32.そしてこうなりました
「ユミちゃ~ん! こっちにもお水ちょうだ~い!」
「は~い。」
小柄な女性が抱えている洗面器を大きくしたような入れ物に水を満たす。
「ありがとね! ほんと助かるわ~。衛生班に水魔法使える人がいないからいつも騎士様にお願いしてるのよ。」
その騎士様の1人が旦那さまでもある笑顔が可愛らしい女性ターニャさん。
20代前半くらいなのかな?
騎士団に保護されている魔力持ちの平民女性だ。
ターニャさんのように保護された女性は騎士団の騎士と結婚することが多いんだとか。
そりゃそーだよね。
不安だった毎日に安心を与えてくれた人たち。
しかもイケメンで優しい。
恋も芽生えるってもんだよね~。
「ユミちゃんは衛生班所属になったのよね?今回初めての参加でしょ?」
ターニャさんと一緒に衛生班の天幕へ向かう。
「はい。初めての参加です。でも所属してるわけではないんです。普段は食事を作って配達したりとか出向いてその場で作るお仕事をしてて。騎士団とも契約をしてまして衛生班のお仕事もその一貫なんです。」
そう。これがあの日の結論だ。
魔力持ちの平民女性を保護したい騎士団側と。できれば属さず自由に自分で仕事をしたいあたしとの折り合いをつけた着地点。
今回の討伐隊衛生班でのお仕事は契約の1つでもあるので、毎回はムリだけどこれから度々参加することになる。
ルエンカ料理のお店は事情を話して円満退職。
予定よりかなり早くお弁当屋さんを開業することになった次第です。
住まいはまだギルドの宿だけど。
さすがに物件探して引っ越す時間はなかった。
魔力持ちがバレた日から1ヶ月ちょい。
ほんと怒涛というかひたすらバタバタだったからなぁ。
やりたかった事だから楽しくもあったけどね。
とくに初めて行った貴族エリアの商店街めっちゃワクワクしちゃった!
お値段は高めだけどスパイス屋さんの品揃えすごいし魔道具屋さんの魔道具も便利なものがたくさんあったし。
稼いでいろいろ仕入れる予定です。
「ええ~!そうなの?これからお水ほしいときはユミちゃんにお願いできると思ったのに~!」
「あはは。ごめんなさい。」
「ちっとも悪いと思ってないでしょ~!」
「うふふ。ごめんなさい。」
「も~~!」
なんかこーゆーの久々~。
他愛もない女子トークめっちゃ楽しい。
今まであたしの周りにいた女子は少々特殊だったからなぁ。
情報通のギルド受付嬢ネリアさんとは半分くらい社会と政治の勉強会的な感じだったし、騎士団ファンのお嬢様方とはマネージャーとファンみたいな立ち位置だったし。
どっちもこの世界で生きていく上でとっても役に立ったけど。
おかげさまでずっとこの世界で生きてきました風に過ごせております。
「なんだか楽しそうだね。僕はもう用無しかな?ターニャさん。」
む。この声は。
声だけでフェロモンだだ漏れてるってどんだけ。




