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イアースの地にて  作者: 涼原 一生
帝国騒動編
9/22

敵との対峙

前回の続きです

9話


 飽きる程聞いた石畳を駆ける音、バハラムとコーレルは村の奥に向かって走っている。


「ああユキマル…!」


 その先に、腰を抜かした様子の老婦が見える。彼女は曲がり角の先を眺めている。


「バハラム!その人を頼む!」


 そう言い残してコーレルは道を曲がる。


「了解です!大丈夫ですか!?怪我とかしてないですか?」


 老婦に駆け寄り、状態を確認する。


「あたしゃ大丈夫だ…それよりも、あの子を…ユキマルを…!」


 震えながらも、力強く助けを請うその声は、バハラムの情に訴えかけた。


 老婦の震える指先はコーレルの駆けていった方を指す。


「…わかりました!安静にしていてください!」


 バハラムは老婦から離れようとするが、思い出したように老婦の元に戻る。


「これを、鳴らしておいてください」


 コーレルに貰った鐘を老婦に渡し、そう告げてコーレルを追いかける。


----------


「邪魔しないでよ!」


 ルークの姿はあの時と似ている。翼を持っているが大地に脚をつけて剛爪を振り回している。ユキマルと思しき少年が迎撃している。


「なんで邪魔するかなぁ!それか、死にたいのかなぁ!?」


 ご立腹な様子。目を血走らせて、一般的な服装の少年を睨みつけるルーク。


「はぁっ!」


 冷気を生み出してルークと対峙するユキマルの元に辿り着いたバハラムとコーレル。咄嗟に剣を抜き、ルークとの距離を詰める。


「なんか来たし…面倒だなぁ!」


 少年と戦うルークは、翼爪で大気中の水分を凍結させる。それは氷の結晶を複数生み出し、コーレルに向かって放たれる。が、結晶は剣に斬られて粉々になる。


「この程度か?」


「ちっ」


 少年を蹴り飛ばし、大きく後退するルーク。


「大丈夫ですか?」


 転倒した少年に声をかけ、手を差し伸べるコーレル。


「あなたは?」


 立ち上がった少年は問いかける。


「…私は帝国の者だ」


「帝国!?」


「ああ、それよりも、今はやつだ!」


 コーレルはそう言い残すとルークへ斬りかかった。


「大丈夫ですか?」


 後を追うように、バハラムも少年に声をかける。


「ええ、あの人のおかげで…」


 ユキマルの見つめる先には、翼爪と両腕を用いるルークの攻撃すべてを捌いているコーレルがいる。その剣の残像は全く見えない。


「み、見えない…」


 先ほどの剣捌きとは違うコーレルの剣技に、バハラムは息をのむ。


「君は…」


「バハラム・レザリオ、ユキマル、でいいのかな」


「ええ。…あいつが突然村の上空に現れて。同時に、魔物の大群も現れて」


 ユキマルはルークを見る。


「魔物は帝国の兵が倒して回っているから大丈夫だ。あとはあいつ、ルークだけだ」


「あいつを知っているのか?」


 バハラムの方へ向き直るユキマル。


----------


 剣撃と爪の弾き合う音。金属音よりも高いその音は村全体に響き、先程助けた老夫婦の元へ集まった兵士達の耳にも届く。


「僕は君の連れてきたやつを殺したいんだけどねぇ!?」


「それはだめだ、バハラムは私と任務中だ」


 互いに余裕がある状態。ルークは興奮しておるが、コーレルは冷静に対処する。


「皆して邪魔しないでほしいなぁ!」


「そう慌てるな」


 ルークを窘めるコーレルは、姉と弟のようだ。


----------


「バハラム…?」


 問いかけをした後、先程のバハラムとは違うオーラ。別人のような気配を感じ、顔を強張らせるユキマル。


「俺も行ってくる」


 ルーク、コーレルの方へ歩いていくバハラム。


「何その、強者って感じ?ああイライラするね!邪魔するな…って」


 上からの物言いに激怒するルーク。だが、コーレルの横に現れたバハラムを見て冷静さを取り戻す。


「コーレルさん、交代しましょう」


「だめだ、やつはお前を狙っている」


「俺も、あいつを狙っています」


 口調は普段通りだが、覇気のある声色にコーレルは息をのむ。


「…危険と感じたら邪魔する」


 コーレルは、ユキマルの近くへ下がっていく。


「また会ったね、バハラム」


「お前の名は知らない、だが、俺のいた村を襲撃したのはお前だろう?」


 問い詰めるように言葉を投げつけるバハラム。ルークは戸惑いと興奮を隠そうとしながら返す。


「あれ?名前は前に言ったと思うけどなぁ?」


 首を傾げるバハラム。ルークは不敵な笑みを浮かべ、口を開く。


「改めて自己紹介しよう、ミラードラ・ルーク・アドラ。確かに、君のいたトワン村は僕が襲撃したよ!」


「……!!」


 名前を聞いた瞬間、頭に例の感覚が走る。


 血を流しながら庭に倒れる女性二人。別の女性の笑顔。また、トワン村での出来事が蘇る。


 そうか…やはりこいつが…!!


