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戦友諸君、死ぬならば墓に金を置いてくれ

「どいてくれ!ほらそこ空けて、お父さん寝てないで手伝って!」


診療所に運び込まれた血塗れの女は、屠殺された鶏のように血を流し、呼吸も荒くなっていた。


「どこで拾って来たんだこんなの……どー見ても訳ありじゃないか」


無数の銃創に切傷、弾き飛ばしたように失くなっている両足、その黒髪の女の隣には、両手に拳銃を握る藍色の髪の毛の女が居た。


「二人揃って足が立たないのに、よくもまぁ生き残れたものだな。訳ありどころじゃないぞ」


怪訝な顔をする診療所の医者は、アンネとアンナの2人を見つめて、追い出そうか悩んだ。


そう、娘が治療をしている間に受話器を取り、警察へ連絡すればよいのだ。


薬品棚を漁る手を止め、電話を取る機会を伺っていたが、医者はまた薬品棚を漁り始めた。


傍らに寄り掛かる彼女の様子が、昔の自分と重なってしまい、情が湧いてしまったらしい。


「全く散々だな」


ハドソンは軍時代の経験を生かし、酷く傷ついた彼女から鉛弾を摘出、止血、縫合を行う。


治療は5時間にも及び、終わった頃には皆ヘトヘトになっていた。


「お嬢さん、銃を預かってもよろしいかな」


「私はお嬢さんと呼ばれるほど、上品に育っちゃいない」


アンネはゆっくりと目を開き、気だるげな体を起こして呟いた。


弾倉を引き抜き、スライドを引いて薬室に残っていた弾を排出した。


「この国では拳銃が違法だから、闇にでも流したら高く売れる。治療費にでも充ててくれ」


「そんな危ない橋は渡れん、ツケにしておくよ。気が向いたら払ってくれ」


「そりゃどうも、……すまない少し眠りたい」


アンネは襲ってきた眠気に抗いもせず、床に倒れ、涎を垂らしながら寝てしまった。


「ちょっと待ってくれ……よし、モーガンさんを呼ぼう」


「父さんマフィアを呼ぶつもり!?」


「警察に話したって仕方ない、預けたが最後、こいつらを狙ってる連中に頭撃ち抜かれて終わり」


「その狙ってるのがマフィアだったらどうするの?」


「その心配ないよ」


ハドソンは受話器を耳元へ引き寄せ、マフィアを呼んだ。




空中艦艇 エリカにて



「噂は本当だったな」


目の前の陸の王者を前に、戦車兵一同ポカンと呆気にとられてしまう。


第三世界でさえ、センチュリオンやT62を保有していると言うのに、ガルマニア陸軍はこの期に及んで戦中戦車を使い続けているというのだ。


「重戦車好きの総統が、レオパルド1の装甲厚に激怒して、急遽造られたのがそのティーガー3よ」


「泣けるね、装甲不要論と予算不足のせいで、終末戦争の頃から乗ってた戦車と同じの操縦するとは」


外見はティーガー2とさして変わりなく、目立った特徴と言えば、外付けされた新型スモークランチャーに赤外線暗視装置、車長用のMG3機関銃である。


ヴァイアーが車内を覗くと、コンピューター付きモニターが設置され、最早ティーガー2とは全くの別物であると理解した。


「面白い、時代遅れの重戦車で、MBTにどれだけ対抗出来るかやってやろうじゃないか」


イザベラはヴァイアーの闘争心に応えて、獲物を用意することにした。


「1週間でそれに慣れて頂戴、フロラカース軍が攻勢を仕掛けて来ている。長引けば、周辺国の参戦を招くことになる」


戦争の行く末が見えない以上、周辺国は勝ち馬に乗る機会を伺っていた。


特に警戒すべきは中央連邦だ。


多民族国家故に統制が執れておらず、クーデターが頻繁に起きているが、だが如何せん数が多い。


アルシャナを脅かす程ではないが、持久戦に持ち込まれれば国力が疲弊し、経済不安をもたらすだろう。


そうなれば国民が怒り狂い、革命という名のクーデターが起きる。


独裁者と言えども、民意に気を使わねばならないのは、実に皮肉なものである。


「カウンターよ、相手の渾身の右ストレートをへし折ってやりなさい」


イザベラは優れた策略家だ。


しかしそれ故に、目的達成の為なら腹の中に居た我が子すらも利用する。


一体どんな理由があってそこまで出来るのか、さっぱり理解出来ない。


友人の嫁であり、指揮官でもあるこの女が行き着く先は、何処なのだろうか。




