公平に精査した結果
今回も差別的な表現が伴います。
気分を害された方がいましたら、申し訳なく思います。
ガルマニア帝国にて
公園のベンチに腰掛け、新聞を読むふりをしながら、ヨーマイは静かにその時を待っていた。
しばらくして、隣に赤い髪の女が座り鞄を置いた。
「フットボールの加害範囲は50m、起爆すれば1000の鉄球が飛び散る。側面にあるタイマーで起爆時間を調整して下さい」
ヨーマイは鞄を持つと、停めていた車に乗り込み、条約締結会場へと向かった。
街は予定通り、制御された活気に溢れていた。
パレードと、それに喝采を浴びせる国旗を持った民衆、上空を飛行する飛行機。
そんな賑かさも、まやかしかもしれない。
緊張で汗が止めどなく出てくる。
当たり前だ、私はこれから、この国最高の権力を殺す事になるのだから。
「ヨーマイ大将、こんな時間にどうされたのですか?」
「いやなに、ヘルゲン大臣に届ける荷物があってだね」
「会場内に持ち込む物には検査が必要です」
ヨーマイは手を払い、最もらしいことを言って誤魔化そうとする。
「国防に関わることだ、中を見れば銃殺刑だぞ」
「では身体検査だけでもお願いします」
「私は親衛隊大将だぞ」
「規則ですので」
FBK(総統警護隊)の連中が、しつこく調べてくるが、問題はないと言われホッとする。
辺りに誰もいない事を確認すると、総統の控え室に侵入し、爆弾を置いた。
後は、時計の針が全てを進める。
平和条約締結会場にて
ブリタニカ首相とガルマニア総統が互いに握手を交わす。
まさに歴史的瞬間だった。
だが、首相も総統も目は笑っておらず、終始ピリピリとした空気だった。
両国とも、背後の敵に対抗するために、一時的に休戦したのであって、心の底から平和など望んでいないのである。
その証拠にブリタニカは、ガルマニア軍の毒ガスで苦しんだ少女をゲストとして招いた。
これは、「お前がやったこと忘れねえからな」と「我々は何度でも立ち上がる」という遠回しな煽りであった。
一方ガルマニアは、「外交とはテーブルの上で握手しながら、その下でナイフを突き付け合う」と総統が発言。
その上、虐殺で名高いハイリム長官をゲストとして招待する、煽りを展開した。
この様子を新聞記者達は、「平和とは仲の良し悪しではなく、利害の一致によって成り立っている」と報道した。
総統と首相の次に注目を集めたのが、ヴェロニカ・レインだった。
記者達から今回の条約について、意見を求められ質問攻めにされた。
当時取材した記者はこう語る。
当たり障りのない意見と、用意された回答しかしない。
ブリタニカ政府から釘は刺されていたのだろうが、記者が仕掛けた失言を誘う質問を、悉く回避していた。
ただの幸運なだけのラッキーガールとばかり思っていたが、この頭の切れ具合を観るに、幸運だけで生き残って来た訳ではないようだった。
「連中小賢しいな」
条約締結の紙にサインする直前まで、控え室で他の大臣や官僚と調整を進める首相は、条約の内容に納得が行っていなかった。
「仰ることはごもっともです。ですが事態は急を要します。」
「東亜帝国が共栄圏をインヤ帝国まで拡大しようとしてる今、我々がガルマニアとの睨み合いに兵力を集中することは、敵の勢力拡大を許す事になります」
「そんな事はこの私が良く知ってる。だが、ガルマニアの連中が約束を守るとは、とても思えんがな」
過去に何度も条約を破ってきたガルマニアを、首相は信じていなかった。
「では応じたフリをして、破って仕舞えばいいのでは?」
「そんな事をすれば国際社会の信頼を失うぞ」
「大丈夫ですよ、ファシストとの約束なんてあって無いような物ですし、それに」
「それに?」
「我が国の舌は三枚ありますから」
こうしてブリタニカ国の今後の方針が決まった。
ファシストも東の猿共も、随時叩き潰すという方針が。
一方その頃……
そんな話がされているのも露知らず、ヴェロニカは着せ替え人形のように弄ばれていた。
「ヴェロニカさん、お似合いですよ」
現地のファッション誌が、ヴェロニカにぴったりな服を持ってきたと言い、民族衣装やドレス、流行の服を大量に用意してきたのだ。
白いブラウスに、踝まで覆うスカートとエプロンは、ヴェロニカの身長にマッチして、美少女を体現したような格好になる。
「うん、悪くないわね。じゃあ次これ着て」
着替えるために、服を脱いだ時だった。
THEキャリアウーマンな格好をした彼女の眉が歪み、ヴェロニカの身体をまじまじと見る。
「な〜にその下着」
「え?」
無地の白い下着は、彼女のセンスを逆撫でした。
「そんな萎びたカーテンみたいな下着じゃあ、いつまで経っても田舎娘よ!」
「え、いやこれは」
「いいから着替えなさい!」
