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イアースの地にて  作者: 涼原 一生
旅立ち編
2/22

旅路の一歩

前回の続きです。

定期的に投稿していきます。

2話


 お気に入りの場所、小さな丘の上は日光に照らされている。バハラムがそこに寝転がりながら昨晩のトワイライトとの会話を思い出す。


―――お前は真実を知る者だ


「どういう意味だ?」


「それは他の護龍に聞くと言い」


「…旅に出ろ。ということか」


 トワイライトは頷く。


「今から言うこと、さっき言ったこともだが、他言無用だ。絶対に」


 と、顔を近づけて言う。


わかった―――


「あ、やっぱりここにいた!」

 

 リーサが走ってくる。


「おはよう」


「あれ?元気ない?」


 危ない、いつも通りでいなくては


「そんなことないよ、行こう」


 リーサの手を取る。


----------


 教室、日の光が入って暖かい。


「モンスターには種類があります」


 ゴルガ先生が本を持ち語る。


 特筆して記録する内容もなく、授業中にも関わらず昨晩のことを考える。


―――バハラム・レザリオ、お前に未来がかかっている。


「未来?」


「ああ…トワン村は滅びる」


「…」


 驚いて声が出ないとはこういうことを言うのだろう。


 呑んだ唾が、喉を下っていった感覚が強く残る。


「既に一月前、虹の月の十七日、ゼムルンという村が滅びた」


なぜ―――


「バハラム君!」


「…っはい!」


 ゴルガ先生が睨んでいる。


「珍しく寝ていないと思ったのですが、眼を開けたまま寝てましたか?」


「いえ、すいません…」


「しっかりしてください、右ページ、右下の文を読んでください」


 そうだ、しっかりしなくては。


 リーサは、そんなバハラムの様子を見ていた。


―――悟られるな


「誰に?」


「全員だ、友人も家族も、昨夜のような、ネメシス族にも」


「そうは言ってもどうすれば」


「普段通りにすればよい、奴らが仕掛けてきた時に家に向かって走れ」


「なぜ?」


後で言う、順を追って話すぞ―――


 バシャンという、気泡が弾けたような音が、地震のように響く。先ほどまでの明るい空は無く、紫がかった暗雲が村の空を支配している。その規模は昨日の比ではない。


「なんだなんだ!?」


 生徒が騒ぐ。


「皆さん落ち着いてください!」


 生徒が席を立ち、窓の方へ向かう。ゴルガ先生は慌てて落ち着かせようとする。


 今なら、抜け出せる。


 バハラムは目立たぬように屈んで学堂を後にする。


―――塵払剣を抜くのだ


「庭の剣を?」


「そうだ」


「しかし、禁忌では…?」


「そうだ、だがそうする他ない、どうか頼む」


「…わかった」


 少し腑に落ちないが神のお告げでもある。俺がやらなくては。


「…これからは辛いことが多いだろう、だが、どうか生きてくれ」


 声色を重くして、トワイライトは言う。


 同じように声色を重くして返す。

                                …わかった―――


 村はあっという間に戦火に包まれた。

 異形の魔物によって村人は斬り殺され、喰い散らかされる。


 ゴルガを先頭に、学堂裏口から逃げる生徒達。


「バハラム君はどこへ?」


 生徒は皆知らないと口々に言う。


「とりあえず、ここから避難してください」


 と、草地では目立つ木製の地下扉を開く。リーサはそれとは反対方向に走り出す。


「フェルダリーカさん?」


「私!レザリオ探します!」


 と、平原の方に走る。


「…とにかく、皆さんはここから逃げてください」


 ゴルガは地下階段のドアを開けて生徒を誘導する。


―――その後、アヴル帝国に向かへ


「この大陸の北にある帝国…だったか」


「そうだ、そこの兵となって腕を磨くのだ」


 兵…集団での活動か。顎に手を当てる。


「不服か?」

                                問題ないが―――


 学堂を抜け、知り合いの残響から耳を遠ざけながら家に走る。


「はぁっ…はぁっ…」


「お、獲物だ」


 四肢を地につけた人型の魔物に横目で見られる。


「はぁ…」


 どうする、話しても聞かないはず…切り抜けるしかない。


 脚に意識して走り出す。


「足速いなー、ルーク様ぐらいあるかな?」

 

