強敵
風邪引いて少し投稿が遅れました
ごめんなさい
「V4着弾を確認、全弾命中です」
「観測員から報告、敵艦隊炎上中、隣接する浮島も時期に焼け落ちると」
「敵の600m級空中母艦は発見出来たか?」
「いいえ、ですが敵艦隊の7割は大破もしくは撃沈です」
指揮所へ続々と報告が入る中、イザベラは上陸の準備に入る。
「チヌークにコブラを護衛に付けろ、5分後には飛び立つ」
逸見はカービンライフルを手にヘリに乗り込み、特殊部隊を率いて出撃した。
「向こうの情報伝達速度は遅い、黒煙が上がって発見されるまでに大体4分、敵の増援が来るまでに8分だ」
浮島へ近付くと、敵の対空射撃が出迎えて来る。
ステンドグラス張りの建物の屋上から、ヘリに向かって必死に撃ってくる。
「クヌート!ドアガンで俺を撃つなよ!」
「隊長それは出来かねます!」
コブラヘリが対空砲の死角から迫り、70mm多連装ロケットを斉射する。
「こちらコブラ1、敵対空砲沈黙、歩兵の掃討に入る」
「了解したコブラ1、皆殺しにしてやれ!」
頭上でコブラの20mmバルカン砲が唸り、隣ではクヌートがMG3の鬼のような連射浴びせ、美術品のように美しい建造物を穴だらけにしてゆく。
「降下しろ、誤射に注意しながら殺せ!」
後部ハッチから降り立った兵士達は、相手の胸に2発つづ正確に撃ち込み、作業のように射殺する。
「ちくしょう!こいつらは何なんだ!?」
「敵が入り込んだ、警報を鳴らせ!」
敵の警備兵は、勇敢にも抵抗を続けようと武器を取ったが、幾つもの戦争を経験し、百を超える生命を奪って来た兵士にとって、その抵抗は無に等しかった。
弾倉内の弾薬を使い切ることなく、施設を制圧した逸見は、目標である核投射設備を捜索し始める。
「ルーマ、下の階を探せ。俺は上を探す」
鍵の掛かったものは、部屋でも金庫でも抉じ開け、棚を倒したり床を叩いてみたり、ベッドシーツを剥がし、机の中を引っ掻き回した。
家族の似顔絵や手紙、聖書のような物が瓦礫の様に出て、足元を埋め尽くした。
「邪魔だな、足の踏み場もない」
「退ければいい、こんな風にさ」
ヨゼフは床に散乱した敵の私物を蹴り飛ばし、銃剣で突っつき回す。
「悪いヤツだな、いつかバチが当たるぞ」
「面白いな、こいつらが生き返って襲ってくるとでも?」
「そんなことは言ってねぇよ」
逸見は割れたガラスが散乱した階段を登り、屋上へ上がると、イザベラがティーポットに茶を淹れていた。
沢山の花に囲まれて、優雅かつ高貴にお茶を飲んでいる。
「何してるんだ?」
「……ここの管理人はセンスが良いわね、まるで天国にいるみたい」
爆撃で割れたガラスの隙間から風が吹き込み、金光沢のシャンデリアが揺れ動く。
太陽の光が反射して、ミラーボールのように回り、青薔薇を輝かせた。
「光が転がってるみたいね」
「珍妙な例えだな」
あり得ないは、良く経験していたが、ここではそれが頻繁に起きていた。
空中に浮かぶ島に、翼を生やした人間、空想の存在だった。
この青い薔薇も、自然界には存在しない物だ。
「もうすぐ、この戦争も終わり」
ティーカップの茶へ息を吹き掛けるイザベラは、庭園の幾何学的設計の美しさに笑みを浮かべる。
「そして新しい戦争の始まる」
「そう、でも制御出来る。あとは落とすだけ……アチ!」
茶を口にするイザベラはフーフーが足りず、舌をやけどした。
「隊長、目標を発見しました」
「了解、すぐ行く」
イザベラの手を引いて今度は下へ降りると、扉を抉じ開けた跡が残っていた。
