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イアースの地にて  作者: 涼原 一生
帝国騒動編
6/22

帝国を統べる補佐達

前回の続きです

6話


 城に向かう道、少し目線を感じる。というより、俺のことを話している?


「あいつだぜ、ガイーツを一人で倒したって若造」


「そうは見えないよなぁ、体だって細いしよ」


 鍛えた方がいいのだろうか…。


「本当なのに!みんな見た目で判断しちゃって!」


 リーサは大きめの声で怒る。


「…?」


 俺の噂話を語る男達はそのまま語り合っている。

 

 なぜ彼らはリーサの声に反応しないのだ。

 

 同じような話を小耳にはさみながら城に向かう。


 そして案の定、誰もリーサの声に対して反応しない。



「リーサ…もしかしたら君の声は俺にしか聞こえないのかもしれない」


「えっ!?そうなの!?」


 天然なのか、彼らが反応しなかったことには気づいていないのか、どちらでもいいが、これはどういった原理だ…。


「どういうことかはわからないが、そうらしい…現に今」


 小声でリーサに語り掛けているのだが、道行く人たちは俺とすれ違えば何か言っている。


「ママーあの人一人で喋ってるー!」


「こら、見ちゃいけません!」


 城門前の広場。すれ違った親子にはすれ違いざまに危ない人認定か…。俺はそんなつもりでリーサと話しているわけではないのだが…。


「現に今、子供に危ない人と認定される程だからな」


「……」


 リーサからの返事は無く、城まで歩いた。


----------


 城門前、槍持ちの兵士が脇に佇んでいる。門は開いており、中から見覚えのある女性が向かってくる。


「む、君は確か、バハラムだったか…?」


 女性の方が先に気づき、バハラムの方へ歩いてくる。


「レザリオあれよ、コーレル・フィーリアとかいう美人さん!!」


 見えていないはずなので声だけで誰か判断したのか。バハラムの感心とは裏腹に、妬みっぽく言うリーサ。コーレルの耳に届く距離だろうが、他の人同様コーレルもリーサに対しては反応しない。


「コーレルさん。お疲れ様です」


「ありがとう、城に何かようがあるのか?」


「はい、国王の捜索に協力したいなと」


 そういうとコーレルはバハラムの体をじっと見つめる。


「…君は、強いのか?」


 探るような口調で問いかけてくる。


「ガイーツを一人で倒すくらいには」


「そうか、冒険者が噂しているのは君の事だったか」


 腑に落ちたようで、眼を閉じて軽く頷く。


「リンナ殿下に会うといい。真っすぐ進んで階段を登れば玉座だ」


 そういうとコーレルは歩き始める。すれ違いざま、肩を軽く叩かれる。


「…行くか」


 入城する。正面には言われた通り階段がある。横に広く、入り口からレッドカーペットが伸びている。


 階段の裏には小さな池があり、メイドが作業をしている。左右は松明の掛けられた通路が開かれている。新しい景色に毎回うっとりしそうになるが、その感情を押し込んで階段を登ろうとする。


 が、ひときわ目立つメイドさんに止められる。長だろうか?


「何ようでしょうか」


 機械っぽい口調。無表情な顔に、黒緑色の髪と赤い目からは殺意ではないが恐怖を感じるものを発している。勿論、俺も恐怖してしまった。


「り、リンナ殿下に。国王の捜索に…」


 思わず小声になってしまい、声が出なくなってしまう。


「そのようなひ弱な体に加えて、私を見て恐怖するようでは力不足です。どうぞお引き取り下さい」


 メイドは目を閉じ、きびすを返す。


 なんてこった、こんなところで目的が無くなるとは。この国で兵となって腕を磨かなくてはいけないというのに…。


「ファズメイド長!」


 階段の上から女性の声が響き、ファズと呼ばれた冷徹女の体が跳ねる。


「またあなたはそうやって!」


 階段の上、白いドレスを纏った赤髪の女性が降りてくる。


「…この者の実力を計っただけです」 


 視線を逸らして言い訳をするファズ。


「もう!…すみません、ファズは客人をもてなすのが苦手で…」


 なぜメイド長に…?


