閑話〜ヨルン団長の独り言〜
柄にもなく動揺してしまった。
ネイシェルではあまり見かけない陽の光にキラキラと輝く美しい黒髪を見て思わず話しかけてしまったんだけど。
全く緊張してない自然体の女の子と話したのなんていつ以来だろう?
今でも社交界の美男美女と言われている父と母。
そのいいとこ取りで産まれた僕はかなり容姿に恵まれている。
貴族の女性、王城の文官、役所やギルドのスタッフ、屋敷のメイド、街の女性、そして王女様。
みんな僕が見つめると顔を赤くして下を向いてしまう。かと思うと物陰からこっちを見ている。
もしくは周りや僕の迷惑を考えずに突進してくるか。
知らない人が聞いたらかなり痛い発言だよね。
でも現実に今も起こってることなんだ。
僕の作り話や妄想だったらどんなによかったことか。
日々こんな状態だから必然的に友人にはあまり縁がなかった。
騎士団に入るまで同性の友人はいなかったし女性の友人はギルドで働いている幼馴染ただ1人。
普通に接してくれる女性はその幼馴染みと母上と親族の女性数人だけ。
物心ついた頃からそんな状態だったからいろいろとあきらめていたんだ。
対策しようとした時期もあったけどあまり効きめなかったしね。
だけど今日初めて出会った。
幼馴染でもなく血のつながりがあるわけでもなく。
初対面で普通に僕と接してくれる女の子に。
どもることもなく普通に話して僕の目をみて満面の笑顔で笑いかけてくれた。
言葉を交わしたあと付きまとまわれることもなかった。
ほんの数分間の出来事だったけど初めてづくしの貴重な体験だったなぁ。
動揺して早口になってる自分も初めてで。
思い出すと笑ってしまうよ。
ギルドに登録するって言ってたから長期滞在するよね。
子供みたいに口をパカッと開けて城門を見上げてて。ふふっ。
黒曜石みたいな大きな瞳が印象的だったな。
化粧もしてないし香水臭くもないし。
僕の周りにはいないタイプ。
あまり見かけない優しい顔立ちだったから東のルエンカとの国境に近い村の出身なのかもしれない。
「ヨルン団長!おかえりなさいませ!」
「ああ。ご苦労様。」
考え事しながら歩いていたら詰所まであっという間だった。
たしか総帥からいただいた輸入物のコーヒーがあったはず。
エリスに淹れてもらおう。
鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌な自分に内心苦笑しながら中に入る。
なんだか楽しくなりそうだ。
そんな予感とともに。
「あれ?いつもの営業スマイルじゃなかったような・・。」
その姿を見送りながら本日の警備担当の若手騎士が首をひねっていたのだった。