30.デレクさんの正義〜ほんのり下心つき〜
デレクさんの発言はヨルンさんとエリスさんに却下され。
とりあえず青騎士団の団長室に移動することになった。
通い慣れた団長室。
勝手知ったる他人の家状態でとても落ち着く。
ふー。やれやれ。
エリスさんが入れてくれたコーヒーを一口。
うん。なかなか美味しい。
ふと視線を上げると真向かいのソファに座っていたデレクさんと目が合った。
「単刀直入に言う。ユミ、君がほしい。」
お~い。言い方~。
ヨルンさんとエリスさんが飲んでたコーヒー吹いちゃったじゃん。
「ぐふっ!げほっ! お、おいデレク! 」
隊服の内ポケットから高そうなハンカチを出して口元をおさえているヨルンさん。
ハンカチ常備とはさすが貴族のご子息様。
エリスさんは気管に入っちゃったみたいで言葉を発することができないくらい咳込んでる。
涙目になってるよ。
もちろん紳士なエリスさんもハンカチ常備です。
「黒騎士団で働いてほしいってことですよね? 騎士は男性しかなれないから詰所の従業員としてですか?」
「そうだよ。青騎士団の詰所にも数人いる。懇親会に出席してた人もいるよ。」
ヨルンさん何事もなかったかのように会話に参加。
うん。確かに従業員の女性が何人かいた。
「白騎士団にも黒騎士団にもいますよ。全部で15人くらいでしょうか。」
エリスさん復活。
まだちょっと涙目だけど。
「俺は衛生班の一員として危険生物討伐の遠征にきてほしいと思っている。」
あーデレクさんがよく行ってるやつね。
毎回あたしの作ったお弁当たくさんマジックバックにつめて。
・・遠足じゃないよ?大真面目な騎士団の遠征だからね。
黒騎士団を中心に青騎士団と白騎士団の騎士さんたちも参加して定期的に行われている実地訓練を兼ねた危険生物の討伐。
この世界にはファンタジー定番のいわゆる魔物はいないんだけど、地球でいうところのライオンとか熊とかワニみたいな猛獣がいて。
それらを危険生物と呼んでいる。
あ、地球標準で考えちゃダメだよ?
危険生物って5メートル超えは当たり前でかなり獰猛。
城壁に守られてる王都では被害ゼロだけど、城壁外の街や村では毎年かなりの人が犠牲になってるの。
なので騎士団では間を開けずに討伐遠征を行っているというわけ。
危険生物に限らず害のないおとなしい動物も含め、人間と同じく魔力を持つ個体がごく稀に生まれることがあるらしいんだけど。
その個体は更に危険な生物になることはなく、なんと獣人に進化するって説があるんだとか。
もともとエルフとか獣人とかの種族は謎につつまれててあまり情報がないの。
さらにめちゃくちゃ嫌われるようなことしちゃったからね。
当たり前だけど今だに謎は謎のままなわけです。
中にはギルドや道具屋とか獣人が現れそうな場所でお金ばらまいて、出没情報仕入れて聞き出そうとしたりする厚顔無恥な研究者もいるみたい。
この話をしてくれたギルド受付嬢のネリアさんが「ほんと恥さらしなんだから!」って怒ってたけどあたしもそう思う。
きっとその人の心臓毛がはえてるよ。
「衛生班は治療や食事などを担当している。メンバーはみな魔力持ちの女性だ。討伐の際は防護結界の中で待機してもらっているので心配はない。」
正義感の強いデレクさんは友人のあたしを守らねば!と思ってくれてるんだろうな。
いつもより饒舌だもん。
遠征先でルエンカ料理食べたいという下心も見え隠れしてるけどね〜。




