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奇襲と爆撃

ソルトビエ東部軍司令部にて


「旧式兵器を在庫処分感覚で投入するのは止めたまえ、2個戦車大隊が壊滅したぞ」


ソルトビエ軍は、快速の軽、中戦車を駆使して東亜軍の防衛戦を破ろうとしていた。


奇襲効果も相まって、しばらくの間は順調に進軍出来ていたが、歩兵が戦車に付いて行けず、対戦車火器を装備した東亜軍歩兵に各個撃破された。


「装甲兵員車の配備はどうなっている?このままでは、タンクデサント兵の血で戦車が染まってしまうぞ」


「お言葉ですが将軍、我々がガルマニア、レギオン、ターキーとの睨み合いを続けている以上、最新装備が、極東へ優先的に配備させる事はありません」


「だからといって、BTシリーズを投入するのは人的資源の無駄だ。どんなに良いものでも限界がある」


「ではどうなさいますか?腐らせて置くのも、勿体無い気がしますが」


「これからは質を追求する時代だ、BTから装甲を切り取って、主力戦車に貼り付けろ」


東亜軍は巧妙に隠蔽された砲で、戦車の装甲が薄い側面を撃ち抜いてくる。


例え47mmの小口径な砲でも、使い方次第では恐ろしい戦車キラーになれる。


即席の増加装甲で、少しでも側面を守ろうという案だった。


「分かりました、ではその通りに」


「まて、一つ釘を刺しておきたいことがある。海上からの強襲上陸に注意して欲しい、補給線を分断されれば、いくら精強な部隊と言えど、無事では済まんぞ」


ジェゴビッチ将軍は、離陸するMig15戦闘機を見上げながら、一つの不安を募らせていた。


若い将校連中は、東亜軍との戦いをやったことがない。


その為、地を埋め尽くす大量の戦車と、地面を耕す大量の砲で、戦争に勝てると思っているようだ。


だが東亜軍の真の強さは、狡猾な戦術でも、茂みに潜む対戦車砲でもない。


最後の一兵になろうとも、戦うという意思だ。





東亜軍前線基地にて


兵士達は慌ただしく動き、燃えるドラム缶へ書類をくべる。


「急げ!重要書類は燃やせ、持って行ける物は全て持て!燃やせる物は全て燃やせ!」


前線基地が航空攻撃を受け、防衛困難と見た上は、転進(撤退)を決意した。


「トラックはもう一杯です、乗せられない者はどうすればよいですか?」


「負傷兵は安楽死させろ、どのみち連れては行けん」


扇基地司令の残酷な決断に、胸が締め付けられる思いだが、直ぐそこまでソルトビエ軍が迫っている以上、彼ら負傷者を放置すれば、死ぬよりも辛い事が待っているのは明らかだった。


「私は戦没者神社に行けないな」


基地司令は覚悟を決めた目をしていた。


軍医と協力して、負傷者へビタミン剤と偽って注射を打った。


「すいません、もうすぐ戦えるようになりますから」


「たすけて、たすけてくれ、死にたくない」


ある負傷者は注射器の中に入ってる物を悟り、まるで親の仇のような目でこちらを見ている。


「俺を殺すのか、卑怯者め」


そんな目をしていた。


片足で這いつくばり、士官へ必死に戦える事をアピールする兵士を見た。


「見てください、私は足が失くなっただけです。銃は撃てます!ほら、まだ指が10本揃ってるでしょ!」


士官は、懇願する兵士を無視してトラックへ乗り込んだ。


「なんだよ!俺はまだ戦えるぞ!武助の野郎を10人殺してやるんだ!畜生!バカ野郎!」


兵士達は、最終防衛目標である首都 新都を目指して向かった。


吉村が前線基地へたどり着いたのは、そんな事の後だった。


「伝令です、誰かいませんか!」


真っ暗闇の中、静まり返った基地を割れたランタン片手に、恐る恐る探索する。


「何方か居られますか?」


人の気配を感じ、医療テントの中へ入るが、もぬけの殻だ。


気のせいかと思い、テントから出ようとした時、何かに足を掴まれた。


ランタンの光を照らしてみると、人の手が自分の足を掴んでいた。


「はっ?!」


びっくりしてランタンを落とした瞬間、自分の周りが死体だらけだと知った。


ではこの手は、どうやって私の足を掴んだのか。


冷や汗が出るよりも早く、テントを飛び出した。


「ようあんちゃん!俺の足知らねぇか?」


外へ飛び出すと、片足のない軍曹が這いずりながら近づいてきた。


「ああああああぁぁぁ!!!!!」


脱兎の如く逃げ出し、ネズミのように怯えていた。


ひたすら得体の知れない何かから逃げていると、鉄の塊にぶつかった。


「なんだ?猪でもぶつかったのか」


戦車長がキューポラから、顔をひょっこり覗かせて見ると、土と血で真っ黒になった妖怪のような人間がそこにいた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!」


