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イアースの地にて  作者: 涼原 一生
帝国騒動編
8/22

大雨林を越えて

前回の続きです

少し短めです

8話


 ホルィド大雨林を進むバハラムとコーレル。その後ろに5人の兵士がついてくる。


「雨降ってないですね」


「そうだな、遠出でこれはありがたいことだ」


 大雨林の名を冠しているが幸いにも晴天だ。以前のことからこの土地はなんとなく把握していたが、それにしても湿っぽい。何より鎧を着こんでいることで内側が蒸す。


 対照的に視覚的情報は涼やか。雫が葉を伝っていたり、水を好む狐型の小さな魔物ユウルズの群れが確認できることから、前日は雨天であったことが窺える。


 ユウルズの群れは人を嫌っており、バハラムたちの足音に気づくな否や茂みの間を駆け抜けて行く。


「今更だが、その剣の事を聞いてもいいか?」


 変わらない景色を歩いていると、コーレルが問うてきた。


「昨日、城門前で尋ねてくれても構わなかったのですが」


 バハラムはぎこちない口調で言う。


「リンナ殿下に用があるのに引き留めるのも悪いと思ったからな…珍しい形の剣を持っているな」


 コーレルが言うのは塵払剣だろう。珍しいというのもそのはずだが、その本質は俺自身も理解できていない。どう答えたものか…。そんなことを考えているとリーサが喋り出した。


「レザリオ!変な球体がある!」


「球体?」


 スティアに疑問を投げかける。


「どうした?何か見えるのか?」


 当然、コーレルは反応する。


「いえ…見間違いです」


「なんだろう…遠いけどよくわかる。他とは違う感覚」


 慎重な声で語るリーサ。


「…」


 リーサは意外と抜けているところがあるから、勘違いかもしれない…。


「勘違いじゃないよー!人だけどとても大きな…何かが、はっきりわかるの」


 はっきりと、力強い声で伝えられる。宝玉は今までにない程綺麗な赤色だ。


 ん?今、心、いや、考えを読んだのか?


「え?心?喋ってないの?」


 いや、喋っていない。喋ったらコーレルさんに何か言われる。


「ええ!?大発見!」


 大発見だ、これで不審に思われないで済む。


「えっとね…バハラムから見て右前の方かな?例えるなら、熱が無いような…」


 熱が無い?俺や、コーレルさんの心臓には熱があるのか?


