29.懇親会 2
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
何十人もの人がいるはずの空間に広がる静寂。
聞こえてくるのはジャーという水道水のような水音だけ。
たくさんの人がいるのに静かなのってめちゃめちゃ気まずいものなんだね。
初めて知ったよ。
はい。ユミさんやらかしちゃいました。
騎士団関係者の前で。水魔法。使っちゃいました。
現在進行形で水出してます。
だってしょうがないじゃん!!
火傷しちゃった人がいたんだもの!!
体が勝手に動いちゃって気がついた時には手から水が出てたんだよ~~(涙)
今日の懇親会メニューに熱々のお味噌汁があったんだけど、それをこぼして全部足にかぶっちゃった若い騎士さんがいて。
無意識のうちに騎士さんに駆け寄って足に両手かざして。
ザバーッと水かけて。
今に至ります。
うわ~~ヤバイよ~~。
よりによって騎士団詰所かよ~。
体中に刺さりまくってる視線が痛いよ~。
複数の足音が近づいてくるよ~。走ってるよ~。
「ユミちゃん、水魔法使えるの?!」
「その水量・・」
「・・かなり魔力量が多いな。」
そっと明後日の方向を見るけど。見なくても声だけでわかります。
ヨルンさん、エリスさん、デレクさん。
ああ~あ~。騎士団幹部にバレた~。
森で会った獣人さんシェイさんに怒られちゃう。
あれから何回か宿に寄ってくれたんだけど、彼には全属性魔法が使えることもうっかり暴露しちゃってて。
人前で使っちゃ絶対ダメ!って注意されてたの。
魔力持ちの人族の女性はいいように利用される危険が高いから気をつけるようにって。すごく心配してくれてたっけ。
あああ~言えない~~。
でも黙っていられる自信もない・・
何故か彼には隠し事ができないのよね。
いまのとこ全部バレてるし。
そういうスキルでもあるんだろうか。
うん。会った瞬間に報告しよう。
そう覚悟を決めつつ。小さくため息をついて正面をみる。
いつまでも現実から目を背けているわけにもいかないもんね。
目の前にはいまだにポカーンと口を開けた状態で固まっている若い騎士さんの顔。
充分に冷やせた頃合いかな。
水の放出をとめて立ち上がると大きな影が顔にかかる陽射しを遮った。
「ユミ。黒騎士団に来てほしい。」
え。イヤです。
デレクさんのイケメン顔がせまってくるから脊髄反射で逃げ出そうとしたけどムダだった。
騎士団の団長様に対抗できるわけがありません。
秒で捕まりました。
デレクさんの長身で囲い込むようにしっかりと。
「逃げるな。」
これが有名なバックハグってやつですね。
しっかりした作りの隊服の上からでも感じられる硬くて広い胸板。
耳に直接入りこむ素敵ボイス。
うわっ。やばい。
アラフォーもときめくシチュエーション。
お。なんかいいキャッチコピー浮かんだぞ。
ライトノベルの帯とかに使えそう。
アラフォーにもトキメキを。
うーん。これじゃスローガンだな。
デレクさんの腕の中。
どうでもいいことをぐるぐる考えてる残念なあたしの脳内。
うん。ちょっと落ち着いた。
こうなったら腹をくくるしかないよね。
自由を勝ち取るぞ~!お~!