アルシャナ共和国 首都にて



騒然、それがこの街の特徴だ。


「こちらガーベラ1-1、渋滞で暫く立ち往生だ」


「了解、間に合いそうのない時は歩道を突っ走れ」


「誰がそんなことするか、ガーベラ1-1アウト」


暑さで苛立つドライバー達がクラクションを鳴り響かせ、それを好機と見た商売人が、窓越しに物を売り付ける。


自動車産業の急激な発達によって、生産国で型落ちになった中古車が、諸外国へ大量に送り込まれていた。


お陰で需要が満たされたものの、法整備や道路工事が間に合わず、こうした渋滞を巻き起こしていた。


「大通りはいつも混んでるのに」


「裏道は舗装されてないからバウンドして、傷に障るかと思いまして」


逸見の愚痴を躱すヴェロニカは、エアコンの効かない車内で汗を拭いハンドルに手を乗せた。


「ヨルドラン製の車はエアコンの利きが悪いなぁ」


「ここほど暑くないからな、次は東亜製の車を使おう」


事故車の撤去が終わり、ようやく車列が動き始めた。


交通整備をしている警官の横を通り、基地へ真っ直ぐ帰ろうと思っていたのだが、ずっとつけて来る車両に気が付いた。


試しに何度か右左折を繰り返して見ると、離れて行った。


「気のせいかな?」


ヴェロニカの勘は当たっていた。


そのすぐ後方に、ヴェロニカ達を狙う武装集団が存在していた。


「尾行に気付かれそうだ、別の車両に交代する」


「了解、待ち伏せポイントまで誘導しろ。女は殺すな、男の方の生死は問わない」


テレンスはM712カービンを取り出し、ストックを組み立てる。


銃身を覆う大型サプレッサーに、低倍率のスコープ、薬室を5.56mm亜音速弾用に拡張した市街地戦用にカスタマイズされた一級品だ。


「ドンパチはしたくない、やるなら一撃に限るが……」


そうはいかないようだ。


尾行対象の車が、歩道を突っ走って行く。


「気付かれたな、あからさま過ぎた」


「どうします?」


「ポイントまで誘導するんだ、撃っても構わん」


車両を絶妙なタイミングで飛び出させ、FALライフルで追い込む。


「どうした?どうした!漁港で俺の仲間を殺した腕は何処に行った?」


「そこを曲がったぞ!」


車両の1台が曲がった瞬間、尾行車の尻がボンネットを叩き割った。


「野郎バックしやがった、クソが」


車を降りた二人組は路地へ逃げ込んだ。


大通りから一歩外れれば、そこはギャングや売女の溜まり場であり、重武装の兵士でも生き延びるのは難しい。


生き残る為に溝川へ突っ込む連中は、環境に適応してしぶとく生き残るだろう。


「炙り出す、裏路地を繁華街にしてやれ」


路地へ逃げたヴェロニカと逸見は、四方から迫る煙に巻かれようとしていた。


袋小路、四面楚歌という体験を、ヴェロニカは初めて経験している。


溝鼠達がキャーキャー喚き、火炙りにされている。


「包囲されたが、タントワ山の戦いよりはマシだ。爆撃機も長距離砲の攻撃すらないんだからな」


打開策を考えていると、目の前を右往左往していた裏路地の住民が、パタパタ倒れる。


「もう来たか!」


見えない敵へ牽制射撃を行い、売春宿の中へ逃げる。


薄暗い室内を通り、麻薬漬けにされた女達とその客の間をすり抜ける。


「おいここでなにを!」


騒ぎを聞きつけた店主が前に立ち塞がるが、言い終える前にヴェロニカは飛び膝蹴りを食らわせ、無力化する。


「次はどこに?」


「取り敢えず大通りに戻る、群衆に紛れて基地まで移動するぞ」


鼻を抑え、痛みにもがく店主の声がピタリと止んだ。


その瞬間逸見は振り向き、手元にある全ての火力を叩き込む。


「フラグアウト!」


手榴弾を放り、爆発と同時にヴェロニカを抱えて窓から飛び降りた。


「畜生!お前が軽くて良かったぞ!」


逸見は傷の痛みに耐えながら、大声で軽口を叩く。


「リコ、目標がそっちに逃げた」


その背後からテレンスが迫り、カービン銃を構え、逃げる標的に狙いを定める。


大型サプレッサーの効果によって、銃声は最小まで抑えられる。


結果、狙われている側は、撃たれていることに気付きはすれど、何処から狙われているかは判らないだろう。


この銃は、銃声や悲鳴が響く、こうした状況で効果を発揮する。