「アドラ?」


 コーレルやユキマル、バハラムは沈黙。返したのはリーサだった。そして、ルークにはその声が聞こえた。


「…その声は…まさか」


 動揺するルーク。リーサの声が聞こえるようだ。ルークは塵払剣の宝玉を見つめる。


「んん?バハラム…じゃないよね?」


 リーサは何も見えていないが、声と、その心臓の位置を探知できる。


「…リーサ、その声の持ち主の心臓は冷たいか?」


「その声はレザリオ!ってことは、これのことでしょ…ううん、レザリオとかと同じで、温かいよ」


 普通に考えれば自分のいる場所、その横が俺だとわかるはずなのだが…やはりリーサは抜けているようだ……そういえば、心の声も筒抜けだったな。


「レザリオも抜けているね!」


 思ったことを口に出すあたり、リーサは純粋だ。


「…誰と話しているのだ」


 少し遠く、背後からのコーレルの声でハッとする。


「いえ、あの、なんでもないです」


 コーレルに対しては軽く流す。


「おかしい、僕は殺したはずだ…ババア2人とガキ2人……」


 ババアを…2人…?ゴルガ先生と…まさか…。それにガキを2人…?


「俺の母も殺したな!!」


「ババアは殺したさ!とても凄惨な悲鳴をあげながら死んでいったぜ!」


 ついでと言わんばかりに、ルークはガキのことを口走る。


「ガキの名前は知らねーがよ…。銀髪で目が赤くて…ああいうやつ嫌いなんだよ!」


 そして勝手に自爆をする。普段のバハラムなら頭のおかしいやつと認識するだろう。しかし、彼はその少年の特徴に覚えがあった。


 間違いない!ベドルは村で唯一の銀髪だ!全部…誰かが生き残っていると思っていたのに…。狭くても俺の、俺の世界を…全部、全部壊された。


 取り戻した記憶でさえも意味をなさない現実に、心が崩れるよりも前に怒りのボルテージが爆発した。


「許せない…許さないぞルーク!!」


「いいねぇ!そういう顔大好きだ!でも、そういう人間を殺すのはそれ以上に大好きだ!」


 昂る感情、涙が頬を伝う感覚の中、俺の感情は何かに飲み込まれた。比例するように、ルークのボルテージも上がっていく。


「返せ」


「はぁ?…はぁ??」


 バハラムの言葉に対し、呆れた顔をするルーク。そして、バハラムの背中から出てくる紅い霧に対して、先程までの声とは真逆の、素っ頓狂な声を発するのだった。


「返せ」


 涙を流し、ルークに怒りの表情を向けたバハラムは、剣を抜いてルークに斬りかかった。


 そして、紅い霧を見たのはルークだけではない。


「なんだあれ…魔法?」


「君!ユキマルだったか!手伝ってくれ!」


 いち早く察知したコーレルが早急に行動を起こした。


「!?」


 向けた獲物と共に降り注ぐ火花は蒼い髪を数本切り、焼いた。


 爪で塵払剣を受け止めたルークだが、その力量に眉間にしわを寄せる。


「返せ」


 同じ言葉を繰り返すバハラム。涙を流しているが、声に乗る怒りは重く、強くなっていく。


「それよりもお前、なんで臭いが消えた?生き物なら生涯その身から離れない臭い!」


 ルークは挑発と共に翼爪で反撃するが、塵払剣で受け流される。体を回し、勢いを乗せた塵払剣が放たれる。怒りと共に剣に乗る重みも増しているようで、ルークは段々と劣勢になっていく。


「ちぃっ」


 ルークの歯ぎしりの音が目立つ。


「返せ」


 塵払剣と翼爪が弾き合い、互いに石畳みの上を大きく後退する。


「人なんてすぐ死ぬのにさぁ!怒るのか!?」


 力では勝てないと見たようで、口頭で返すルーク。


「バハラム!!」


 コーレルの声、バハラムの意識がうっすらと戻ってくる。


「うっ…」


 意識が…はっきりしない…


 トワイライトの言葉が聞こえてくる。


『…これからは辛いことが多いだろう、だが、どうか生きてくれ』

 

