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調査パート

ドレッドノート大学にて


横を通りすぎた学生が、思わず振り返った、


「どした?」


「今の清掃の人、めっちゃ胸でかかった!」


「何いってんだバカ」


リズはため息を付くと、モップをカートへ乱雑に突っ込んだ。


周りに人目がないことを確認すると、合鍵を使って部屋へ入る。


部屋の中は、埃っぽい臭いに混じって微かに火薬の匂いがした。


封筒から捜査資料を取り出し、ここで何が起こったかを確認する。


「凶器は22LR弾、至近距離から背中に2発、頭に1発の計3発、銃声を聞いた者はいなかった」


サプレッサーに相性の良いLR弾を、暗殺に使ったのだろう。


失礼します、レポートを提出しに来ました。


ああ、そこに置いといてくれ。


パシュパシュパシュ


といった感じだろう。


「犯人は顔見知り、過激思想の持ち主、そして多少訓練されてる」


威力に不安がある弾で、確実に相手を仕留める為にやるダブルタップからの、頭部への射撃。


個人の犯行か、組織に属す者かを見極める必要があった。


掃除用具を片付け、部屋から出ると「あっ」と気の抜けた声が背後から聞こえる。


「リズさん……?」


かつての戦友であるアンナとアンネが、その手にペンを持ち、大学という教育の場にいた。


「信じられない……あのサイコレズが教育者なんて………」


「おい待て、誰がサイコレズだ」


そんな会話をしていると、パイプを咥えたアレンが近づいてきた。


「失礼わたくし、大学から雇われた探偵です。少しお話を聴かせて貰えませんか?」


白黒映画に出てくるような馬鹿馬鹿しい格好をして、ピーナッツの粉を入れたパイプを咥えている同僚へ嫌気が差した。


リズはパイプを取り上げ、投げ捨てると、テープで張り付けた口ひげを剥がす。


「聞き込みにぴったりな服があるって言いましたけど、何ですかそれは?」


「あぁ、似合ってるだろ」


「今時そんな格好の探偵がいるもんですか!」


「いつも遊園地のベンチに座って、ケシ・コーク飲んでそうな服しか着てない絶望的センスに期待した私が馬鹿でしたよ!」


「アンナ、ケシ・コークってなに?」


「あれだよほら、ケシの花入れてた炭酸飲料」


「あー思い出した、あのヤク中御用達の奴ね。うちのクソ親父がよく飲んでた」


元軍人の清掃業者の格好をした警察官、探偵の格好した警察官、元軍人の大学教授、元軍人の寮長という奇妙な構図が、ここに生まれた。




旧射撃演習所にて


戦時中に臨時の訓練施設として、大学から離れた山奥に設けられたこの射撃所は、鉛弾から魔法を撃つ場所へと変わっていた。


「狙いを定めて、意識を集中………放て!」


杖から光が飛び、遠く離れた的へ命中する。


「わぁ、すごい!300mも離れてるのに命中させちゃった」


ヴェロニカとアイリスは、ノボルに拍手を送る。


「いやぁ、先輩方はもっと凄い人がいたよ」


「でも、あんなに遠くへ命中させられる人は中々いないよ。流石、学校一の魔女だっただけはあるよ」


"魔女"と言うと、壺に何か入れてかき混ぜたり、とんがり帽子を被った女性を思い浮かべるが、人々は男女問わずに魔女と呼称した。


これは、かつて魔女狩りが行われていた際に、例え女でなくとも、魔法を使っていると疑われた者は、全て魔女と区別された事の名残である。


「魔法の技術は科学に比べ、1000年遅れていると言われている。だから、この程度じゃ駄目なんだ」


「もっと上、上を目指して進むんだ」


魔法に何か特別な思いでもあるのだろうか、ノボルは覚悟の決まった目をしていた。


「さぁ、もっと特訓しよう。いつ講義が再開されても良いように、腕を鍛えないと」


「それじゃあ、私もお手伝いしましょうか」


ヴェロニカは、魔法を消費して疲れているノボルに変わって、的の用紙を設置する。


「悪いね、こんな事に付き合わせて」


「いえ、お構い無く〜」


かつて、物理科学をやっていた時、対人関係でかなり苦労した経験が思い浮かぶ。


毒ガスばかり研究している変人と思われ、初めの頃は、予算を出して貰えなかった。


社交性も身に付けなければ、円滑に物事を進めることが出来ないと経験しているのだ。


