連鎖爆発
フィリップ・ラガー著書 終末の先にて 107pから引用
ここは、ガルマニアとソルトビエの間に位置する国家だ。
ガルマニアが終末戦争の最中に占領した地域で、当然その統治に不満を持つ者は大勢いた。
そんな状況だから、ソルトビエは反政府組織へ武器を渡し、ガルマニアは政府軍を支援する。
そんなことをやっていれば、当然内戦に発展する。
「反乱勢力へ通達する!諸君らは国内法を犯す犯罪者だ!」
「今からでも遅くはない!武器を捨て、家族や友達のために投降せよ!」
政府軍の車両が、列を成して市街地へ侵入する。
大音量スピーカーで投降呼び掛けながら、装甲車を先頭に反政府ゲリラの掃討へ向かっていた。
「君達は何のために戦っている!この国は〜」
見計らったかのように、装甲車が仕掛け爆弾で吹き飛び、四方八方から反政府軍のRPG2が一斉発射される。
待ち伏せを食らった政府軍は、次々と撃破されてゆく。
私の目の前にいた兵士の顔面が吹き飛んで、白い骨と肉がごちゃ混ぜになった。
「おいジャーナリスト!頭を下げてろ」
「こちら第2大隊!敵集団から攻撃を受けている!航空支援を要請」
「了解、緑のスモークを炊け、誤爆に注意せよ」
少しすると、悪魔のサイレンと共に、1000キロ爆弾が市街地の一角を吹き飛ばした。
「前進!」
応援に来た戦車隊と共同して、敵を包囲するために砲火の中を突っ切る。
部隊の隊長が部下の手本になるよう、わざと先陣を切ったのだ。
手榴弾を室内へ投げ込み、爆発と同時に突入する。
「マルクスによろしくな共産主義者!」
マルクスが誰かは知らないが、彼はそう言うと、虫の息だったゲリラへ止めを刺した。
続いて建物2階を掃討する。
フルオート射撃はせず、セミオートによる急所を狙った射撃を行う。
こうすることで弾を節約し、銃のコントロールが容易になると、彼は言った。
「おい萩、ゲリラが逃げてくぞ」
部隊長の友人であるヴァイアーが、「何か策があるんだろ」という問いかけに近い形で呼び掛けてくる。
「慌てるなヴァイアー、連中のやることは単純だ」
彼の言った通り、敵は待ち伏せ攻撃を行い、こちらの増援部隊が来る前に地下道を使って逃げるのだ。
毛細血管のように入り乱れる地下道は、対ゲリラ戦闘における包囲殲滅を難しくさせた。
反政府軍にとって地下は攻撃の要であり、生活拠点であり、聖域だった。
だがある日、軍事顧問としてやってきた彼は言ったのだ。
「害虫は焼き殺すに限る」
その言葉通り、彼は部隊を率いてゲリラを誘導し、彼らが地下道へ逃げ込んだら、予め用意しておいたナパームでゲリラを焼き殺した。
死体の中には、まだ大人でない者もいた。
そんな男がどこで産まれ、何処から来たのか尋ねたことがある。
「異世界さ、ここよりもずっと技術が進んでて、もっと汚れてる世界だ」
そう冗談で誤魔化されたが、彼が嘘を言っているようには思えなかった。
東ヨルドラン地域 特別軍事顧問 逸見萩にて
逸見の持っていたstg44ライフルは、世にも珍しいというか、別世界から持って来られたACOGサイトが取り付けられていた。
その他にも、ハンドガードを熱に強い素材で覆い、フォアグリップや赤外線式のIRレーザーを取り付け、ストックを木製から合成樹脂へ変更するカスタマイズが施されていた。
「手掛かりは見つかったか?」
逸見はいつものように、「何もない」と答える。
「全く、夫を置いてイザベラは何処へ行ったんだ?」
彼、逸見萩は失踪した妻を探して、異世界にいた。
かつての戦友と共に、このろくでもない世界を探し回っているのだ。
「イザベラは最後なんて言ってた?」
「違和感に食い殺される。そう言ってた」
この異世界の外から来た連中は、皆同じことを言う。
違和感を感じた、そして皆何か爪痕を残してこの世界を去って行く。
「まぁなに、すぐ見つかるさ。鷲萸戦争を覚えてるか?あの時もどうにかなった」
「あぁ、ガーベラ大隊は壊滅したがな」
明らかに落ち込んでいる逸見を見て、ヴァイアーは少し悲しくなった。
かつてあれほど命を奪った男が、今は見る影もないほど活力を失っているからだ。
「リズを覚えているか?あいつは目と記憶を失くした。だが生き残ることが出来た」
「アンネは二度と歩けなくなったが、アンナとずっと一緒に居れる」
「アデリーナは二重帝国から抜け出せた」
「皆お前が引き起こして、お前が救ったんだ。嫁ぐらい救って見せろよ」
戦友の言葉に、逸見はため息を吐きながらライフルを取った。
「わかった。ならもう一回破壊して救いだそう」
「その調子だ………ところでだ」
「ああ、分かってる」
上空で一機の民間機が、黒煙を吐きながら落ちて行くのが見えた。
