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我国情勢複雑怪奇

突然建物が揺れ、大きな爆発音と火薬の匂いが漂って来る。


「なんだ!?」


辺りが騒がしくなり、部屋の扉一枚隔てただけで、別世界のようだった。


「私が確認して来ます」


護衛がドアノブを捻り、半分まで開いた瞬間、短機関銃に撃ち殺された。


「ドアを閉めろクソッタレ!」


テーブルや椅子を組んで、即席のバリケードを構築する。


扉越しに、9mmルガー弾が飛び、壁に無数の穴を開けた。


次にライフルの射撃音が聞こえ、機関銃を撃っていた人間が倒れる。


「おいブリタニカ野郎!生きてるか?」


「………………」


部屋の中を静寂が包むが、誰も返事はしなかった。


敵か、それとも敵の敵か判らないからだ。


「総統閣下がやられた!誰か来たら撃て!親衛隊でも国防軍でもだ!」


銃声と怒号が飛び交い、何がなんだかさっぱりだった。


「誰か私に、今何が起こっているか説明してくれないか!」


首相の疑問に、誰も答えられなかった。




独立混成旅団 ヘルリーゲルにて


「どういう事なんだ!?」


逸見は国防軍人達の死体を踏みつけながら、この異常事態に怒り狂っている。


「落ち着いて下さい。先ずは状況の確認を」


捕虜から敵の場所を聞き出した後、速やかに首都内に潜む国防軍の反逆者を殲滅、その矢先の事だった。


総統控え室が突如爆発し、各地で国防軍と親衛隊が撃ち合っているのだ。


「旅団長、これはクーデターなのでは?」


「クーデター?ありえない。その企てをした人間は、たった今皆殺しにした筈だ」


強烈な鉄と銅の匂いが充満する部屋にいれば、それぐらい分かることだ。


「親衛隊が反乱を起こした可能性は」


ハールマンの仮説に、その場に居た全員が、まさかと否定する。


総統大好きジークハイル集団の親衛隊が、総統に牙を剥くなど、スペインの無敵艦隊が負けるぐらいあり得ない。


「ん?」


いやまて逸見、自分が頭の中でこんな例えする時は、大抵何か見落としてる時だ。


だが、今それを考えてる時間はない。


一刻も早く、誰が総統を攻撃したのか突き止めなければならない。


ここは一つシンプルに物事を考えよう。


近くの電話ボックスまでより、ダミアン大将に連絡を取る。


電話交換手が聴いているので、機密を避けて話すよう心掛けた。


「ダミアン大将、現在首都は、敵味方入り乱れています。信頼出来る部隊以外を待機させましょう」


「君の部隊だけで制圧できるのかね?」


「今は、壊死した指を探す時間はありません。腕ごと切り捨てて、後から繋ぎ直すのが最善かと」


「君の判断を信じよう。フロラリダから空挺を引っ張ってくる。君の言う信頼に値する部隊だ」


「感謝します」



(全国防軍将兵へ通達、自衛以外での戦闘行動を禁ずる。首都から退却せよ、6時間以内に退却しなかった場合、敵勢力と見なす)