これは、私が自分が男である為の最後の砦だった。
社会と言うのは、どうしても着飾らなければならない時がある。
私は元男と言えども体は女だ。
嫌でも女物の服を着なければならない。
しかし、男としてのプライドはある!。
そのため、下着は男物を着用していたのだが、その砦が今崩されようとしている。
「貴女ベッドインの時にそんな下着じゃ、恥ずかしいわよ」
「パートナーにそんな姿見られていいの?良くないわね?いいえいい筈がない!」
「こ、断ればどうなります……?」
「断る?フフッ」
部屋の鍵を締め、彼女は不敵に笑う。
「私ね、クラブでは縛りプレイが得意なの」
「え、なにそれどういう」
ヴェロニカは、目にも留まらぬ速さで拘束され、素敵な格好にさせられた。
独立混成旅団 ヘルリーゲルにて
軍事顧問団としての任を解かれた彼らは、現在即応部隊として、首都での待機を命ぜられていた。
他にも機動力に優れている部隊はあるが、それでも我々が首都の警備に就いているのは、唯一信頼出来る部隊だからだ。
情報部によれば、国防軍内の反ファシスト主義者の中に、総統暗殺を企てる者がいるとの事だった。
もし、そいつらが総統へ向けて銃口を向けることになれば、国防軍の信頼は揺らぎ、国ではなく党から命令書を受け取る軍隊になる。
それは、国防軍内でも反発があった。
我々の任務は、その反ファシストの裏切り者を見つけ次第、銃殺することだった。
「反逆者探しとは、名誉な事だと思わんかヴァイアー」
「その皮肉癖は相変わらずだな、アドラーに居た時から変わってない」
トコトコ歩きながら街の一角へ足を進める。
上空で打ち上がる花火に混じって、ガンパウダーが爆発する音が聞こえてくる。
「あっ、イツミ隊長」
ジャネットが、逸見の姿を見るなり駆け寄ってきた。
「報告致します。敵14名射殺、反逆者と思わしき者3名を拘束しました」
「ご苦労ジャネット大尉、引き続き頼む」
「了解しました!」
国防軍の制服を着た死体を避けて、銃撃戦の起きた室内へ入ると、ジャネットの報告通り3人の国防軍人がいた。
「どうも反逆者諸君、気分は?」
一番階級の高かった将校へ話しかけ、探りを入れてみる。
諦めの目でこちらを見つめ、血だらけの顔で気力を失っていた。
「なぜ反乱を起こした?」
「あの男はこの国の癌だ。貴様ら若い将校と、民衆があの男を祭り上げた結果がこれだ」
「俺の娘が、まともに喋れなくても誰も困らないだろ。それでもいいじゃないか、死ぬ必要なんかない」
なんとなく反乱の理由を察した逸見は、反逆者へ同情した。
この男の子供は、奇病撲滅収容所へ送られたのだろう。
「分かるよ、あれはいくらなんでもやり過ぎだよなぁ」
逸見自身、正直この国がやり過ぎな部分は多いと実感していた。
特に人種や障がい者の扱いについては、どこの国よりも最悪だった。
「だったら何故邪魔する……この国はイカれてるんだ!」
逸見は哀れんだ目で彼を見る。
「まぁなんと言うか、時期が悪かったな」
「時期?」
「今君達に反乱を起こしてしまったら、大勢が死ぬんだ」
国防軍と親衛隊は、政治的に対立している。
その対立を抑えているのが、総統という絶対的な権力なのだ。
抑える力が強い程、その反動は大きくなる。
親衛隊と国防軍の内戦、これが起これば、100万や1000万の単位で人が死ぬだろう。
「まぁ内戦に比べたら、多少の非健常者が処刑された方が平和で犠牲も少ないだろ?」
彼のさっきまでの気力を失った顔は、どこかへ消え、怒りの表情に変わる。
「お前だ!お前のような人間こそが、この国の根幹だ!この未開な大陸人め!」
逸見は思わず安心した。
結局、清廉潔白で完璧な人間は、この世にいないのだと。
逸見は笑顔で微笑み、コルトガバメントをホルスターから抜く。
「実を言うと私は、あんたに同情してるんだ」
「愛する者を奪われた気持ちは私も知ってる。あれほど辛いこともない」
「ただ……長引かせて苦しませるのは、もっと辛い」
銃のスライドを引き、撃鉄を起こす。
「昔、ある女に恋心を抱いてしまってな。初恋だったよ」
「でもその女、化け物にやられて頭がおかしくなった。綺麗でみんなの人気者だった、なのにそうなった途端、周りは知らんぷりさ」
「下の世話から起こしたご近所トラブル、全部私が片付けた」
彼は最後に訊ねてみる。
「そのあと、どうなった……?」
「安楽死させた。丁度こんな風にな」
引き金を引いて、少しの間話相手になってくれた彼の頭をぶち抜く。
薬莢が床の上でバウンドしながら踊り、部屋の隅へ転がって行った。
残りの反逆者へ銃口を向け、問いただす。
「仲間の居場所を吐け、そして選べ」
「内戦か、クソ野郎になるか」
もうすぐ忙しくなるので、投稿頻度が落ちます。