 魔物は横切ったバハラムを見届ける。


「(足が…熱い…でもこれで家に行ける!)」


 空を切るバハラム、黒い髪がなびく。


「君子供でしょ?足速いね」


 バハラムの右横を同じスピードで走る。それはルーク、バハラムと同じくらいの身長で、脚や拳が獣のようになっている。爪は無いが、肉球がある。毛の柔らかな感触と共に、右頬に殴打の感覚が走り、そのまま吹っ飛ぶ。


「い…っ」


 頬をおさえる。


「駄目だよ逃げちゃ、この村は何も残しちゃいけないらしいから」


「お前…誰だ」


「ミラードラ・ルーク・アドラ。この村の襲撃隊の長だよ」


 蒼い髪から覗く青い目を閉じながら、ルークは礼儀正しくお辞儀をして挨拶をする。頭をあげてバハラムに笑顔を見せる。


「…礼儀正しいんだね」


 と、立ち上がる。


「まぁ、僕の恩人がこうしろって言うから…ってあれ」


 バハラムはさっきと同じように走る。家はすぐなので、そのまま庭に入る。


「はぁっ…追ってきて」


 後ろを見てルークのことを確認する。


「逃がさないよ」


 跳躍したルークの蹴りを水下に食らい、家の壁まで飛ばされる。


「がはっ!」


 激痛が走り吐血する。


 なんだ…これ…?


「はぁっ……がっ…はぁっ…」


「どこに行こうとしてたの?」


 ルークがゆっくりと歩み寄る。


 自分の体から全部出たのかと見まごう程の血の池が出来る。それを見て絶望しかけたその時、


「バハラム君!」

「レザリオ!」


 庭の入り口にリーサとゴルガ先生が現れる。


「面倒だなあ」


 ルークが二人の方を向く。


「…今しか…ない」


 朦朧とする意識の中、塵払剣に近づく。これを抜く…。抜けるのか?


