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下ごしらえ

女侍らせて溝ネズミに構ってる暇があるんだな


次の日の手紙で、向こうはこちらの行動を監視していることがわかった。


来週までに100万ドロル用意しろ


と明確な要求まで書いてあった。


「馬鹿馬鹿しい」


私を脅してくる奴は、多分馬鹿だと思う。


一般家庭の子供が100万ドロルなんて大金、用意できる訳ないことは、どんな大馬鹿野郎でも分かる筈だ。


ヴェロニカは頭を抱えながら、預金通帳を眺めながら唸る。


今の私の金では、例え競馬で大当たりしたとしても100万には届かないだろう。


「はぁ、もう銀行強盗でもするしか道は……」


「銀行がどうしたの?」


いつの間にか真後ろにいたアイリスが、紙袋を持って部屋の中へ入ってくる。


「ん?あぁ、銀行の預金が減って来てるから、何とかしないとなって」


一瞬にして声色と表情を変えて、呆けた顔でアイリスに接する。


「私はバイトでそこそこ稼いでるから、車でも家でも買えちゃうよ」


「まさか、流石にそれはないでしょ……ないよね?」


「本当だよ、魔女は引く手数多だから」


魔女という職業は、数の少なさと特殊性から、需要に供給が追い付いていない状況だった。


そのお陰もあってか、非正規の雇用でも大卒初任給並みの給料が貰えていたのだ。


「すごいなぁ、私なんて生活費を稼ぐだけでも精一杯だし」


「魔女もそんなに良いもんじゃないよ、物珍しいってだけだもん」


アイリスの表情は僅かに曇っていた。


こういう時、何か励ましの言葉を掛けたりすべきなのだろうか?


というか、私はこんな事を毎回思っている気がする。


私はまだ、この友人達を心から信用できていなかった。


口を開き、勇気を出そうとしたその時、寮長のアンナが手紙を届けにくる。


また、脅迫状かと身構えるが、手紙に封蝋がしてあるのを見て、そうではないと一安心する。


が、その封蝋は、ブリタニカ政府のデザインだった。


「ヴェロニカさん、これ政府からのだよ」


一体何なのだろうかと、人生で5番目ぐらいに緊張しながら封を切る。


(因みに一番は、同僚のデーモンコア実験に付き合わされた時である)



拝啓ヴェロニカ・レイン様


先の飛行機事故、お悔やみ申し上げます。


あなた様の受けた心の傷は、とても深いものでしょう。


ブリタニカ政府並びに、全ての国民の皆様が貴女が健康でいられるよう願っております。


さて、本題なのですが、我が国はガルマニア帝国と友好条約を結ぶこととなりました。


その式典の来賓として、ヴェロニカ様を招待する事になりました。


ご連絡お待ちしております。



ブリタニカ政府より



「「「………………………………………………ははっ」」」


「「「え゛ーーーーーーーーーーー!!!」」」


三人の叫びは寮中に響き渡り、学生全員を叩き起こした。



ガルマニア帝国にて


「ご覧下さい。我がドイツ国防軍が世界に先駆けで導入した回転翼機部隊を!」


ニュース映画の勇ましいナレーションが、館内へ響き渡る中、一足遅く入場してきた男がいた。


「遅いぞハイリム」


「申し訳ない、会議が長引いてね」


この女狐のように気味の悪い男は、保安部の長官である。


「ヨーマイ親衛隊大将、計画はいつ実行出来る?」


「総統が来月に、ブリタニカとガルマニアの平和友好条約に出席する時だ。辻褄合わせをしておけ」


終末戦争からもう十数年以上は経った今、両国は睨み合ってる場合ではなかった。


ブリタニカは植民地の独立運動を抑えるべく、大規模な兵力を動員しているし、ガルマニアは対ソルトビエ防衛を、磐石なものにしたがっていた。


両国共に、背後からの一突きを嫌っての事だった。


レギオン合衆国は、反ファシスト同盟に亀裂が生じると反発しているが、条約締結は時間の問題だった。


「親衛隊からは、第44SS装甲師団と偽装航空部隊、それから第1戦略砲兵大隊が出せる」


「こっちは、移動虐殺部隊を東部方面から本国へ帰投させる。名目は、再編成と装備更新でいいだろう」


ニュース映画は、訓練に明け暮れる回転翼機部隊の映像を繰り返し流している。


丁度良いとばかりに、この作戦の懸念について話す。


「1つ気がかりなのは、国防軍の部隊に妙な部隊が新設されてる」


「妙な部隊?」


「あぁ、編成は独立混成旅団、特筆すべき点は、今スクリーンに映ってるヘリ部隊と、旅団長の人種だ」


ハイリムは資料に目を通し、逸見萩という東洋人が部隊を率いている事に驚いた。


「我が国は、いつから東の野蛮人を軍に入れるようになったんだ?」


「ダミアン大将のお気に入りだ、その男に気を付けろ。貴様と同じ容赦はしない人間だ」


ハイリムは、写真に写る逸見萩山という男を、蛇のように見つめた。

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