21.納品の件ですね
すっかりヨルンさんの存在を忘れてました。
警戒態勢オフモード状態。
しばらくは気をつけてたんだけど初日以降は一度も遭遇しなかったからなぁ。
おや?
なんか記憶の中のヨルンさんよりさらにキラキラオーラ倍増してない?
"お嬢様方の敵意のこもった視線"という名の鋭い刃がグサグサ突き刺さってくるんですけど。
「久しぶりだね。」
ニッコリ笑ってさらに近づいてきたヨルンさんに内心絶叫する。
やめてよして近付かないで~!背中に穴があいちゃう~(涙)
マジックバックの中になにか顔を隠すものなかったかな・・
フルフェイスのヘルメット、お面、ストール、ネックウォーマー、マスク、フライパン・・
・・うん。現実逃避から戻ろうか自分。
なんとかさり気なく逃げれないものかと足元を見るフリして辺りを確認してみたけど。
ここは道のど真ん中。
しかもヨルンさんを中心に空間ができていてサッと逃げこめそうな場所がひとつも見当たらない。
この道さっきまで買い物客でギュウギュウだったじゃん!
いつの間にみんなそんな遠巻きになってたのさ!
プリーズ人混み!
「綺麗な黒髪を見かけたからユミちゃんかなと思って。」
キラッキラの笑顔に周囲の女性陣から黄色い悲鳴があがる。
うわぁ…。今すぐここから逃げ出したい。
集団ってなるべく関わりたくないのよね~。
集団心理とか群集心理ってホントやっかいなんだもの。
女性ばっかり100人以上いる職場で長年働いてたからその大変さは身にしみて理解している。
「どうかした?」
固まったまま何も言葉を発しないあたしを悲しげに見つめて。少し首を傾げる王子様。
ペシャンとしなだれるケモ耳&尻尾の幻が見える。
あ・ざ・と・い。
これ天然物じゃなくて計算されてるやつだよね。
ヨルンさん王子様属性じゃなくて小悪魔系・・いや腹黒系だと思われます。
見ためキラキラ王子で中身は腹黒。
ライトノベルのキャラかよ!
いやここ異世界だけど現実だよ!
・・はっ。また現実逃避しかけてた。
しっかりしろあたし。
いま頼れるのは自分だけなんだから。
とにかく目の前の非常事態を平和的に。かつスマートにスピーディに処理せねば。
この窮地を脱する方法・・・う~む。
騎士服姿のヨルンさん・・ってことはつまり仕事・・うん勤務中ってことだよね。
・・お。閃いた。
プライベートではないという現状めっちゃ大事。
お嬢様方の心情的にも『それじゃ仕方ないわね』になるだろう。たぶんきっと。
あたしは思いついたことをすぐさま実行に移した。
早く針のむしろから逃れたい一心で。
「おつかれさまです。今日の納品の件ですよね?」
頼む!話に乗ってくれ!