「あなたが、この襲撃を?」


 ゴルガが問う。


「まあ、決めたのは僕じゃないけど」


「なんで、なんでこんなこと!」


 リーサは身を出して怒る。


「うるさい」


 ルークの背中から巨大な翼が生え、翼爪をリーサの体に突き刺す。


「フェルダリーカさん!」


「リーサ…?」


 ゴルガ先生の声に思わず振り返る。


「あれ、脆いなあ」


「このっ!」


 ゴルガ先生がルークに手を伸ばし、青い光を放つ。するとルークが消える。


「先生!ルークは!?」


 はっきりとしない意識の中、リーサの元へ駆け寄る。


「魔法で飛ばしたけど、すぐ戻ってくるわ」


 と、リーサを向く。


「レザ…リオ…」


「喋るな!血が…」


 リーサの腹部に出来た大きな穴と口から血が吹きでている。


「大丈夫、私が治すわ。それよりも、やることがあるのでしょう」


 ゴルガは冷静に言う。


「…お願いします」


 塵払剣に手を伸ばす。柄を掴んだ右手が震える。背後では知り合いの叫び声が嫌というほど聞こえる。とても耳に残る。


『レザ…リオ…』


 リーサの声が遠くから聞こえる。


「(禁忌、最悪死んだり…)」


「おばさん、やってくれたね」


 ルークの声が聞こえ、ハッとする。


「もう戻って…!?」


 ゴルガはリーサに集中しており、ルークの殴打をまともに喰らう。


「がっ…!」


 先生の声が聞こえる。剣に向き直り、心の中で覚悟を決める。


「(結局死ぬくらいなら、この剣に懸ける!)」


 塵払剣を抜き、振り向いて構える。


「っ!」


 眼前には、頭部を潰されたゴルガ、腹が裂かれ、腕がありえない方向に曲がったリーサの姿があった。


「な…に…?」


「遊んでたら死んじゃった、人間って脆いねえ?」


 ルークは千切れたゴルガの腕を持ち、放り投げる。


「うっ…あああああ!!」


ルークに斬りかかる。ルークは腕で体を守る。


「なに、これは…魔法?」


「はあっ!」


 ルークの鎧を物ともせず塵払剣はその胴体を2つに斬る。上半身は地面に落ち、翼が消える。


「痛っ…」


 切れた上半身だけのルークが喋る。


「はぁ…はぁ…」


『レザリオ!逃げて!』


 リーサを見る。声が聞こえたが…口は動いていない。


『逃げて!この村から!』


 幻聴ではない、確かに聞こえる。


「(そうだ、行くべき場所がある…)」


 見失いかけていた。やるべきことを。でも…でも…


「考えるな…くそっ!…やることがっ…あるのに…」


 涙が頬をつたい、体が震えているのが分かる。いつの間に涙なんて。


「村を…お前を失うのが嫌だ…」


 涙を拭い、脚に言い聞かせ、庭を後にして村の外へ向かう。


----------


「レザリオ!」


 母の声が聞こえる。思わず声の方へ振り向く。


「レザリオ!貴様!」


 振り向くとルークが体を再生させ、滑空して向かってきている。


「レザリオ!」


 母はルークの声を聞いて俺の背中を護る。


「ずっと見守っているわ」


 そう言って見せたのは笑顔で、母は全身から青色と黄色い光を放った。


ーーーーーーーー


 瞬間、眠りから覚めた感覚。体全体に足りない部分が埋まっていくような、幸福感のようなものを感じる。


 ふと腹部に目を移すと、服が赤いことに気が付く。 


「ここは…」


 森の中、夕焼けの空は木々で覆われている。


「この剣は…」


 塵払剣を見つめる。


「うっ…!」


 頭が痛い!この痛み…この記憶は…


―――不服か


「いや、村の外に出るのは初めてで…」


「大丈夫だ、彼らは、人柄は良いからな」


                            村?村ってどこの?―――


「俺、何していたんだ…」


「レザリオ!私生きてる!」


 剣の(つば)の中央にある赤い宝玉から、宝玉と同じ色の霧が出てきて目の前で蠢く。そこから声が聞こえてくる。


「リーサ…?」


 リーサ?リーサって誰だ。知らぬ名を口に出した刹那、酷い頭痛に意識を奪われ、倒れ込む。


「レザリオ?レザリオ!」


 朦朧とする意識の中、最後に聞こえたのはリーサの声だった。


―――そういえば、どういう意味だったのだ?


「何がだ?」


 トワイライトが返す。


「そうする必要はない、硬い口調はするなって」


「ああ…他の護龍に聞いてくれ」


「なぜ?今教えてくれても」

                  今はまだ早い、ああ、それと、衣類を変えろ―――


 太陽が高原を越え、廃墟となったトワン村を照らす。


「くそっ!」


 廃墟と化したトワン村の一角。ルークが壁を蹴っている。


「なぜバハラムの臭いが消えた!死んではいないはず!」


「どうした」


 その背後に突如、黒い渦が現れ、その中から男が現れる。その気配を感じたルークは軽く身震いをする。黒い渦はすぐに消える。


「サタン!」


 サタンと呼ばれた男は黒い髪に赤い目、白い双角を持っている。黒いスーツにマントを羽織っている。


 ルークはサタンに近づき跪く。


「どうなったのだ?」


 サタンは村を見て問う。


「村は壊滅した。ある程度の人手も確保した。しかし…」


 跪いたまま、サタンを見て答える。


「しかし?」


 ルークを睨む。ルークの体が跳ねる。


「バハラムの、最後の一人が消えたんだ、臭いも、意識も」


 サタンはルークの視線に合わせて屈む。


「それならいい、今、誰かに邪魔されることがないのであればな」


 サタンは宙に手をかざして黒い渦を作る。渦に吸い込まれるように体をうねらせ、その姿は虚空に消える。


「サタン…。僕は、僕個人の意思であいつを…バハラムを殺す」


 何かに乗っ取られたように、ルークは不気味な笑顔を浮かべる。

読んでいただきありがとうございます。


塵払剣…バハラム家の庭にあった勇器。その力は伝説上のモノで、現代では知られざる秘宝である。


アヴル帝国…エスティール大陸だけでなく、世界全土に名を轟かせる帝国。魔法の研究が進む中、剣技がずば抜けており、兵力でエスティール大陸を統一した国家である。


ミラードラ・ルーク・アドラ(ルーク)…バハラムの敵となる。変幻自在の能力を持ち、陸空海を闊歩する。トワン村を襲撃し、バハラムの日常を壊した張本人。


また続きを投稿します。

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