「なんでメイド長なの…?」


 リーサが言う。ファズはその声が聞こえたのか、それとも偶然か、宝玉の方をちらりと見る。


「ファズ?どうかしたの?」


「いえ…」


 ファズはそう言って俯く。


「変なのー」


 気づいているのかどうなのか、リーサは子供らしい反応をする。


 ファズさんにリーサの声が聞こえているとしたら、かなりの煽りになるよなぁ…。

 

 そんなことを考えている間に、ファズが赤髪の女性にバハラムの要件を話していた。


「兄様の捜索に協力してくれるのね!」


 嬉しそうにバハラムの手を取る。


「え?あ、はい」


「嬉しいわ!とりあえず!玉座までおいでなさって!」


 赤髪の女性は階段を登っていく。


「ご案内します」


「お、お願いします」


 あの女性の手前だからか、ファズが突然丁寧になる。少し不安だ…。


 階段を登るとすぐに謁見の間、奥に玉座が見える。


「どうぞ、粗相のないようにお願いします」


「わかりました」


 ファズさんに、謁見の間に入る催促と注意をされる。


 粗相ね…。


----------


 玉座は二つあり、赤髪の女性は右側に腰かけており、左側には少し老けている男性が腰かけている。


 赤いクッションに金色の淵で象ってある玉座。背もたれの頂点には双剣を象った形が作られている。


 レッドカーペットを進むと、近衛兵が槍をついて音を立てる。それに合わせて赤髪の女性が立ち、俺も足を止める。


「改めて、はじめまして、私はアヴル・リンナ。現在失踪中の国王の代理を務めています。国王アヴル・ラグの妹です」


「バハラム・レザリオです。突然の訪問ですがお会いいただきありがとうございます」


 跪いて返す。こういったようにやるのを何かで見たが、何だったか…。


「なるほど、あなたが突然話題になった冒険者、バハラム・レザリオだったのね」


「正直、驚いています」


 リンナが男性の方に視線を向ける。男性が立ち上がるが、脚が透けている。


「私はアヴル・オムガ、今は亡き、前国王だ」


「先代の国王様、お会いできて光栄です」


 亡くなっているのに会える…なぜ?