地表に向けられた金属レールには、自動装填装置と照準装置が付随している。
レールに砲弾を載せ、重力によって砲弾を落下させる、歯車仕掛けの単純な仕組みで動く。
さしずめ、自由落下砲と言った所だろう。
核砲弾の側面にはキリル文字が記され、すぐに新ソ連製の406mm核砲弾だと判った。
「あぁ忌々しい、クソ共産主義者が造った、つまらんおもちゃじゃないか」
「ガーベラ1-1からカーゴ1へ、目標を発見した回収してくれ」
母艦からチヌークを呼び出し、核弾頭を回収させると、速やかに撤収した。
落下砲は艦砲で島ごと破壊させ、敵の残党がやって来る前に消えた。
天界にて
「散れ!相手は手強いぞ」
翼人連隊は王女捜索中、アイリスが率いる部隊と遭遇した。
互いに王女とヴェロニカを探す両勢力は、その足跡を追っていたので、遭遇は必然と言えた。
そして、その渦中に居る重要人物2名は、その両勢力から攻撃を受けていた。
「王女を!」「ニカを!」
「「返せ!」」
軽機関銃が翼人兵を撃ち落とし、その反撃にサーベルで顔面を叩き切り、雄叫びを上げた。
アイリスは、その背後から翼人兵の首をねじ曲げ、サーベルを空中へ飛ばした。
魔法で高速回転するサーベルは、丸ノコの刃のように回って、敵の腹を切り付けながら空を舞った。
片腕の取れた女神像に臓物が降り注ぎ、死体は石柱に叩きつけられた。
「各隊、梱包爆弾を使え!」
空から爆弾を落として、アイリス部隊を殺傷させ、突撃班が短機関銃を乱射しながら突っ込む。
アイリスは咄嗟に杖を振り、弾丸を払い除けてから、レーザーで敵を一掃した。
「なんてやつだ、とんでもない魔法使いだな」
「戦力を集中させろ、数で押せ」
この時、天界側の指揮官は大きなミスを犯した。
戦力の殆どを喪失した状況で、残り少ない兵力を一ヶ所に集中させたのだ。
そして、その動向を察知したイザベラが、戦闘ヘリを送り込んだことにまだ気付いていなかった。
「ヴェロニカ!出てこい!」
アイリスは地の底から沸き上がる怒りと共に、ドスの効いた声を上げる。
「あの怖い人、あんたのこと呼んでるよ」
「みたいだな」
ヴェロニカはアイリスの前に立ち、西部劇映画の決闘シーンのように向かい合った。
「始めよっか」
「そうだな……始めよう」
最初の一撃はヴェロニカが放った。
アイリスが弾丸を避けたと同時に駆け出し、走りながらライフルを撃つ。
ボルトを引いて排莢、弾薬を薬室へ送り、引き金を引く。
アイリスは高濃度魔力弾を生成させ、下投げで放つ。
周囲の草を枯らしながら飛び、爆ぜて飛散した。
「ウォッ!?」
粘着質の酸が持っていたライフルに付着し、デロデロに溶けた。
ナイフを抜き、アイリス目掛け真っ直ぐ突き刺す。
その手を捻り、ナイフを叩き落としてから、肘でヴェロニカの顔面を強打する。
咄嗟に足を払い、アイリスを転ばせ足で踏んづけようとするが、足首を掴まれた。
ワニのデスロールの如く回転して、ヴェロニカを地面へ叩き付けた。
「あがっ!」
倒れた拍子に鼻の骨が折れ、ムカつく痛みが襲ってくる。
「ニカが悪いんだよ、大人しく言うこと聞いてれば、こんな真似をせずに済んだ」
「ん゛~反省してる゛」
ヴェロニカはだらしなく流れる鼻血を拭い、よろめきながら立つ。
「まだやるの?そういう頑固なところ、ちょっとどうかと思ってた!」
アイリスは怒りに身を任せ、馬鹿正直にヴェロニカをぶん殴った。
