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狙え、共産主義者を根絶しろ

「大将はご機嫌斜めだな」


「そうだな、もう後がないからな。人質はどうしてる?」


「静かなもんさ、2回も戦争に負けてるから、てっきり腰抜けばかりだと思ってた」


(煙草に火を着ける音)


「なぁ、亡命先のミューラは共産国家と聞いてるが、どんな国なんだ?」


「海が綺麗だったよ、あと煙草がうまい」


「行ったことが?」


「昔留学でな。おっと、そろそろ戻るぞ交代の時間だ」


「…………録れたか?」

「ばっちりだ」



アルシャナ共和国 ムジャデニ空軍基地にて



盗聴した会話やトイレを流す音に耳を傾け、敵方の人数を把握するのは良くやる常套手段だ。


その為、こういった雑談まで筒抜けになる。


「向こうからの要求は2つ、捕まってる仲間の解放とミューラへの亡命が平和的解決の条件だ」


「だがそれは無理だろう。我が国はテロリストに屈しない」


作戦指揮官のレオーキ海軍大将の言葉に、他の参謀達も頷く。


「それは建前だろう。言ってやればいい、刑務所に行っても仲間はいないぞって」


これは表に出ていないことだが、大統領の方針により、共産主義者は尋問の後、即刻銃殺刑に処している。


記録では裁判をしたことにしている。


だが最後に殺すと決まってるなら、早く殺してしまった方が、税金がかからない。


まぁ、それが仇となっている訳だが。


「イツミ君、それをやっているのは君じゃないのかね」


「命令は大統領が下している。私は遂行しているに過ぎない」


軍事顧問としてこの会議に参加している逸見は、軍からあまり快く思われていなかった。


折角起きた事件と言う名の昇進チャンスを逸見の指揮する特殊部隊に、次々手柄を横取りされて行ってるからだ。


「まあどうでもいい、今は室内戦に特化した部隊が必要だ。憲兵大隊だけでは想定される全ての最悪な事態に対処が難しい。アルバトロス隊を投入するか?」


「アルバトロスは訓練中で、そしてその訓練を行っているのは我々強襲浸透大隊です」


「………………………………………」


大将のなんとも言えない顔に免じて、良い条件を提示することにした。


「この際、管轄意識は抜きにしましょう。失敗すればこちらの責任、成功すればそちらの手柄でどうでしょう」


もしこうした内部政治がなければ、もっと組織は円滑に回るものなのだが全く厄介なものである。


「分かった。では諸君、全力で取り組もう、長引けばレギオン軍の介入を招くことになる」


「この国を護れ」


レオーキは拳を握り締め、鉛筆をへし折った。





レギオン大使館にて



スーツ姿の男は屋上から蹴落とされて、脳みそを撒き散らした。


「ありゃひでぇ、今落とされたの大使だろ?」


「ですね、あのままだと腐っちゃうな」


大使館を監視するクヌートとルーマは、見せしめに処刑された大使に同情した。


「これで3人目、何人殺されるか賭けてみようかな」


「こら、不謹慎なこと言うな」


「あぁヴェロニカ、今日のメニューは何ですか?」


ヴェロニカは食事と一緒に現れ、3人仲良く同じ監視所で夕食を食べることになった。


「今日はパエリアか、おれは魚貝が嫌いなんだが」


「ならちょーだい」


ルーマはクヌートの皿から海老や貝をつまみ上げ、むしゃむしゃ食っていった。


大使館正面を一望できるこの監視所は、大使館向かい側の民家を借りて設営されていた。


機関銃と狙撃銃が備えられ、いつでも殺せる用意が出来ている。


「ここは飯を食うのに向いてないな、土嚢と弾薬箱で圧迫感があるし、一人部屋に3人は狭すぎる」


クヌートは早くこの狭い空間から抜け出したかったが、ルーマは秘密基地みたいなこの空間に、少しワクワクしていた。


「2人ともホントお気楽、そんなんじゃ………なんだあいつら」


ヴェロニカの目線の先には、記者らしき男が大使館前をトコトコ歩いていた。


「ん!?ありゃどこの記者だ!」


「どうやって空挺連隊の警備を抜けんだろ?」


「そんなことより、あいつらを戻せ!」


スポットライトで照らし、メガホンで戻ってこいと叫ぶが、記者は手を振って返す。


何も理解していない呑気なものだった。


共産主義のクソ野郎にラブ&ピースと叫べば、分かり合えるとでも思っているようだ。


あいつがいる場所は、マスコミじゃなく精神病棟がお似合いだろう。


「誰か!あの馬鹿野郎を止めろ!」


「駄目です、規制線を越えてます。撃たれますよ」


「なら俺が撃ってやる!」


クヌートはそう言いながら、小声で戻ってこいと何度も唱える。


大使館へ向かって10分ほど話し掛けていたが、反応がない為、記者は諦めて帰ろうとした。


記者が背を向けたその時、一丁のAKが彼らに向かって発射された。


慌てて逃げる記者へ、容赦なく撃ちまくった。


大使館の前には、あっという間に死体が出来上がった。


「畜生、誰があの死体の処理をするってんだ」


記者の死体は回収に危険が伴うとされ、1週間の間放置された。


後から判ったことだが、記者は下水道のマンホールから侵入し、テロリストとの対話を行おうとしていたらしい。


その身勝手な行為の結果、死人にも関わらず、政府や同業者からも袋叩きにされ、遺族が名誉毀損でアルシャナ政府を訴えた。