「うん、熱い訳ではない。でも、どれくらいの温度なのかは分からない」


リーサの言う方向に行きたいが、今は団体行動中だ。後回しにするか…。


「あれ…消えた…」


 気にするほどでもないだろう。今はエッガ村に真っすぐに向かうのが最優先だ。


「ん…また眠い…」


 宝玉は輝きを失っていき、リーサの声もなくなる


 魔物との遭遇もなく、バハラムたちは森を進む。


「そうだバハラム、これを渡しておこう」


 そういってコーレルは懐から手持ちサイズの鐘を出し、バハラムに渡す。鐘は土色だ。


「その鐘は我が国で量産しているものだ。その鐘と同種に触れたものにしか聞こえない音を出すという性質だ。…どういう原理なのか、私には理解できないが」


 物珍しさに鐘を見つめるバハラム。


「試しに小さく鳴らしてみろ」


 鐘を少し揺らす。カーンという金属音が小さく鳴る。


「この音、土色の鐘は集合の合図だ。合流する時に使うかもしれないからな」


「わかりました」


 軽いコミュニケーションを挟みながら、目的地を目指す。


----------


 穏やかな空間だったのは大雨林に入って二日だけだった。


 奥に進むほど鬱蒼とした景色は深みを増していった。


 垂れる葉は視界を遮り、湖ではポタモスの群れとの戦闘。夜間は順に見張りを行い、魔物の襲撃を凌ぐ。


 バハラムは医療部隊の兵の援護に回り、数日間コーレルの元を離れた。


 実力は見合っていたそうで、コーレルの元に戻る際とても感謝された。


 国を出てから経過した月日を数える人はいたが、やがてそんな余裕はなくなっていた。


 洞窟で野営をした晩のこと、あってはならない事態に遭遇した。


 部隊の1つが、レヴィアスの偵察区域に入ってしまった。


 レヴィアスは海の竜。その雌個体で地上活動を可能としている。凶暴ではないそうだが、慌てて逃げようとしたのがよくなかった。レヴィアスは視認した生物を襲う習性が強い。


 先日仲良くなった医療部隊の1人が手当てを行いながら生態を教えてくれた。結果、その部隊の6人中4人が負傷した。


 だが、翌々日まで異常な豪雨に見舞われた。≪久慈雨≫というらしい。


 こういった団体行動に不慣れな俺は、それでよかったのかもしれないと思った。


 その翌日からは以前と同じように行動を再開した。


 大雨林の名は伊達ではない。本来なら花が芽吹き風が熱を運び、雪が降り大地を溶かすはずの四季を感じさせない。年中雨天のためエスティール大陸特有の季節感覚がまったく味わえない。


 3ヶ月と数日経過したのを確認できたのはコーレルさんが巨大なカマキリ型の魔物を倒した翌日、早朝だった。


「エッガ村が見えてきたな」


 コーレルが言う通り、木々の間から民家が、青い空が覗く。同時に、民家から火が出て、崩落していく様子も見える。


「…火事か?」


 そう思ったのも束の間。大きな揺れと爆発音が聞こえ、火事ではないと理解する。


「何何!?」


 慌てた声と共にリーサが目覚める。霧は宝玉から多く飛び出し、バハラムの視界を埋める。


 バハラムがコーレルにどうするか尋ねようとしたら、コーレルは既に行動していた。一人の兵士を呼び、指示を出していた。


「ここで待機し、他の者が来たら村へ急行することを伝えよ!」


「はっ!」


 先ほどまでの物静かな彼女ではない。戦いや、こういった状況に慣れている様子で、冷静に指示を出す。


 コーレルの指示に答えるように、兵士は懐から土色の鐘を出し、音を鳴らす。


「他の者は私に続け!」


 コーレルが先導し、バハラムと4人の兵士が続く。


----------


 エッガ村は半壊していた。川が囲い、石造りの橋から村に入れば見える民家は、火によって崩落し、石造りの土台に瓦礫の山を築いていく。

 

 火の手は村全体に回り、村人たちは逃げ道を無くし、必死に魔物から逃げ回っている。


「なぜ…魔物が…」「護龍は何をしている!?」


 兵士が立ち止まり、村の光景を見て唖然とする。


「村人を救出する!二手に分かれて左右に進め!」


「はっ!」


 兵士は左右に分かれ、村人を探すべく、石造りの道を走り出す。


「バハラ…バハラム?」


 コーレルが先導しようとするが、様子がおかしいバハラムを見て言葉を失う。村の光景を見て呼吸を荒くしているバハラム。


 蝙蝠の魔物が火を吹いて民家に火をつけ、狼の魔物は逃げ惑う村人の背中に喰らいついている。


「はっ…はっ……」


 この記憶は…何だ…。


 フラッシュバックするのは崩壊した庭にいる自分。その眼前には翼を宿した青髪の少年。リーサとゴルガの首を持ち、バハラムに対して不敵な笑みを浮かべている。


「バハラム!」


 コーレルに体を揺さぶられ、意識が現実に戻る。


「大丈夫か?」


「はい…すみません」


 口を閉じ、答える。嫌な気分だ。


「無茶はするなよ…行くぞ!」


「はい!」


 コーレルに鼓舞され、村を真っすぐに進む。


「行こうバハラム!」


 心の声を聞いたリーサも闘志を燃やす。呼応するように宝玉も輝きを増す。


----------


「邪魔だ!」


 剣を抜いたコーレルが狼の魔物を斬り払う。


「バハラム!あそこ!」


 リーサの声と共に霧が前方右側に伸び、そちらに目を向ける。視界に入ったのは一つの民家。バハラムの目に映ったのは、狼の魔物が今にも老夫婦に襲い掛かろうとしている光景。


「コーレルさん!」


 アイコンタクトを送るとコーレルは小さく頷き、バハラムに続く。


 石造りの階段を駆け上り、塵払剣を抜く。


「うらああああ!!」


 バハラムの雄叫びに反応した狼は、身を寄せ合う老夫婦から敵意を移す。そしてそのままバハラムに飛び掛かってきた。


 敵は二体、コーレルさんと分ければ倒せる!


