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色欲の形は人それぞれ

ドアをノックする音で、リタは目を覚ました。


「リタ?いつまで寝てんの!あと一時間で授業だよ!」


ドアを開けると、ローリーの目には、いつもの光景が見える。


「やぁローリー」


「服着なよリタ』


全裸で立つリタの背後に、ベッドで横たわる小さな女の子が居た。


「また後輩を授業に遅刻させるつもり?』


リタは頻繁に後輩を自室に連れ込み、疲れさせてしまう。


「ルーマちゃんで39人目になるかな、遅刻させたのは」


友人の無責任さに呆れたローリーは、すやすや眠るルーマとやらを起こす。


「起きて、貴女昨日転入してきたばかりの子でしょ、初日から遅刻なんてしたら、大目玉食らうよ」


ローリーはルーマの身体を見て、凄く綺麗だと思った。


日焼けも怪我もしていない。


この時期の女子達の天敵である、汗もやニキビのようなできものも、一つすら出来てない。


「羨ましい限り、どんな健康食品食べたらこうなるんだろ」


ルーマはふらふらしながら起き上がり、制服を着ると、次はよろよろしながら歩く。


「大丈夫?」


「えぇ、あぁ、うん、すごかった」


「行為の感想はいいから、早く行っておいで」


ルーマは死んだ目で教室まで歩き、席に座ると、教師の眠くなるような挨拶と話を華麗にスルーする。


よぼよぼの婆さんが、かすれ声で教科書の内容を述べているだけなので、授業は誰も聞いていなかった。


本を読んだり、お喋りしたり、机に足を乗っけて眠る奴もいた。


「この学校本当に大丈夫かな」


その後、昼食休憩が訪れるまでの間、素晴らしくつまらない授業が続いた。


ルーマは誰とも話さずに、リタが待つ連絡通路へ向かった。


「あれがアネモネ、偉そうでしょ」


「はぇー、絵に書いたようなお嬢様って感じ」


ブロンド髪を反射板のようにきらつかせ、取り巻きの女子に囲まれる姿は、まさに艦隊。


「戦艦アネモネを旗艦とし、その他護衛艦4隻で構成されたアネモネ艦隊だ」


「その艦隊をどう攻略しようか、真正面からはムリ」


「確かに、今の私達だと、戦艦にポン付け武装の漁船で突っ込むようなものね……てか」


「私の話に付いて行けるのね」


「仕事で必要ですから」


「仕事?」


おっと、口が滑った。


唇を丸め、口を両手で塞ぎ、目線を右上へ逸らした。


「そんな判りやすい反応されると、下半身が潤うから止めて欲しい」


「何をおっしゃっているのですか、前世が男だったりしません?」


「そんな小説みたいな話、あるわけないでしょ」


双眼鏡でアネモネを偵察するルーマへ、リタは疑問に思っていたことを質問してみる。


「どうしてアネモネの事を調べてるの?」


「それは秘密」


「ふぅん、秘密が多いとモテるって言うから、まぁ良いんじゃない」


「隠し事は仲を引き裂くって、わたしの上司が言ってた」


「じゃあ話してくれる?貴女の秘密」


不味いな、本当に変なのを協力者にしてしまった。


「裏切らない保証が何処にもない」


「ならこうしよう、私を外へ脱走させて欲しい」


なんという偶然だろう。


この下ネタ大好き変態さんと、利害が一致したのだ。


「男を取っ替え引っ替えして、金持ちと結婚するなり、私をここへ入れた母親なんかの言いなりにはならない。あいつの顔に泥を塗ってやろうと思ってる」


この女ったらしな原因は、育った環境にあるようだ。


母親へは笑みを浮かべ、自分を邪魔者扱いする母の再婚相手達のせいもあってか、リタの男性不信は今最高潮を迎えている。


「それで、何が目的なの?」


ルーマは観念して全部話すことにした。





女学校地下室にて


ホルマリン漬けされた臓器を、じっと眺める人影があった。


「冗談じゃないぞ、今月まで100人分用意しろって?姉さんの頭はイカれてるみたいだな」


「私が冗談を言ってるように見えるか!」


「うるさいな、姉さんはいつも声がデカいんだよ」


「兎に角100人分の素材が必要なんだよ!」


「動物を密猟するとは訳が違う、100人も居なくなったら流石に気付かれる。首を括られたいなら話は別だけど」


「だから!100人拐ったあとに高飛びするんだ!それで借金も全部返して!全部元通り!」


言い争う彼女達の後ろで、腹を開いたまま放置されている女子生徒の姿があった。


花弁のように皮膚が開き、中の臓器が触れる筈のない空気に触れている。


太ももが裂けて、大量出血を起こしているが、死ぬことなく生き続けていた。


「姉さん、話は、後にしてくれ。今、解体の、真っ最中、なんだ」


メスで、慎重に必要部位を取り出し、冷凍保存する。


裂けた腿はノコギリで切断し、ゴミ箱へ、使える部位は全て有効活用する。


「ふふ、やっぱりこの子の目は綺麗ね〜」


切除した物をホルマリンの瓶へ入れると、死に顔一枚撮り、写真を瓶へ貼った。


瓶詰めの思い出は、既に49個を越えていた。


