39.シトーならぬシュト
たくましい腕にギュウッと抱き込まれ、頬には隊服らしきしっかりした布地といくつかの装飾の感触。
そしてデレクさんばりに硬い胸板。
・・はて?なにが起こったんだろう?
状況がまったく理解できず。ほっぺたに跡つきそうだなーなんてどうでもいいことを考えていると。
「「「レンドラール団長!!」」」
我に返ったヨルンさん、デレクさん、白騎士団副団長の声が見事にハモった。
え?もしかしてあたしを抱きしめてるのって白騎士団団長様?
何故に??Why??
「シュト・・!」
惜しい!正しくはシトーです。
なんて心の中でボケかましてる場合じゃないわね。
一体どうしたんだろ?
いまにも泣き出しそうな雰囲気であたしの頭に頬をスリスリしてるんですけど。
「レンドラール団長・・シュトはもういないんですよ。」
少年のような少し高めの声が悲しそうにそう告げる。
シュトさん?
亡くなった恋人か家族の名前なのかな?
「シュトはここにいる!私の腕の中に!」
あたしシュトさんに似てるのかな?
ってことはシュトさんルエンカ人?
「・・あ。シュトってもしかして・・」
「ああ!いつもレンドラール団長が連れていたあいつか!」
何かを思い出したヨルンさんとデレクさん。
ん?いつも連れてたって仕事中も?
しかもあいつ?男の人?
「そうです。団長の肩にいつも乗っていた黒猫です。」
・・え?人間じゃないの?
黒猫って・・あたし猫に見える??
まぁたしかに黒髪に黒目だしあっちの世界でも猫っぽいとは言われてたけどね。
とは言っても現実的にどう頑張ってもムリでしょ。
白騎士団の団長って冷静沈着でめっちゃクールって聞いてたんだけど。
なんか聞いてた話とイメージ違うぞ。
溺愛していた飼い猫が亡くなっても忘れられないまさかの人情派?
「・・ちがう姿でもいい。戻ってきてくれたのなら。この雰囲気はシュトのものだ。私が間違うはずがない。」
さらにギュウッと強く抱きしめられる。
正直ちょっと苦しいレベルだけど我慢する。
「なーに言っちゃってんの!」と脊髄反射でツッコミそうになるのも必死に我慢する。
空気読める女なので。
だってこの人ホントはわかってるもん。そんな事あるわけないって。
それでもそんな夢物語にすがりたいくらい会いたい。
みんなその事を理解してるからあまり強く言えないんだと思う。
なんかただの溺愛ニャンコではなさそうだよね。
家族みたいに恋人みたいに。すごく大切な存在だったのかも。
うん。しばらくこの人の好きなようにさせといてあげよう。
と思ってたんだけど。
ぎゅうぅ。
おおう。さらに腕の力が増し増しに。
息がしづらい状況になってまいりました。
さすがにこれは・・と軽く腕をタップしてみる。
「! す、すまない!」
ハッと我に返った団長・・はこの場に3人もいるのでレンドラール団長と呼びますか・・は腕の力を緩めて。
あたしを軽々と左腕に抱え上げた。
よくお父さんが小さい子供を腕に座らせてるアレです。
成人女性を腕抱っことはレンドラール団長の腕力おそるべし。
うわ。見晴らしいいな~。
ヨルンさんやデレクさんを見下ろしてるのめっちゃ新鮮。
ぷっ。2人ともすんごい呆けた顔してるよ。
それにしても。間近で微笑んでいるご尊顔の美しいことといったらまぁ。
キラキラサラサラの銀髪に透けるような薄紫色の瞳。
現実感がないくらいに整ってるというか。すべてのパーツが完璧に配置されてて精巧に造られた彫刻みたいなのよ。
黙って神殿に立ってたら神々しい神像だと思ってみんな手を合わせていくと思う。