「左は任せろ!」


 遅れて階段を上ったコーレルはバハラムの意志を汲み取り、魔物に剣を向ける。


 互いの剣は狼の頭部をしっかりと斬り、続けて腹を斬り裂く。


 コーレルの方は急所を捉えたのか、狼は力を失いその場に倒れる。


「グオ!?ガアアア!!」


 しかしバハラムの方は爪が甘かった。狼は口を大きく開け、垂れる眼球がバハラムを捉えている。食らいつこうと、剣で裂ける腹に構わず距離を詰める狼。


「なっ!?」


「バハラム!」


 狼の口内が見える程の距離になった時、コーレルが狼の胴を両断する。


「ガッ…」


 狼は叫びをあげることなく、弱々しく地に落ちる。胴体は綺麗に斬れ、臓器や骨が断面図から覗く。その光景を見た老夫婦はより身を寄せ合い「ひぃっ」と小さく怯える。


「大丈夫ですか?」


 剣の血を払い、コーレルが老夫婦に近づく。


 バハラムも塵払剣を鞘に納める。が、息つく暇もなく、爆発音が左耳に強く響く。村の奥の方だ。


「何々!?」


 村に入る前と同じような反応をするリーサ。しかし、霧は発生せず、宝玉が輝きを放つだけだ。爆発音は続けて轟き、青く冷たい色を空気中に残す。


「あれは…ユキマルか?」


 老夫は爆発が起きた方を心配そうに見つめる。


「ユキマル?」


 聞きなれない名前に、バハラムは首を傾げる。


「ああ、この村で唯一魔法を使える子だ。だが…」


「魔法!?バハラム!私あっちに行きたい!」


 疲弊した声で老婦が答える。対照的に、興奮した声色で話しかけてくるリーサ。


 同時に、聞いたことのある鐘の音がなる。集合の音だ。

 

 コーレルは鐘を老夫に渡す。


「兵が来るはずなので、彼らに、他の村人のいる場所の指示をお願いします」


「わ、わかりました」


 老婦は咄嗟に鐘を受け取る。


「バハラム、行くぞ!」


「はい!」


 コーレルが先導し、爆発のした方へ向かう。


今回辿り着いたエッガ村は南大陸エスティールの最東部にある小さな田舎村。


ホルィド大雨林…雨天林と呼ばれ、ギルドが狩場に登録している。年中雨天で、この環境を好む魔物がひしめき合う。


狩場…強暴、獰猛、環境影響、環境破壊、これらの項目に当てはまる大型の魔物が多く存在する土地をギルドが登録し、魔物の討伐または狩猟のクエストを、主に冒険者が受注して赴く土地。

立地や環境、自然が変化する境、魔物の行動する一定範囲の情報を取得。それらを判断しエリア分けされている。その一つが雨天林である。


ユウルズ…水を好み、水魔法の適性個体が多い、獣目獣上科狐科の小型の魔物。

同じ狐科の魔物では、鉱石を食性とし紫煌石を好む小型の魔物デプスペンル。デプスペンルの亜種個体のアズペンル。

大型では天の色と形容される体毛を持つアマテルコなどが種族分けされている。


帝国鐘…コーレルもそのメカニズム、製作者を教えられていない。合図には多くの種類があり、合図、歓迎、防衛、戦闘準備、暗殺。が存在する。音はその都度覚えなければならず、今も尚新たに生み出されている。

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