「あと一つで完成、待っててね。ルーマちゃん」


スクラップ帳には、ルーマの顔写真が張り付けられていた。


記念すべき50番目の瓶詰めは、あの子供に決まりだ。


散弾銃へスラッグ弾を装填し、クロスボウの矢じりに麻痺毒を塗った。




ヴェロニカにて


「午後は1年生か」


私は子供の頃、学校の先生になりたかった。


何故かと言うと、起こられなくて済むからだ。


頭ごなしに叱って来られるのは、子供ながらに気が滅入るのだ。


「こんにちは〜、皆さんよろしくお願い……」


少し前に見た顔がある、そうあの顔は、東亜国のガルマニア大使館で見た顔だった。


少年兵は良く見た事があったが、少女兵はあの赤い目をした子が初めてだったからだ。


「あっ、君はルーマ」


「ヒトチガイデス」


「いや東亜で会ったでし」


「ヒトチガイデス」


「いやでも」


「ヒトチガイデス」


「「………………………………」」


周りはキョトンとし、珍妙な空気が教室に流れる。


微妙な空気のまま始まった授業は、東亜国での話から始まった。


「駅のホームで待っていた人々が、機銃掃射でズタズタにされて行った。子供も老婆も皆死んだ」


内容があまりに凄惨な為か、温室育ちの生徒は顔面蒼白なりながら俯き。


ある程度社会経験を持っている生徒は、友達と一緒に冗談を言い合って、余裕だとアピールしていた。


様々な困難を乗り越え、数々の場所を旅して来た彼女の話は、さぞ冒険に溢れていたに違いないと、全員が勘違いしていた。


「まだ生きてる人間の腕に蛆が付いていた、結婚指輪をはめていたから、多分妻か娘が居たんだと思う」


「街のど真ん中で横たわっていたのに、誰も片付けようとしない。家族が居るのに、誰も見つけてくれない」


この教室でヴェロニカの話を、まともに聞いていない者はいなかった。


惨たらしく、限り無く絶望的な内容は、聞き手の心を締め付け、寝る前に思い出させ、考えさせられる話だ。


その姿はまるで、アンネ教授のようだった。


「それで、どうして君がここにいるんだ?」


授業が終わるなり、ヴェロニカはルーマへ詰め寄った。


「別にあなたが目的ではありません、わたしは別の目的でここに来ていますから」


「別の目的って、どうせろくでもないことでしょ」


「いえ違います………違いますよ。ここには勉強しに来ただけですから……本当ですよ。ともだち?も一応出来ましたから」


どう見ても嘘だ、しかしだからと言って、彼女を拘束することも追い出すことも出来ない。


「何か不審な動きをしたら、学校へ報告しますからね」


ルーマへ疑惑の目を向けていると、その隣へ、リタと言う女が近付いてきた。


「ルーマ、今晩もうちの部屋にどう?」


「遠慮しておきます」


「つれないなぁ、そんなに警戒しなくても、いかがわしいこと以外は何もしないから」


リタはルーマの頬を突っつき、まるでナンパ男のように迫っている。


「ほら、ともだちがいるでしょ」


「肉体関係だけの交友は、健全とは言い難い」


「どうでしょう、我々が健全ならば、誰も地獄へなんかに落ちない世の中になりますよ」


彼女の死んだ目は、私が見てきた人間達と同じ目をしていた。


赤い瞳に黒く濁った目だ。


瞳孔の血溜まりを蠅が飛び交い、蛆虫が這い上がろうとしている。


「あぁまずい、引きずり込まれる」


酷い違和感を覚える。


この世界から、別の世界へ落とされそうな感覚に。


そっちの世界から話し声が聞こえて来た。


「ユーラシア大陸壊滅を受け、米、英、日の各国は、ABJ協定を」「アルデンテの原子力発電所で、メルトダウンが発生」「ロシアの黒海艦隊とNATO軍が戦闘状況に突入し」「アフリカでの外国人難民数が800万人を超え、今後も中国と欧州から」「南米では、麻薬カルテルが難民狩りを」


「ルー、マ、ルーマ」


「ルーマ!どうしたの、急に倒れて」


リタが心配そうに見つめてくる。


「ちょっと立ち眩みが………」


どさくさに紛れて、臀部と胸部に触れるリタをビンタし、起き上がる。


「じゃあ、ヴェロニカさんご機嫌よう」


あの子、たった今どこかへ行きそうになった。


ここではない別の世界へ、蹴落とされるように。


違和感に喰われる寸前だったのだ。


「畜生どっかの性悪な奴が、娯楽の為に人を異世界へ送りつけてるに違いない」


ヴェロニカは頭を振り回して、脳に住み着く不安という名の寄生虫を取り除こうとする。


「ん?」


今気が付いたのだが、随分欠席の生徒が多い。


自慢じゃないが、私の話を聴きたがる人間は、かなり多い。


「何か、なにかを見落としている気がする」


色々修羅場を経験してる身としては、こういう時は先手を打って行動した方が身のためだ。


懐へ忍ばせた拳銃に触れ、動作確認を行う。


「女の勘とやらに頼るとしますか」


まぁ、私は男だけど。

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