3-2, 刃流にて
立雲は生徒会室へ向かっていた。
歩きながら読んでいる、この文化祭での吹部発表の企画書を提出するために。
何度も推敲を重ねているのだが、よみあきないのは何故だろう。
そんなことも考えながら、立雲は楽しんでいた。
ふと、それが宙を舞った。同時に肩になんらかの感触があった。
誰かとぶつかってしまった。
「すいませんっ」
立雲はあわてながらも、相手に謝罪をした。
「ああ、此方こそ申し訳御座いません」
かえしてながら立雲の落とした企画書を拾う相手の顔をみて、立雲は目を丸くした。
「あ、ああ雨宮さん」
雨宮麗── 話してみたい、そうおもっていた人物──。
「はい?」
麗は無表情で拾得した紙をかえした。
その言葉には何故自分の名前を知っているのか、そんなおもいがこめられていた。
「あなたは・・・? ああ、此処の吹奏楽部の部長さんの・・・ 鳩羽さんですね」
「はい、あの雨宮さん・・・」
いざ、目の前に相手がいるとなると、
言葉が見つからない。 話したいことはやまほどあったのに、思いつかない。
でも、話しかけてしまった。
「雨宮さん・・学校・・ 今日ないんですか?乙時雨」
咄嗟に思いついた疑問をそのまま述べてみた。
「え?ああ、三年は今日、職場体験なんですよ。特に興味がないもので」
「はぁ・・・」
よくわからない。
それってつまりさぼり・・・?
「丁度此方の会長さんに用事があったので。」
「それで、昼休みに、わざわざ」
「そんな感じです」
いや、わからない。
昼休みにくる理由なんてないだろう。普通、生徒会が動くのは放課後、
ほかが部活をしている時間とか・・・ そういうのではないのか?
「でもまさか、それだけのために昼にきたりなんてしませんよ。」
ですよね。
「先日のバド部の交流試合の忘れ物を届けるのもかねて、きたんです。
気付くのが遅くなってしまったので、こまってらっしゃると思いできる限りはやめに、と」
なるほど。 それなら納得が・・・ いや、つくのだろうか。
忘れ物に此方側は気付いていないのだろうか。
立雲は薄笑いの麗に苦笑でかえした。
そのときだった。
「うらら~~ん!!」
ばたばたと、向こうから何かがかけてきた。
「しぐれ」「奏さん」
同時だった。
しぐれは二人の顔をみて目を丸くした。
似ている、とおもった二人が今、目の前に。
「なんで・・ うららんがここに?」
「しぐれバド部でしたね」
「え?」
しぐれの問いに答えず、麗はカバンに手を突っ込んだ。
そして取り出したのはバドの羽根。
それには黒い文字で "刃流" とかかれていた。
「あぁ・・・ うんありがとう戻しておくね」
しぐれは不思議そうに麗をみていた。
無理もないだろうと、彼女の表情をみて立雲はおもった。
「あ、じゃあ私失礼します」
そういって、立雲は立ち去った。
その後姿を眺めていたしぐれの肩に、麗が手をのせる。
「頑張って」
一言残し、麗はそのまま歩いていった。
「うん!!」
しぐれは一瞬固まるも、すぐに元気よくかえした。
「うららんずっと友達でいてね!!」
そのあと叫んだ言葉が麗の耳の届いていたかどうかはわからなかった。