42.ジルさんとの1日 1
昨日仕込んでおいたパン種を整形し焼きつつ(自室キッチンにオーブンがあるなんて!)、チーズオムレツ、手作りハーブソーセージを焼いて、茹でたブロッコリーにササッと作ったマヨネーズをかけ、あとは作ってきたポテサラとプリン。
すべてを器に盛り付けリビングのテーブルに並べれば朝食の完成。
飲み物は搾りたてのオレンジジュースとコーヒー。
テーブルへのサーブが終わってあたしも向かい側の席に座る。
一緒に食べたいとジルさんからの希望なのだ。
「どうぞ召し上がれ♪」
「すごく美味しそうだ・・」
ジルさんの目が小さい子供みたいにキラッキラしている。
どれから食べようかと視線をめぐらすジルさんを見つめるあたしの顔。
不審者なみにニヤついててすみません。
だってめっちゃ可愛いんだもん。
「!!」
きれいな所作でチーズオムレツを切り分けて口に入れたとたん薄紫色の瞳が見開かれる。
「美味しい!」
ふふふ。とろっとろチーズと卵のコラボ最高でしょ?
そのあとはもう見てて気持ちいいくらいの食べっぷりで。
朝食は食べないって聞いてたから残っちゃうかなと思ってたんだけどキレイさっぱり完食。
いまはコーヒーを飲みながらデザートのプリンを食べてるとこ。
意外とコーヒーに砂糖とミルクたっぷり入れちゃう派だったらおもしろかったのにイメージ通りブラック派だった。つまらん。
「・・すごく美味しくて幸せな食事だった。湯気が立つくらい温かな食事なんて本当に久しぶりだよ。誰かと食べるのも。晩餐会やパーティ以外は小さい頃からいつも1人だったから。」
コーヒーを飲みながらほわっと幸せそうに笑うジルさんに抱きついて撫でくりまわさなかった自分をほめたい。
王位継承権ある人だし毒味とかいろいろあるんだろうけど!
温かい食事くらいだしてあげて~!
あと家族!父と母どこいった!
貴族の慣習とか常識とか言ってないでたまにはごはんくらい一緒に食べなさいよ~!
心の中は怒りの嵐が吹き荒れてるけど顔にも口にも出さない。
それがずっと当たり前だったジルさんを困らせちゃうからね。
これからちょっとずつ庶民にとっては当たり前の幸せを知ってもらえればな~と思ってる。
食に関してのことになっちゃうけどね。
この雰囲気だとデリバリーの常連さんになってもらえそうだし。
ボランティアとかの美談じゃなくてすんません。
「ジルさん。プリンのおかわりありますよ?」
「いただこう。」
嬉しそうにちょっとそわそわしてるジルさんの前におかわりのプリンを置く。
あと3回おかわりできるよ~。たくさん召し上がれ。
あ、早々に本人に向かってジルさん呼びしちゃいました。てへ。
「愛称で呼んでもらうのなんて初めてだから照れるな。」ってはにかみ笑顔でOKもらえたけど。
愛称呼び初めて発言にちょっと切なくなったよ。
ジルさんちも産まれたらすぐ乳母に丸投げっていう典型的な貴族の子育てスタイルだったんだろうなぁ。
「あ、口の横にプリンついてる。」
「・・! あ、ありがとう。」
小さな欠片をナプキンでとってあげる。
頬をうっすら染めて。ちょっと気まずそうに、だけど嬉しさをにじませるジルさん。
しかもあまり愛情深くない乳母にあたった模様。
こんな日常の一コマもない幼少期だったとは思いたくないけど。
いまのジルさんの反応からするとあまり期待できなそう。
まぁ庶民の親がすべていい親とも限らないんだけどね。
あっちの世界でのあたしの親もいわゆる毒親だったし。
ジルさんの笑顔に癒やされながら。顔を出しかけた過去のイヤな記憶を遠くにペイっと投げ捨てた。