「先に断っておくが、既に私の体は死んでおり、今は幽体だ。五感がかなり弱く、血族の者の声しかはっきりと聞こえないのだ」


「わかりました」


 アイコンタクトも添えて、返事をする。オムガは続けて話す。


「要件は先ほど聞いた…、我が息子、ラグの捜索に協力してくれるのだとか」


「はい」


「娘からは信頼できると聞いた…」


 覇気のない、というより、生気のない声で返事をするオムガ。そう言いながらリンナの方に視線を向けるオムガ。


「はい、ガイーツを一人で討伐したと、噂されています。先ほど、本人から確認もしました」


 リンナが返す。


「ガイーツ…古獣の生き残りと噂される種か…」


 しばらくの沈黙、オムガが口を開く。


「協力感謝する、どうか頼む。日時は娘から聞いてくれ」


 オムガは感情を込めてそう言うと霧のように消えていった。


「時刻は明日朝8時、城門前広場にて待つ。バハラムよ、感謝する」


「わかりました」


 リンナにそう言われ、謁見の間を後にする。


----------


 城門前、ファズさんに見送られる。


「では明日、そちらの広場にてお待ちしております」


 城内から告げるファズ。ファズがハンドルを回し、橋として開いていた門が閉じはじめる。それを見届けたバハラムは城を後にする。


----------


 翌日、窓から覗く日光が部屋を照らして目が覚める。この世界では一般的な水時計は12の球体を携え、7時の球に水が溜まっている。


「ん…」


 寝巻姿のバハラム。布団から出て着替え、荷物を持って部屋を出る。


----------


「おはようございます」


 通路でカーテンを開けている従業員を見つけ、声をかける。


「バハラム様、おはようございます。もうお出かけですか?」


「はい、行ってきます」


「いってらっしゃいませ、お部屋の掃除しておきますね」


 会釈しながら「お願いします」と言う。そのまま階段を降りていく。一階に降りるとほうきを持って掃除をしているスティアがいた。


「おはようございます」


「おはよう、今日から国王の捜索に行ってくる」


「昨日来たばかりなのに、忙しそうね」


 ため息交じりに言われる。


「あまり悠長に過ごせなくてね」


 苦笑いしながら返す。


「いってらっしゃいませ」


 丁寧にお辞儀をして見送るスティア。バハラムは宿を後にする。


----------


 革袋と塵払剣を腰に掛け、スティアに選んでもらった衣類で道行くバハラムは、それなりにアヴル帝国の街並みに溶け込めていた。


 寄り道はせず、真っすぐに城前の広間に向かう。広場には既に数人いるが、皆鎧を着けており、綺麗に並んでいる。


「いいか皆、目的はラグ様の発見、国王として戻ってきてもらうことだ。発見した者はすぐに私に伝えろ」


 綺麗に並ぶ鎧兵の先頭に女性がおり、隊列に向いている。バハラムは女性を眺める。


 コーレルさん…ではないな。鎧はコーレルさんと同じような鉄製を着けているが。見た目も少し若い。


 女性がバハラムに気づくと、向かいにいる鎧兵もバハラムの方を向く。


「君は、バハラム・レザリオでいいかな?」


 歩み寄りながら語り掛けてくる。


「はい、国王捜索のため、集合場所に来ました」


 そう言うと女性は左手で顔を隠し、軽くため息を吐く。そして言いにくそうに口を開く。


「実は、君しかいないんだ、バハラム」


「えっ、はい?」


 ん?正面にいる人たちは…?


「まずは名乗ろう、私はミレアラドム・スフィーラー。アヴル帝国の護衛兵の長をしている。こちらは私の率いる兵士達だ」


 軽く頭を下げ、挨拶をされる。背は俺より高いな…。赤紫の髪は顎辺りまで伸びており、兜の後ろから出るポニーテールは肩くらいまである。黒目の部分は青いが、中央が赤く魔物っぽい目をしている。


 目だけを見ていると恐怖してしまいそうだ。美人というよりはかっこいい方だろう。


「え、あ、どうも」


 兵士達の方に向いて言うと、兵士たちは同時に会釈する。鎧が軋む音にずれはなく綺麗に響く。


「ここアヴル帝国は世界一の武力、剣技を持つ国なのだ」


 バハラムがミレアラドムに向き直ると、ミレアラドムが語りを続ける。


「魔法が注目を集める近年だが、現在の魔法では剣技に勝る戦闘技術はないようで、国民も兵士や私達兵長だけでなんとかなるだろうと協力的ではないのだ…こちらとしては猫の手も借りたいのだが…」


「…前日になって、ようやく一人目が来たと」


「ああ、子供でもいいから、近衛兵をつけてとにかく効率をあげたかったのだが…、国民は兵士も多くいるし問題ないだろうと言うのだ…」


 ああ…信頼はあるけど協力はしてもらえないのか…。


 ミレアラドムの口調は呆れを通り越しているようだ。国民に悪気はないのだろうが。という意志も汲み取れる口調だ。


 しかし国民の意見も全うだ。


「気の毒とか思わなくても大丈夫だ。今までも、こういった事件の解決までに問題があったことは殆どないのだ」


「…それなら、今回も兵士だけで調査をすればいいのではないでしょうか?協力する自分が言うのもですが、暗殺者でもきて、捜索中に兵長が暗殺されたりでもしたら…」


「その必要はない、我々は仲間を信頼していると同時に、常に注意を払っている。それに、他地域で国王の目撃情報があれば、その方が発見に至るまでも早くなると考えての依頼だったのだ」


 バハラムたちが会話をしていると城内からコーレルが広場に向かってくる。こちらは単独だ。


「バハラム、おはよう」


「コーレルさん、おはようございます」


 笑顔で接してくるコーレル。


「なっ!?既に面識が!?」


 互いに挨拶するのを見てミレアラドムが驚く。


「ええ、昨日、護龍柱の広間で」


 ミレアラドムに説明する。隣でコーレルが頷く。


「くっ!昨日怠けなければよかった!」


 ミレアラドムは何かを悔しがっている。昨日何かあったのだろうか…。


「気にしなくていい、彼女、国王が失踪してからさぼり気味なの」


 コーレルが呆れ半分にそう零す。


「そ、そうですか」


「それよりもその剣が気になっていたんだ、触っていいか?」


 嬉々とした表情のコーレルが塵払剣に触れようとする。


「そうだバハラム!鎧を着けていないじゃないか!」


 対抗するように、ミレアラドムが割って入ってくる。


「近衛兵長と兵長に絡まれるなんて…」

「羨ましいがすぎるぞ!バハラム・レザリオ!」


 隊列を崩した兵士たちが口々に言う。明らかな嫉妬だ。


「ふぁ…おはようレザリオ…って何事!?うるさい!」


 二度寝から覚めたリーサの声が宝玉内から響くが、バハラム以外に声が聞こえる者はいない。


 阿鼻叫喚だ!俺はどうすればいいのだ!