サプレッサーによって制御された銃声は、周囲の騒音にかき消され、ヴェロニカの足を撃ち抜いた。


「!」


「フゥ!さぁどうする、見捨てて逃げるか?止血しないと15分で死ぬぞ」


「立てヴェロニカ、お前は担いで行くには重いんだよ」


「さっきは軽いって言ってた癖に!」


逸見とヴェロニカはT道路で背中合わせに銃を構え、頬を掠める敵弾に動じず、包囲しようと取り囲む敵の頭を破裂させた。


「エクラルとジャニジが殺られた。無理に包囲しようとするな、敵は手強いぞ」


アドレナリンで痛みはそこまでないが、気分は素晴らしく最悪だ。


「しまったな、無線は車の中だ。救援すら呼べん」


煙に紛れて狙撃しようとしていたテレンスへ、牽制射撃を行い、踵を返し全速力で逃げようとした直後、正面から敵が現れる。


逸見は即座に射撃し、45ACP弾がそいつの体を破壊する筈だった。


その女は空中で銃弾を静止させ、埃を隅へ寄せるかの如く、指で払いのけた。


「魔法持ちか……ファンタジーの住人め」


それと同時に、屋根をつたって接近し、頭上からの一撃を行う攻撃役が太陽を背に散弾を放つ。


ソードオフショットガンの一撃を寸でのところで交わし、相手に撃たせる前に腰の銃剣で首元を狙う。


敵も急所をやられまいと、逸見の攻撃を腕で受け止めるが、切れ味の良い銃剣は、骨を滑りながら肉を削ぎ落とす。


壁を蹴って一回転しながら、空中で再び散弾を放つ。


至近距離からの銃撃によって、発砲炎で皮膚が焼ける。


バク転でシールド役の魔法持ちの後ろへ退避し、息を整え、散弾銃を再装填する。


まるで居合いをするかのように、双方にらみ合う。


「援護は?」


「無用だ、飛び道具が使えなくなる」


T道路を抜けた先の一本道、もし挟み込めば、銃火器では同士討ちが起きてしまう為、リコはテレンスの申し出を拒否した。


水平二連式であるこの銃の装弾数は2発、だが1発あれば充分だ。


リコは魔法の盾から飛び出し、壁を走りながら逸見へ照準を合わせる。


「なに!?」


「やれヴェロニカ」


目の前に広がるのは、逸見を踏み台に空中へ跳んだヴェロニカだった。


「やぁぁぁぁぁぁぁあ゛!!!!!」


血が滴るヴェロニカの足はリコの顎を砕き、絶命へと追いやった。


綺麗な蹴りが決まったものの、着地した瞬間、足がへし折れた。


傷のせいで、上手く受け身が取れなかったのだ。


「いっだぁい゛」


うめき声で喉が焼け、とんでもないぐらい涙が出てくる。


「よく頑張ったな、俺が鍛えたとは思えない仕上がりだ」


「それ゛どういう意味」


「自分を信用するのは愚かなだってことさ、自分というのは必ず失敗するし、自己中心で盲信的だ」


「そ、それなら゛貴方は……何を信用してるんですか」


逸見はニヤリと笑い、手に持っている物を見せた。


「よぉマジカリスト!手榴弾は好きか?」


手榴弾を魔法持ちの頭上へ投げる。


放物線を描いて投げられる物など、銃弾を止めるより簡単だが、魔法使いの彼女にとって一つ誤算が合った。


手榴弾のピンは抜かれていなかった。


「あぁ、もっと考えて動くべきだったかな」


上へ視線を逸らした結果、腹ががら空きになっていた。


魔法で動体視力を極限まで向上させ、飛んで来る銃弾すら目で追い、空間内の空気を一時的に圧縮させることで推進力を失わせ、鉛弾から砲弾まで止められた。


これら上記の内容は、見えていればの話なのだが。


ガバメントの照準を心臓へ定め、引き金を引いた。


「これだよ、俺が信用するのは」


弾倉を替え、スライドを引いて薬室へ弾を入れる。


憤怒がやって来る。


火災で起きた煙の向こうから、スコープ越しに狙っていた。


「狙いは俺か、良い死に方が出来そうだ」


「そうだ!狙いはお前だ!」


「基地までライフルを取って来るから、仕切り直しにしないか?」


「ふざけてるのか?」


「悪かった、じゃあこいつ病院まで連れて行っていいか?」


「ガキなんざに興味はない!無抵抗の人間を撃つ趣味もな!」


テレンスはカービン銃を構え、逸見を狙った。

少し忙しくなるので2,3週間投稿が遅れるかもしれません。

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