そのため、学問に打ち込むだけではなく、こうして友達を作り、交流をすることで社交性を身に付けようとしていた。


「ん?この薬莢は……」


的の交換に向かっている最中、真鍮製の使い古された小さな薬莢を見つけた。


ここは射撃演習所として使われていたので、撃ち殻が残っている事は何もおかしい事ではない。


問題は落ちていた弾が、ブリタニカ軍で採用されていない弾だったということだ。


「22LR弾、なんでこんな物が?」


あまり銃には詳しくなかったが、この弾は覚えていた。


昔軍にいた頃、レジスタンスが自分を狙って撃ち込んだ弾だ。


自分の墓を掘り起こして、死体の中を覗いてみれば、銃弾が残っている筈だ。


誰がが狩猟しに来たのか?いやそれはない。


この弾じゃ、狩れても小動物ぐらいで、生命力溢れるこの山の動物を狩ることは難しい。


そもそも、ここは学校の敷地内であり、学生や職員が武器を持ち込むことは禁じられている。


この前の新聞で載っていた情報は確か。


「犯行に使用されたのは、22口径の拳銃」


「ニカー!どうしたの?」


「あ、いや、何でもない!」


ヴェロニカは薬莢をポケットへ突っ込むと、取り繕った顔で戻った。


ノボルとアイリスの練習が終わり、いつものように本を借りに行くと、時代遅れな格好の男が、学生を掴まえ聴き込みをしていた。


「どうもありがとう」


聴き込みを終えたのか、パイプを咥えながら考え事をする素振りをしていると、こちらと目があった。


「お嬢さん、ちょっといいですか?」


「私理事長に雇われて、あの事件の調査をしていましてね」


「何か不審な者を見掛けませんでしたか?」


対応に困ったが、彼の鋭い目で観察されていると、逃げられないような感じがした。


「あ、あの、事件が起きた日に私居なかったんですけど……そのぉ」


ヴェロニカは射撃所で拾った薬莢を手渡した。


「これは?」


「そのぉ、友達の魔法の練習に付き合った時、山の射撃所で見つけたんです」


アレンは、その薬莢を懐へ仕舞い込むと、一言礼を言ってからその場を去った。


そして、その一部始終を目撃していた人間の影に、ヴェロニカは気づいていなかった。




学生寮にて


「はい、言われた通り過激思想の学生をリストアップしたよ」


アンナがここ数日でまとめた資料を、リズへ手渡す。


「うぇ、こんなにいるのぉ」


優に30を越える数の名前がそこに並んでいた。


「学内にいる右系統の学生全部調べて、アリバイとか目撃情報のある人は除外したんだよ」


「むしろ、ここまで絞り混んだ事を褒めて欲しいんだけど」


「アンナすごい」


「フフ、アンネに褒められたー」


そんな茶番をやっていた所に、アレンが戻ってきた。


「リズ、資料は?」


「はいここに、アンナが3日掛けて調べました」


「褒めていいのよ」


アレンはアンナへピーナッツを差し出す。


「私ピーナッツ食べると、鼻が痒くなるんだよね」


アレンは恵まれない哀れな子を見るような、悲しげな目でアンナを見る。


「いや別に、ピーナッツ無くても生きて行けるし」


なんだか負けた気分になりながらも、気を取り直して、アンナは意見を求めた。


「この中に狩猟経験者は何人いる?」


「狩猟経験者?」


アレンが渡してきた、狩猟経験者一覧表と見比べながら、30人と見比べて行く。


「3人ですね、これがどうしたんですか?」


リズの疑問は、ポケットから出てきた薬莢が答えてくれた。


「その薬莢を見てみろ、使い古されて劣化している。工場生産ではなく、個人製造の物だ」


弾薬を製造するのは、企業が大量生産する物と個人が製造する物の2つがあり、後者は一度使用した薬莢をまた再利用することが多い。


「さっき地元の鑑識に調べて貰ったから、間違いはない」


「容疑者は3人、我々は4人だが1人動けない者もいるので、丁度3人になるな」


「尾行しろって事ですか?無茶です。四六時中付きまとえば怪しまれますよ」


「だから理事長に、ひと芝居打ってもらうことにした」


「さぁ、学舎から過激派共を一掃するぞ」

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