「私が先だ!」


「それは後でいいだろう!武装は今しかできない!」


 当然リーサの声は聞こえないので、コーレルとミレアラドムは互いに言い合うだけだ。


「また修羅場!?レザリオってなんで女の人の知り合いこんなに増えるのよ!」


「どうしろと!」


 バハラムが叫ぶ。


「とにかく!」


 ミレアラドムがバハラムを腕に抱きかかえる。


「あっ!」


 コーレルが間の抜けた声を出す。


「逆お姫様抱っこまで…!!」


「ずるい…!」


 兵士たちは羨ましがっている。


「捜索に支障があったら困るから!先に鎧だ!」


 ミレアラドムに運ばれる。どこへ向かっているのかは知らないが、やっと落ち着ける。


「…自分の部下たちを置いてバハラムを優先か」


 コーレルは呆れてため息を吐く。仕方なさそうに兵士達の方に向く。


「とりあえずここで待機していてくれ、私は殿下を呼んでくる」


 兵士たちは敬礼し、バハラムが来る前のように、綺麗に列になる。


----------


 8時。鎧を着けたバハラムを連れてきたミレアラドム、鎧姿のリンナがオムガを連れ、その後ろからコーレルとファズの6人が城から出てくる。

 

 招集していたのだろう、コーレルの部下の兵士達も隊列を組んで並んでいる。


 広場に集まった一同。オムガとリンナとファズが城側に立ち、バハラムと二人の兵長とその部下達が城に向いている。


「リンナ様、私では駄目でしょうか…」

 

 ファズは少し寂しそうに言う。


「あなたには城の警備を頼みます」


 微笑んで返すリンナ。


「かしこまりました…」


 不服そうに、釈然としない返事をするファズ。


 リンナは兵士達とバハラムに向き直って言う。


「バハラム。改めて感謝する。目的は国王、アヴル・ラグの捜索。遠出になるかもしれない。参加を辞退するならば今なら許可する」


「いえ、退くつもりはありません」


 バハラムは強く答える。バハラムの強張った表情を見たオムガは嬉しそうに頷く。リンナを挟んで、オムガとは反対側に立つファズは小さく舌打ちをする。


「しかし一つ疑問があります」


「述べてみよ」


「女王様も向かわれるのでしょうか?捜索を強要する必要は無いと考えますが」


 少しの間を置いて、殿下その人が答える。


「私が向かうのは私の我儘を聞いてくれた皆の懐の深さにあります。また、私の身に万が一のことがあったとして、国王となるべき人物は別にいるので気にする必要はありません」


「そうでしたか、お答えいただきありがとうございます」


「労りの言葉感謝します。…それではお父様、行ってまいります」


「うむ、気をつけてな」


「お気をつけて」


 オムガとファズに見送られるリンナ。


「さあ、行きましょう」

お読みいただきありがとうございました


リーサ…自身の立場はまだ分からず、ただバハラムにしか声が聞こえていないことを知る。


アヴル・リンナ…国王アヴルの妹。家族思いで、何事にも真剣で真っすぐ。それに伴い周囲を観察する能力が乏しく、ファズや兵長たちの手を借りている。


ファズ・ルガサ…帝国の情報を管理しているといっても過言ではないほど仕事の量をこなし、責任を抱える人物。他人を気遣うことが出来る反面、気に留める必要のない存在には冷たく当たり気味。


アヴル・オムガ…リンナやラグの父親であるようで既に亡くなっている。塵払剣もそれと同種である勇器によってその魂を現世に留めていられる。


コーレル・フィーリア…帝国の警備兵長。長く帝国兵として勤めており、兵長まで上り詰めた実力者。ミレアラドムのことは嫌いではないが、我儘な奴と見ている。


ミレアラドム・スフィーラー…帝国の護衛兵長。数年前帝国に実力を買われ、当時とある地方の災いを退けた蛮勇。


また続きを投稿します

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