勿論棄却されたが。


作戦の雲行きは怪しかった。




アルシャナ共和国首都 諜報員アデリーナにて



小さな安物の扇風機が回り、ハエが耳元で飛び交うこの薄暗い部屋で、アデリーナはかれこれ2時間粘っていた。


「そんなに目をされても困る、うちはスラムの連中に武器を売り付ける阿漕で安い商売をしているんだ。CLNFに武器売った覚えはない」


「別にあんたらを逮捕しようって話じゃない。今はそれよりも大使館の問題が優先だ。さっさと話してくれれば、その阿漕にな商売とやらの収入を失わずに済む」


商人が振り返ると、入り口では銃を買いに来た客を手下が追い返している。


客も中の様子を見て込み入った話だと悟り、回れ右して帰って行く。


「ただ名簿を見せてくれるだけでいい」


武器商人は鼻で笑う。


「名簿だと?うちの客人は武器を買ったことを知られたくない連中が大半だ。そんなものは何処にもないし、仮にあったとしても見せる訳がない」


「何を売ったかぐらいは記録してあるでしょ、それさえ見せてくれれば、それ相応の見返りを用意する」


「話にならんな、AKやRPGなんて何処にでもあるのに、なんでそんな物に拘る」


「誰がライフルやロケット砲を探すなんて言った。大華国製のデッドコピー品なんざに用はない」


アデリーナはテープレコーダーを取り出し、再生ボタンを押した。


ミサイルアラートのけたましい警報音が鳴り、フレアを射出する音が聞こえる。


たった14秒音だけの証拠だが、それで充分だった。


「大使館上空を飛行したヘリのフライトレコーダーの記録だ。幸いミサイルは発射されなかったが、連中がMANPADSを持っていることは確かね」


「チッ、なんだよバレてたのか。着いてこい」


南京錠を解き、地下室への階段を降りると、山積みになった武器の数々があった。


「お探しの物はこれか?」


箱の中には、地対空ミサイルとその弾頭が詰め込まれていた。


「ストレラミサイル、こんな物まで出回っていたとは……」


「発射機を2つ、弾頭は10発売った。俺を逮捕するか?」


「私は警察じゃないんだ、残りの発射機と弾頭は全て買い取る。他には何を売った?」


「そこからは追加料金だ」


鍵を回して手遊びする商人は取引を持ち掛けた。


「情報もまた武器という訳か、幾ら欲しい」


「金なぞ幾らでも稼げる。俺が欲しいのは安全だ」


武器商人というのは言わずもがな危険が伴う仕事だ。


安全に武器を売るというなら、国という後ろ楯が必要らしい。


つまり国が認める武器商人という、肩書きが欲しいのである。


「手配する」


上機嫌になった商人は、爆弾を取り出した。


「南の方からやって来た極上物だぞ。同じ量のTNTと比較しても、10倍の威力がある」


「どうやったらそんな爆発起こせるんだ?」


「こいつを売り付けた耳が長い連中は、魔法を仕込んだと言ってた。ジョークを好き好んで言う奴らには見えなかったが」


「でしょうね、だって本当だもの」




アルシャナ共和国 特別訓練施設にて



大使館と同じ構造の建物を急ピッチで建設し、集められた情報を元に訓練が始まった。


何度も繰り返し完璧になるまで続け、ベニヤ板の標的を何百枚と撃ち抜く。


「人質を撃ってるぞ、誰が撃った?」


「私が撃ったかも」


ルーマが手を上げ、申し訳なさそうに答える。


「もう一度だ、さぁ配置につけ!」


訓練では様々な状況をランダムに用意した。


手榴弾を使ったブービートラップやドア裏に隠れる敵に、室内でもお構い無しにRPGを撃ち込む敵を配置し、コンマ数秒でも反応が遅れれば死亡する、極限の戦闘を想定した訓練を行う。


今回の作戦に伴い、ガルマニア帝国から100丁のMP5と閃光手榴弾を購入した。


短機関銃ながらも高い精度を誇り、世界中の特殊部隊で使用される、世界最高傑作と言っても過言ではない銃である。


「最初は屋上からの突入も考えていたが、地対空ミサイルの脅威がある以上、ヘリは使えないな」


「トンネルを掘るのもいいが、上は一刻も早い解決を求めている。長引けば政治的にまずい」


アルシャナ政府が弱腰とみれば、レギオン国民の怒りが爆発し、軍事介入を招くことになる。


あの国は世論に動き、世論で動く国だ。


終末戦争では多すぎる犠牲に国民の戦意が喪失し、南レギオン大陸での戦争では、大義を失ったことで国中で反戦運動が起きた。


民主国家最大の強みであり弱点は、国民なのである。


今現在戦争中の身としては、他国軍の介入は防ぐべきだ。


連中の正義の名の元に、戦争計画を引っ掻き舞わされるのは御免なのだ。


「何はともあれ、作戦に必要な装備も人材も揃っている」


「特殊憲兵大隊と強襲浸透部隊のタスクフォース、後方支援には陸海軍が全面的な支援を行う」


「いよいよか……」


ヴェロニカはMP5を握り締め、まだ先の未来に震える。


今この場に居る人達の何人かは死ぬだろう。


何万人と、この手で造った兵器で殺して来たというのに未だに殺し殺されるのが怖いのだ。


これから、自分はもっと酷いことをする筈なのに。


「やってやろう、敵は大使館に有り、だ」

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