへんの商店街の片隅、すぐ近くに店はあった。
おごってもらえるならと薄笑いをうかべながらここまできたが、
やはり沢山注文するなんて、できない。
「え・・・ あ、飲み物だけでいいです コーラのMサイズ」
「うん。オッケー。 席、とっておいてもらえますか?」
「はい」
Sにしておけばよかったかなだとか、ここはもっとLにしてだとか
色々と考えながら紗優は適当に座った。
隣には同じ制服の二人組もいた。部活返りの寄り道だろうか。
しばらくして、立雲がやってきた。
「ありがとう、春田さん」
「はい」
ふと、隣の机にいた人と視線がぶつかった。
紗優が気まずそうにしていると、立雲も気付いたのか、振り返る。
向こうは一瞬、何かを思い出したような表情をうかべた。
「あ、えっと園部さん」
立雲にもなにか心当たりがあったようだ。
「刃流の部長さんですよね。私の名前、しってるんですね。」
今一瞬、かっこいい・・・・ とか、付け足さなかった?小声で。
私地獄耳だしきこえるよ!
「あなたが刃流の部長なの?今度コラボするとかいう企画たてた一人ってわけか。
うん、中々可愛いじゃない。私も実は吹部。担当はアルトサックス。よろしく。」
「知り合いですか?」
何気声の大きいもう一人の方は無視して、紗優は立雲に耳打ちした。
「あなたと同じ学校じゃないですか。」
「でも私は知らない。」
「机、ひっつけなーい?」
三人に同時に無視されたにもかかわらず、例の彼女は身をのりだしてきた。
そしてまた三人そろって、怪訝な顔をした。
何だ、こいつ。
でも、いいよね。
この立雲って人、私が未来の妹だって知って、近寄ってきたんだからきっとお姉ちゃんの話するにきまってる。
友達だからとかいって、なんかいろいろきいてきそうだし。
そういう話から逃れられるのなら、こういううるさい人が一人くらいいたって問題ないよね。
紗優は微笑んだ。