----------


 気づけば空を見ていた。


 ルークが右腕でユキマルを掴まえ、上昇している。


「ユキマル…!」


「じっとしていろ」


 誰かの手で起き上がろうとする体を抑えられる。


「コーレル……さん」


「…」


 堅い石畳に任せているが後頭部には優しい感触、それはコーレルの膝だった。


 コーレルの視線の先では、ユキマルがルークの右腕を凍らせている。


「何っ」


「これくらいは…できるさ…」


 息を切らしながら抵抗する雪丸。


「…!ちっ、あーもう面倒だなぁ!」


 あろうことか、ルークは翼爪で自身の右腕を切り落とす。ルークが凍らせたからか、血は吹き出ずにいた。


「なっ!?」


 唖然とするコーレル。


 右腕に掴まれていたままのユキマルはそのまま川に落ちる。


「帰る!」


 興をそがれたのか、ルークは不機嫌そうに吐き捨てて村から離れていく。同時に、魔物も引き上げていく。


 村には血の跡と崩落し、家だったものの瓦礫の山が並んでいる。いくつか、残った家もあるようだ。


「…!ユキマルッ!!」


 気づけばユキマルが落ちた川の方に走っていた。


「バハラム!…仕方ないやつだ」


 コーレルが塵払剣を持ち、鐘を鳴らす。


 鐘の音は、集合を意味すると同時に、魔物と対峙していた兵士達の気持ちを落ち着かせた。


----------


 日が落ち、木材で作られた三脚の上になる灯によって照らされる村。


 村人が襲撃の跡を修理する中、灯は人々の心に平穏を齎す。


「バハラム…」


「ユキマル」


 村の端、焚火の前で座っているバハラムに近づいてきたのはユキマルだった。


「ありがとう。そこの川から上げてくれて」


「別に…」


 ユキマルの方をチラリと見たが、すぐに焚火に視線を戻す。


「君は…大切な何かを失ったんだね」


 重い声で言うユキマル。バハラムは沈黙で返す。


「言わなくていい。しかも、一度だけじゃないような、そんな眼をしている」


「慰めの言葉は要らない。多分、俺以外にはわからないことだから」


 息を吐き出し、少しの間を置いて立ち上がり、口を開く。


「…強く生きてね。僕にできることなら協力するよ」


「ああ」


 ユキマルは村民の方へ行き、入れ替わるようにコーレルが近づいてきた。


「隣、いいか?」


 顔を向け、眼で答える。コーレルはバハラムの左隣に腰を下ろす。


「…まずは、お疲れ様。村が…皆無事でよかった」


「…」


 言葉が出ないのか、沈黙が流れる。


「ルークと言ったか、奴を倒すには、あれに支配されていては無理だろう?」


「あれ、とは…?」


 バハラムには記憶が無いのか、言葉を失うコーレル。


「…ここに向かう途中の質問ですが」


 徐に剣を持ち、コーレルに語り掛ける。コーレルは俺の言葉を待つ。


「塵払剣。トワン村の地に、あった物です」


「えっ!?」

「なっ!?なぜ!?」

 リーサ、コーレルと驚いた声を発する。


 そういえば、リーサは眼が無いのだった。自分がどういう状況なのか理解していなかったようだ。


 バハラムの喉元で言葉は詰まり、沈黙が流れる。


「…トワン村は、俺の故郷は、この村のように、魔物に襲われました」


「……聞かせてくれないか」


「レザリオ!私のことも教えて!」


 震える唇。顎が動かず、気づけば涙が流れていた。


「すっ、すまない!無理に聞くつもりは!」


「…いえ」


 涙を拭き、コーレルに向き直る。


「話します。俺が見た、あの襲撃を」

最後までお読みいただきありがとうございました


エッガ村…エスティール大陸東部スアム地方の最東の村。謎の少年ユキマルや村人たちは復興に勤しむ。


ユキマル…世界感に合わない名の少年。しかしイガシロンを用いて魔法を発現しており、この世界に産まれたもので間違いない。物好きで、皆に対して過保護なため、ルークにも自分から戦闘を挑んだ。


ルーク…再び現れた村の人々、家族の仇。再生能力もあり、最後にはユキマルを振り払うために腕ごと切り落とした。


次の話に続きます




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