5分後……


「へぇ〜国境の方から歩いて、ご苦労なこった」


吉村が遭遇したのは、本土から派遣された、第七師団所属の戦車隊だった。


「貴様俺の部隊に入らんか?」


「しかし伝令が」


「逃げた連中を追ったって追い付けやしないさ、なんたって逃げてるからな」


羽田戦車長は戦車帽を吉村へ被せ、命令を下す。


「吉村二等兵、先ずは装填手として戦車に付け」


戦車長の操る戦車は、61式重戦車だ。


90mmライフル砲を装備し、7.7mm同軸機銃と12.7mm重機関銃を装備した、東亜軍新鋭戦車である。


「ソルトビエのT54戦車の正面装甲でも、こいつの砲で貫ける」


戦車長は暗闇の中、そう吉村へ自慢すると、戦闘準備を始める。


「各車無理はするな、目的はあくまでも遅滞戦闘、包囲されそうになったら退却せよ」


「我々は饅州だけを守るのではない、故郷、そして家族を護る為に戦うのだ」


「防人諸君の活躍を期待する」




饅州首都 新都にて


「空襲警報発令 空襲警報発令 頑丈な建物へ待避して下さい」


Tu-4戦略爆撃機と護衛のMig戦闘機を連れた爆撃編隊が、今まさに襲い掛かろうとしている。


「あぁ、まるで終末戦争の時みたいだ」


ヴェロニカは愚痴を溢すと、床へ伏せて静かに耐えた。


ホテルでは、爆撃に馴れていない従業員や観光客達が、てんやわんやの大騒ぎだ。


「馴れてますねヴェロニカ」


「伊達に修羅場くぐってませんから」


「今、上から爆弾を落としてる爆撃機がどうやって造られたか知ってますか?」


キャロラインは机の下に隠れながら、歴史の授業を始める。


「確かヨルドラン戦線でソルトビエに不時着したB29をコピーした物でしたよね」


「レギオン合衆国は、B29が東亜国本土までたどり着ける島は確保できたんだけど、航続距離が饅州まで届かなくて、ここには空襲が来なかった。それで、(省略)レギオンが達成出来なかった目標を、今の敵、ソルトビエが達成するなんて、随分皮肉な話じゃない。(一部省略)それで爆撃機の航続距離は確保したんだけど、戦闘機は随伴出来なくて、それで東亜軍の本土防空部隊に撃墜される事態が多発する事になって、超高高度での爆撃機で精度が悪くなってしまったのよ。(大部分を省略)更にさらに、潜水艦による鼠輸送は〜」


キャロラインは歴史の事になると、小説に鉤括弧付きの長文を書けるぐらいの量を話す。


その間にも、機銃掃射で列車が銃撃され、東亜軍司令部に爆弾が落ちた。


道路に大穴が開き、外国人居住区で爆弾が炸裂した。


着弾地点にばらつきがあり、あまり戦略的とは言えない爆撃だった。


「多分だけど、爆撃の破壊よりは、恐怖の効果を狙ってると思う」


軍施設やインフラ等への攻撃は最低限に行い、後は無差別爆撃に切り替えたようだ。


都市攻撃に馴れていない新都の住民にとって、頭上から迫る爆弾は恐怖そのものだ。


そして、民間人が一斉に都市から脱出を図ろうとすれば、駅のホームに人がごった返し、道は手荷物を抱えた人々で埋め尽くされるだろう。


そうなれば、軍は自国民保護の為に人手を割くことになり、軍需物資を運ぶ列車や船の一部は、民間人輸送の任に付くことになる。


「ソルトビエの連中も考えましたね、共産主義者にとって戦争はお手の物って訳ですか」


「自国から出る時は、戦車以外で出たことがない連中だものね」


2人の女は互いにジョークを飛ばし合い、雨時々爆弾の天気の中でも、日常を作り出していた。


「爆撃が止んだわね」


空を見上げれば、東亜軍のレシプロ戦闘機が勇敢にも敵へ攻撃を仕掛けていた。


しかし、ジェット戦闘機の速力と空対空ミサイルに阻まれ、空高く飛ぶ爆撃機へ弾を届けることさえ出来ない。


勝敗は決したかに見えたが、東亜軍戦闘機の内の一機が、猛烈なスピードで上昇し、Tu-4爆撃機へ体当たりを行った。


「すごい、なんてパイロットだ」


それに続き、また何機かの東亜軍戦闘機も、体当たりを実行する。


その様子にヴェロニカは、東亜側が負けると思っていた意見を心の中で覆した。


この戦争、まだ勝敗は付いてないように思えた。





下士官の手帳日記より

大本営発表


饅州防衛部隊は転進の後、敵部隊へ勇猛果敢に攻撃し、これを撃退


敵機200撃墜

我が方損害軽微


敵戦車400両以上を撃破

我が方の損害微々たるもの




大本営は数の数え方を知らんようだ

30機出撃して30撃墜された、30-30は幾つだ?そうだ0だ。

いつも貧乏くじ引かされるのも、責任を負うのも現場の役目だ。

もし今度、中央の威張り腐った将校を見かけたら、零戦の20mm機関砲で粉微塵にしてやる。

ソルトビエのMigに搭載されている機銃より、口径は3mm小さいが、味方から撃たれたとは気づきやしないだろう。

なんたって連中は1を100に変えたり、100を1と数える、数え方を知らない連中だからな。

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