この命令により、首都防衛を担う国防軍部隊は、一時的に首都を離れた。


「喜べ全員仕事だ!お国の為に死ねるぞ」


「ジャネット、会場の裏口から回り込め。クヌートとヨゼフは来賓館へ向かえ」


「奴らの首を凱旋門に吊るしてやれ!」




ヴェロニカにて


クローゼットの隙間から、そっと辺りを見渡す。


「もう誰もいない、よね?」


取材が終わって一段落した頃、トイレに行ってる最中だった。


突然爆発音と銃声が響き、煙が室内まで充満して来たので、慌てて逃げ出したのだ。


そして今は、クローゼットの中に隠れ、脱出の機会を伺っていた。


戦闘が収まっている今こそ、絶好のチャンスではあるが、ヴェロニカには、おいそれと動き回れない理由があった。


「もう!なんでパンツ忘れてきたかなぁ!」


慌てていた為か、パンツをトイレに忘れてしまっていたのだ。


お陰で下がスースする上に、大股で歩くことが出来なかった。


こんなとこ見られたら、恥ずかしくて撃たれる前に死んでしまう。


「いやそうじゃない、私は男だろ!」


気が狂った自分を叱咤する為に、頬を叩こうと腕を上げるが、クローゼットに肘をぶつけてしまう。


「なんでこう、行く先々でこんな目に遭うんだ」


「通勤中の電車か、ベッドで寝る前に私を見てるお前、人の不幸を娯楽にしてるお前だ。恨んでやるぞ畜生」


壁を指さし罵るヴェロニカは、虚無感に包まれ踞る。


……何を言っているんだろうか私は。


ここから帰ったら、精神鑑定を受けた方が良さそうだ。


多分異常と出るだろう。


クローゼットから出ると、廊下を小走りで駆け抜ける。


靴はトイレに置いてきてしまったが、そのお陰で足音を立てずに動くことが出来た。


「何か見つかったか?」


「いや、何も。どうして俺達は国防軍と戦ってるんだ?」


「国防軍がクーデターを起こしたんだ。ハイリム長官がそう言っただろ」


「ならなんでラジオは何も言わない。総統が国防軍に暗殺されたなら、国家の一大事じゃないのか?」


「情報統制が敷かれてるんだ、混乱を避ける為に」


「絶対変だ。なんで長官は総統を暗殺したのが、国防軍だと分かったんだ?俺達はなんで急に帰還命令が出たんだ?」


「それ以上は喋るなよ、お前の死体なんか誰も見たくない」


兵士の会話を盗み聞きしたヴェロニカは、断片的な情報とかつての記憶から、何が起きているか推測する。


ハイリムの事は良く覚えている。


現役の頃、何度かガス兵器の効果について尋ねられた。


体は女のように細く、目は狐にそっくりで、冷酷で冷徹な男だった。


「総統を暗殺……あの男ならやりかねない」


思考にふけっていると、またバカスカと銃声が聞こえてくる。


恐らく鎮圧部隊が来たのだろう。


これを好機と見て、裏口から脱出を図る。


「まだ、贖罪が出来てないのに、死ぬ訳にはいかない。必ず生きて帰らないと」


裸足で大理石の床を歩いていると、煤の臭いが漂ってくる。


どこかで火災が発生し、黒煙が通路を塞いでいたのだ。


覚悟を決めると、姿勢を低くして、黒煙の中を突き進む。


咳が激しくなり、目がチカチカしてくる。


煙で方向感覚が失われ、呼吸が苦しくて思うように歩けない。


「こっちだ」


誰かが自分を呼んだ気がする。


「がんばれハーバー、償いをするんだろ」


懐かしい声が聞こえる。


「誰かそこにいるのか!」


煙を抜けた先には、国防軍の制服を着た兵士達がいた。


「民間人発見、これより救助に当たる」


助かった、そう安堵した時、2発の銃声が兵士と安堵の気持ちを撃ち殺した。


「なんだクソ、止まれそこを動くな!」


「占領地出身の人間が、親衛隊員を撃つのか。飛んだ重罪だ、家族ごと収容所送りだ」


国防軍兵士の彼女の手は、小刻みに震えている。


「ガーベラ1-2応答せよ!おいジャネット、今何処にいる!?現在位置を報告せよ」


死んだ兵士の無線から、必死に呼び掛ける声が聞こえてくる。


「そ、それがどうした。射殺許可は出ている!」


「そんなもの、あとからひっくり返されるに決まっているだろ」


親衛隊の男は、じわじわとジャネットに近付く。


親衛隊は文字通り権力の中枢に位置する。


そして相手は、移動虐殺部隊と揶揄される特別行動部隊だ。


もし、撃てば、家族共々収容所送りになる。


だが、撃たなければ殺される。


ジャネットは、祈るような気持ちで撃った。


「惜しいな、結構可愛い顔してるのに」


ジャネットはサーベルで首を切られ、壁際へ押し退けられた。


食い込んだサーベルを退けようと、弱々しい手でサーベルの刃を掴むが、指を切るだけで終わってしまう。


「あ゛う゛ぐぅぅ」


サーベルを首から抜き、包帯で噴き出す血を押さえる。


「ほ〜ら、しっかり押さえろ。出血多量で死ぬぞ」


サーベル男は、ヴェロニカの方を向き、腕時計を見る。


「お嬢ちゃん、警察ごっこをやろう。一分やるよ、逃げろ」


ヴェロニカは、追い詰められたサソリのような目で、サーベル男を睨んだ。

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