ヴェロニカの小さな手のひらは、その右ストレートを受け止めきれず、衝撃を諸に受けた。
吹っ飛ばされ、仰け反り返って大の字になるが、その顔は笑っていた。
アイリスは頭に血が上ると、少し無用心になる。
「だからあの時、仇を討てなかったんだ」
身体が痺れ、指から杖が離れた。
「なに?これは……まひ毒?」
おそらくさっき、ニカを殴った時にやられたのだろう、拳にガラス片が突き刺さっているのに、今やっと気が付いた。
自分という人間は手段を選んではいけない。
腕っぷしが良くないからだ。
だからこそ卑劣で卑怯な手を使い、絡め手で生き延びてきた。
今回も、この手は良く効いたようだ。
血を撒き散らしながら腕を振り、親友の顔を殴り付けた。
アイリスをノックアウトした瞬間、空で爆音と共に閃光が走る。
「全て叩き落とせ、ネズミは踏み潰せ」
輸送ヘリから降りた逸見達は、戦闘で消耗した翼兵達を撃ち抜き、アイリスの部下を撃ち殺した。
圧倒的な武力を前に、戦意を喪失した翼人兵は次々に降伏していった。
元々強制されて兵隊をやっていた彼らは、この国に忠誠など誓っていないのだ。
「貴様ら何をやっている!戦え!」
翼人指揮官は、部下の背中を蹴り拳銃で従わせようとするが、長年恨みを募らせてきた翼人兵から後ろ弾を食らい、その場で絶命した。
その様子を見ていたウラノスは、事態を掌握する好機と見るや否や、捕虜となった翼人達の前に立ち、演説を始めた。
「聞け我が同胞よ!私は見ての通り、君達と同じ翼人だ」
「おいヴェロニカ、あそこで煽動演説をしてるのは誰なんだ?」
「王女だって本人は言ってる」
「王女?王女は翼人だったのか……そりゃいい、これからこの国唯一の人種になるんだからな」
二度目の閃光は、もっと大きかった。
浮島の各所で次々と爆発が起き、コアを失った島は、浮力を失ない地面へ落下してゆく。
「これはいったい!?」
地面が割れて崩れて粉々になって、最後には家や人が宙に放り出された。
「爆破するのが早いぞイザベラ、全員艦に戻れ!」
ヘリに乗り込もうと一歩踏み出した瞬間、視界の端に、慈しむべき友の姿が見えた。
「何をしている、早く乗れ!」
アイリスを担ぎ上げ、ヴェロニカは全力を持って走った。
全速力で母艦へ戻り、下界へ降りる準備を整える最中、レーダに多数の影が写る。
「面白い、戦力の全てをこちらに向けて来たな」
敵の残存する空中艦艇は、敵討ちと言わんばかりに次々と攻撃を仕掛けてくる。
「対艦戦闘用意、SSMを放て」
発射筒から、東亜国製Type67対艦誘導弾が発射された。
マッハ0.85で飛び、何でも吹っ飛ばせる弾頭重量爆薬が備わったミサイルは、多数の目標を撃破した。
「艦底から巡洋艦が接近してる、ミサイルを撃て」
空中艦艇の装甲は船底に集中している。
火力の要である大口径砲を船底へ設置すると、自重で落下してしまうため、必然的に砲は艦の上面に設置される。
しかしいくら装甲を分厚くしたからと言って、そこは武装の死角であり、相手を一方的にタコ殴りに出来る位置であった。
「従来の空艦戦では理想のポジション、だけどジェットの速度は、それを上回る速さで突っ込むわよ」
ミサイルは弾薬庫に直撃し、火柱を上げて大爆発を起こした。
間髪入れず、レーザーが艦を掠めて爆発した。
「畜生、何隻居やがるんだ!?」
雲の隙間から姿を見せる敵は、巨大な鯨だった。
「本命です、空中母艦を発見しました」
「全火力をヤツに向けろ、ミサイル、主砲、機銃、ヘリの全てを使って鯨を狩れ!」