「どっちが撃墜したか分かるか?」
「さぁな、我々がイランの革命防衛隊にならないことを願おう」
ドレッドノート大学にて
「今日はここまでにする。それと、レポートの期限は来週までだからそのつもりで」
ヴェロニカはノートを閉じ、荷物をまとめて講義室から出て行こうとした時だった。
「ちょっと待ってくれヴェロニカ」
アンネ教授がヴェロニカを呼び止めると、一枚のパンフレットを手渡す。
「この前提出した君のレポートを読んだ。良く書けていたよ、私も共感できる部分があった」
「あ、ありがとうございます」
いつになっても、褒められたら嬉しい物だ。
それが社交辞令や、こちらに取り繕う為の嘘でないなら特に。
「今度、ソルトビエで研究発表会が開かれる。そこで、被爆や化学兵器への治療について取り扱う」
「親を助けたいんだろ、行くといい」
なんとお礼を言ったらいいだろう。
この人は、私のためにわざわざ席を取ってくれたのだ。
「君は優秀だ、私の講義を1か月休んでも行く価値がある。励みたまえ」
正に感無量だった。
転生してから、いつも仮面の上に化粧をするように、自分を偽って来た。
身勝手な話であるが、転生して初めて自分というものを評価された気がする。
この少女ではなく、自分という存在を。
そして、そんな感情が出てくる自分に気が付き、嫌気が差してくる。
私というのは、全くもって酷い人間だ。
歴史学の講義にて
「この1億という数字、何の数か分かりますか?」
キャロライン教授は、黒板へ1億と数字を書いた。
「大戦で亡くなった軍人の数です」
「その通り、ですがこちらの数字は知っていますか?」
キャロラインは1億の横へ400万人と書いた。
「これは、各国の生命終了施設で死んだ数です」
「対象となったのは、精神疾患者や傷痍軍人、自力での生活を困難とした人達です」
「戦争協力が出来ない人は、こうして排除されて行きました」
「私個人としてはこの考えに反対ですが、ある国では国民1人辺りの税金負担額の削減に成功した例もあります」
「時期も時期ですので、一概に悪いと言ってしまうのは、少々飛躍し過ぎているでしょう」
「ですので、次回の講義までにレポートを提出して、皆さんの考えを聴かせて下さい」
講義が終わると、キャロラインは学生から反発が出なかった事に安堵した。
この問題、終末戦争を語る上で話さなければならない内容なのだが、内容が内容なので、下手な事言うと首がぶっ飛び兼ねない。
前にこの話をした時は、オカルト雑誌や陰謀論片手に講義内容を否定する者がいたほどだ。
「でも、これやらなかったら負けな気がするのよね」
自分を奮い立たせ、明日へ向かって進もうとした時、明日は閉ざされた。
「調査の話だけどさ、あと3年待ってくれない?」
「は?」
「いやさぁ、あと3年と少しで終戦から20年になるでしょ、そっちの方が語呂が良いって上が言って来たんだよ」
「は?」
「そういうことだからさぁ、そんな怖い目しないでよ」
「は?゛」
こうして、キャロラインの探求心を満たしてくれる筈だった調査は、お預けとなった。
自分が楽しみにしていたことが、突然無くなってしまったら。
色々な解決方法があると思う。
ふて寝、やけ食い、愚痴を言う、忘れる、物に当たる、彼女キャロラインの場合はやけ酒だった。
銀行で今月分の給料を全部下ろし、海軍基地の近くにある酒場へ行った。
店で一番高い酒を持って越させ、腹がタプタプになるまで飲んだくれると、一緒にいた海兵達と気を失うまでダンスをする。
「クタバレ大蔵省!!!!!」
「予算増やせ国防大臣!!!!!」
「年金安すぎなんだよバカ野郎!!!!!」
日頃の鬱憤を酒に任せて吐き出す彼らは、その後、二日酔いに悩まされる事になった。
どんちゃん騒ぎが終わり、キャロラインが爆睡していると、店の店主がもう閉店だと声をかける。
「おなかすいたー」
「お客さん大丈夫ですか、タクシー呼びましょうか?」
「ちょうさ先延ばしになっちゃったよぉ〜」
「ナグサメテ」
酒が入って泣き上戸になるキャロラインは、店主へ甘え始めた。
店主はキャロラインの愚痴と今の発言で、何が起きたか大体を察した。
「気持ちは分かりますよ。私も不況の時、銀行がお金貸してくれず、この店の経営が困難なりましたから」
酔っ払ってる客にはこれが一番と、レモンを絞った水を作る。
「でも、今は安定してる。夢ってのは案外叶えてみるもの………」
目を離した隙に、キャロラインは姿を消していた。
「あれ?帰ったのか」
店主は話を最後まで聞かなかった客を心配した。
「夢を追いかけてたら一回店潰れたんだよなぁ」
あの酔っ払いが、私の話を愚直に信じてないことを願おう。
因みにその願いは叶いそうになかった。