いいんだよ
ひとしきり吐き出した後、ベッドに倒れ込む。
静かすぎる部屋には、時計の音だけが唯一の救いだった。
冷えた指先で唇をなぞり、その柔らかさとぬくもりに心を落ち着かせていた。
なんとなく物入れにしていたマドレーヌの箱を見つめながら、酸素不足の脳を落ち着かせていく。
だけど、まだガンガンと鳴り響く頭を癒やす為立ち上がり、冷蔵庫に向かってアルコールを手にする。
度数の高いチューハイを手にしようとした瞬間、僕は気づいた。
「こうやって、僕は彼女に救いを求めてるんじゃないのか…?」
きっとそうなんだ。
この生活に嫌気が差して、救いを求めているんだ。
今までのように、息が詰まる環境の中の救いとして少女達を好きになったように。
架空の少女や、クラスのアイドル、芸能人だって。
好きになった僕が好きだった。
擬似的な恋愛感情で頭がいっぱいにできれば、現実を見ずに済んだ…。
性格が嫌な奴でも、スキャンダルが出たアイドルでも、なんでもよかった。見た目が好みであれば。
今回だって、隣の住人の彼女に日々の救いを求めているんだ…。
そう、擬似的な恋愛だ。真実の愛なんてアニメーションの中でしかない。
人なんて愛したくない愛されたくない…こんな腐った人間なんて…
これは愛じゃない側にいてほしいなんて笑顔をみたいなんて…
彼女の瞳が何を映し何に心を奪われ何を見て眠りにつくかなんて…
何も感じない何も期待しない何も感じない…
ただの擬似的な恋愛だ…本物ではない…
きっと違うきっと違うきっと違う…
「いいんだよ」
また彼女の声がした。
バッと振り返り後ろを確認するが、もちろん彼女はいない。鳥肌が立つ。
僕は黙々と薬を取り出しアルコールで流し込んだ。いつもより何倍もの量とアルコールで。




