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混ざり合う音

「あっ、そうだ…黒崎さん、よければ買い物の後一緒の傘に入っていかれますか?雨は止みそうにありませんし…ご迷惑でなければ…」

「よろしいんですか?」

脈打つ心臓とは裏腹に冷静に僕は答えた。

「はい!それではパパっと買ってきます!」

彼女は慌てながら店内に入っていき、言葉通りにすぐに手に袋を持ち出てきた。


「よし!お待たしました!行きましょう!」

彼女はふんふんと息も荒いまま、何故か興奮気味にそう言った。

「宜しくお願いします」

「はい!では失礼して…」

彼女は精一杯に腕を伸ばして僕に傘を指す。

ぷるぷると震えながら一歩二歩進む彼女を見て慌てて傘を掴んだ。

「私が持ちますから渡してください」

身長差が10cm以上違うはず。持ってもらう方が申し訳ない。

「その方が良さそうですね…申し訳ないです」

彼女は諦めて傘を手渡す。


その後の会話はなかった。

雨の音だけが耳を刺激し、鼓動の音と重なっていく。

ただの隣人にこうも優しくしてくれるのだろうか?

もしも…もしかして…まさか…

頭の中で様々な意識がグルグルと回る。


「桐谷さん大丈夫ですか?濡れてはいませんか…?」

沈黙と鼓動の煩さに耐えかね彼女に問いかける。

「大丈夫ですよ!優しいんですね」

「いえいえ、当然の事ですから」

「でも、なんか…ああ、またこんな事言っていいのかわからないけど、黒崎さんが言うと、なんというか…スマートに感じますね!」

うんうんと頷きながら彼女は力説し、僕はさらにけたたましく騒ぐ心臓にクラクラして傘を落としそうになっていた。

「本当に物腰も柔らかで、お会いした時から優しくて、時にはジョークで笑わせてくれたり…本当に素敵で優しい人だと思います!」

彼女はにこやかに語っていく。


「まさに、彼氏に相応しい人です!」


ハッと意識が戻り、傘を持つ手に力が入る。

今の言葉は妄想か現実か…確かめる術はなかった。


「ありがとうございます」

僕は、ただそれだけを答えた。

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