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1.目覚めると





やわらかそうな草が風にそよぐ草原の向こうに大きな門と城壁のようなものが見える。


中世ヨーロッパの城塞みたいなそれらはかなり大掛かりで立派だ。


日本には在りえない景色。




「・・・マジですか。」




夢じゃなかったのかアレ。




数分にも数時間にも感じられる時間。


上半身だけおこして草の上に座り込んだ状態のまましばらく何も考えられずにぼんやりとしていた。



さっきまでみていた夢じゃなかった夢の出来事。


ようやく動き始めた頭の中でその内容を手繰り寄せる。



神様と名乗ったおじいちゃんは手違いで時空の歪みを生じさせてしまったと言っていた。


そこに日曜日の銀座の人混みの中を歩いていた私がたまたま落ちてしまったらしい。


あんなに人がいたのに私だけ巻き込まれたとか確率すごすぎない?


これが宝くじ1億円当選とかだったら最高にラッキーだったのに!



そして元の世界に戻すことはできないとハッキリキッパリ言われた。


遠回しに濁されてもイラッとするけどここまでハッキリ言われてもイラッとする。



お詫びとして優遇するとか神様が管理してる世界の中で1番平和なとこに転移させるとか言ってたけど日本ほど平和なとこあるのだろうか。


格闘技やってたとか理系なり文系なりの知識がすごいとか。そんなん何もない平凡な会社員のあたしがやっていけるような暮らしやすい世界じゃないと困るんですけど。




「・・はぁ。」




大きなため息ひとつ。


来ちゃったもんは仕方ない。戻れないわけだしここでやれることをやっていくしかない。


まだ人生終わらせるつもりはさらさらないし。



ふと自分の身体を見下ろしてみれば。


神様が言ってたとおりこちらの世界の服装になっているようだ。


わりと手触りのいいシンプルなピンクベージュのワンピース。


その下にはゆったりしたレギンスみたいな下履きとやわらかな革の編上げブーツ。腰にはブーツと同じと思われる革のウェストポーチ。


けっこうあたし好みな仕上がりなのがなんか悔しい。



そして。


若返っている。


そう。若返っているのだ。


ここ重要。



鏡がないから顔は確認できないけど手を見るかぎり確実に若返っている。


みずみずしくハリのある色白の手の甲にはシミひとつない。


この件に関してだけは正直めっちゃ嬉しい。



新しい生活を始めるのに40歳という年齢はいろいろと大変だから16歳くらいにしとくねと軽い感じで言ってたっけ。


まぁ確かにそうだし有難いんだけど。 


若返ったことにはテンション上がるんだけど。



言われたときはこれまたイラッとしたよね。


根本的に手違いとやらがなければこんなことにならなかったわけですよ。


諸悪の根源がのうのうと何言ってんだって話ですよ。




「・・こんなとこで文句言ってても仕方ないか。とりあえず明るいうちにあの門の街に行かないと。」




設備が整った場所でのキャンプくらいしか野外活動経験のないあたしがこのまま草原で夜を迎えるのは大変よろしくない。


明るいうちに街に行って宿をとって。


早めに仕事を見つけなきゃ。



40年の人生経験がいま私を支えてくれている。


うん。何とかなる。


産まれ育った微妙な環境の中でもすくすく成長したあたしだもの。


世間の荒波にもまれた社会人としての経験もある。


こちらの世界でも図太く逞しく生きてやりますとも。



よいしょ!と立ち上がって服をはたいて葉っぱを落とし。城塞の街に向かって歩き出した。



気分転換によく異世界転生とか転移ものとか読んでたけど。


小説で読んでたのと実際に自分で経験してみるのとじゃ当たり前だけど全然ちがうもんだね。


現実的にこれからの生活のことを考えないとだし常識的な一社会人としてはのんきに『異世界だ〜♪』なんて喜べるような状況じゃない。



神様のお詫びの一貫として言葉はわかるようにしてくれるって言ってたし魔法も多少は使えるようにしてくれたらしい。


革のウエストポーチを大容量のマジックバックにして現地通貨を入れとくとも言っていた。


ある程度のサポートはしてもらえてるわけだけど住むとことか仕事とかは自力でよろしくってことだもの。


騙されちゃいけないよ。世の中においしい話はないんだよ。



頭の中でこれからのことをシュミレーションしつつ文句たれつつ城壁に向かって歩いていく。


けっこう近いかもと思っていた門まで辿り着くのに3時間以上かかることをこのときのあたしはまだ知らない。





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