縮んだ距離
「それでは黒崎さんは通院の準備をしに帰ってください!私の方はこれから用事がありますが、電車移動中にすぐに病院の案内を送りますので!それでは!」
彼女は慌てながらコンビニを出ていった。
本来ならコンビニでもメモ用紙は売ってるし、口頭で説明してくれれば僕のスマホで調べたのだが…なんとなく言えなかった。
しかし…あんな異常な夢を見ておいて、人はスラスラと本人を目の前にして話せるものなんだな…
そう…あんな…
あんな潤んだ綺麗な瞳で…
あんないやらしく尾を引く声で…
挑発的なしぐさもいじらしいしぐさも…
触れた手の透き通るような白さも…
吐き気と共に興奮を覚えたのは確かだ…
どんどんと溢れてくる
見ようとしなかった感じようとしなかった事が
現実の彼女を見て 比べながら脳が思い出していく
駄目だ駄目だ!夢の事なんて考えるな!
現実の事を考えろ!考えろ!考えろ…
スマホの着信音が鳴る。
ハッと我にかえってスマホを見ると、先程ラインを交換した桐谷さんだった。表示名は麻梨となっている。
『改めまして桐谷麻梨です。どうぞ宜しくお願い致します。
体調の方はいかがですか?病院の案内を送りますので、無理がなければ行ってくださいね』
優しい言葉に少しホッとする。
『ラインありがとうございます。
黒崎真白と申します。こちらこそ宜しくお願い致します。
体調の方は家に帰ったら少し楽になりました。
ですが念の為と、紹介していただいたのもありますし、この後病院に行きたいと思います』
更に着信音が鳴る。
『行ってくれるなら安心です。気をつけて行ってきてくださいね。
あと…お名前、真白さんというのですね。素敵なお名前です!』
そこか…っと心の中でつっこみながら返信した。
『麻梨さんも素敵なお名前ですよ』
猫が狂喜乱舞しているスタンプが送られてきた。
「やっぱり変わってるよな…」
病院の準備をしながらポツリと呟いた。
なんだか先程の桐谷さんの様子やラインがおかしくて、また久しぶりにクスクスと自然と笑いが起きた。




