財国の王
久しぶりの投稿です
また別の通り。剣姫と少女は通りの店に顔を出していた。
「毎度!クラブに顔は出されるのですかい?」
「気が向いたら」
店主と軽く言葉を交わしてその場を後にする。
二人と待ち合わせの場所へ向かいながら、先程購入した出来立てのポテトを一本…また一本と口に運ぶ二人。気が合うのか、彼女たちにとっては、天より与えられし至高の味わいなのだろう。
普段の凛とした表情は緩み、意図せずとも笑みを浮かべているカナルド。元々暖かみのあるユエルの顔は、母性本能をよりくすぐるように砕ける。
癖になりそうな味を噛みしめながら歩いていると、大きな袋を担ぐ男が三人通り過ぎ、その勢いでポテトの容器が落ちてしまう。
幸い、ユエルではなくカナルドにぶつかっただけなので、彼女の気遣いによって大事は避けることができた。
しかし、彼女は騒ぎを立てたくないからそうしていたわけではない。あちらも、急いでいる様子だったので仕方ないが、迷惑をかけた人が悪かった。
沸々と込み上げてくるこの感情は怒り。カナルドはそのポテトへの執着が強く、その恨みは一般人より勝る。
ユエルを置いて、彼女は地面と胸板を水平にして走り出す。
最後尾の男が、まるで狼の如き速さで走り寄るカナルドに気が付く。
「けっ、剣姫!?」
その言葉に反応した二人にも意図が伝わり、三人は急ブレーキをかける。
「ダンマ屋のポテトを落とした」
「へ?」
ポンッ。と、肩に手を置いて一言。
とぼけるような表情に怒り、まるで蛇のような、決して逃がさないという覇気を放つカナルドが続ける。
「二度も言わせるな」
気が付くとファンクラブの者たちが彼らを囲い、彼らは逃げられない状態になっていた。
その中には、ポテト屋の店主もいる。
「とりあえず、俺がなんとかする。お前たちはそれを持っていけ」
「わ、わかった」
最後尾の男の提案に二人は頷く。
「どこへ行く?」
「け、剣姫さん…俺が弁償しますので、二人は先に行かせてください…」
声色から憤怒が伝わってくる。これでも抑えているのだろう。男は圧倒的な殺意に背を丸める。
不服そうな表情で後ろの二人に視線を向け、了承はしていないが、男たちは先ほどより足取り重く袋を担いでその場を後にする。
「まぁいいけど」
「カナルド!!」
空気を変える声は男達を追って来たコーレル。
袋を担ぐ男たちが一瞬固まった気がした。そして、兎のように走り去る。
「どうしたの?」
「バハラムが攫われた!」
カナルドの表情はあまり変わらない。驚いているのか、予想の範疇なのか。
「あ、お前!」
ふと、彼女の側にいる男に気が付き詰め寄る。
「連れの二人はどこへ行った!?」
「し、知らないですねぇ…」
またもとぼける姿勢。状況を呑み込んだカナルドが、男に交渉を持ちかける。
「教えないならポテト100個。それで我慢する」
ここで男は、この国でカナルドと厄介事を起こしてしまった己の不運を恨む。対照的に、店主は嬉しそうに頭髪の薄い後頭部を掻く。
野次馬がほぼ確実にカナルドの援護に回る状態であり、相反する者は小さな粛清を受けると感じ取る。
「仕方ねぇ…」
男は懐から小さな紙きれを出し、コーレルに渡す。
雑に書かれた地図を、カナルドも覗き込んだ。
「ふーん…。まぁ、あっちに行ったし、あなた達手伝ってくれる?」
「剣姫の役に立つ機会きちゃぁぁぁぁぁ!!」「当然ですとも!!」
「高望みはしませんが、あとで私にハグしてください!!」
周囲の人々が団結した声を上げる。彼らは大通りから路地をくまなく散策し、バハラムと男二人を見つけることだろう。
男にとっては、獲物を見つけた魔物の軍勢のように映ったのだろう。剣姫という名の支配者に愛を渇望する崇拝者たちを、青ざめた表情で見つめる。
「…あとでポテト食べさせてあげる」
その提案は彼らにとって最高の崇拝者たる理由を深めた。
彼らが一層昂った声を上げ、まるでここ一帯だけがクラブになったような雰囲気に包まれる。
蒸気を上げる機関車の如く、競争をするように彼らは指定された方へ発進する。
カナルドはコーレルから紙きれを貰い、それを破いた。
「な、なんで破いた!?」
「あなたが嘘をついていることくらい分かる」
「違うのか?」
コーレルの問いかけにカナルドは丁寧に答える。
「彼は他の二人に比べれば機転が利く。私のおとりになったのも、二人を先に行かせたのも彼、これくらいの芸当なら出来るだろうと考えられる」
「さすがですね」
「最も、私は推察しなくても分かっているけど」
カナルドは男へ振り返り、あざとく笑顔を向ける。
「じゃあ、ポテト1000個は買ってね」
「多くないですか!?」
「人を動かすのは、そういうこと」
手名付けられた犬のように剣姫に首を垂れる男を他所に、コーレルは方針を告げる。
「ナギルッサが城の前にいる。順番は変わるが、そこで集合とする」
「把握した」
コーレルは軍勢のあとに続き、カナルドは犬を連れて来た道を戻り、ダンマ屋へ向かう。
―――――――
袋を外され視界に入ったのは光の入らないほどに暗い部屋と、腕を組み偉そうに立つ男。正面にある窓の外が明るいので、まだ日中なのを理解する。
飛び掛かるように体を前に動かす。しかし思い通りにいかないのは、首と手が錠によって壁と繋がっているからだった。
同時に、首輪から刃が出てきて、その冷たい先が首の皮に当たりそうになる。血の気が引いて、例のネックレスが消えていることに気づく。
それらに気づけたのは彼の口元が二やついて、嫌な予感がしたからだ。
「目は口ほどにモノを言う。お前のその目の色が変わるまではそこで大人しくしているのだな」
落ち着くように息を吐きながら、彼はそう吐き捨てる。
「ふざけるな」そう言いたいが、口を開けばすぐにでも首が飛ぶだろう。感情と声を押し殺して奥歯を嚙むと共に、双眸に怒りが集束するのは当然だった。
『許さないから!』
その声は怒りの対象に歩み寄ってきた人物から放たれた。と言っても、その人自身は「伯爵。そいつの身に着けていたものです」と渡そうとしていた。それは以前リドゥルが具現化した勇器の一端であるネックレス。バハラムに聞こえた声の主はリーサだ。
そうは言うものの、リーサから実体には何も手を出せないのが現状だ。何をするのだろうかと考えていたその時、伯爵と呼ばれた男が足元から崩れ白目をむいて床に倒れた。
ネックレスを持っていた人物を含め、側近の三人が彼に歩み寄る。
「伯爵!どうされたのですか!?」
「どうされたも何も!私はここだ!」
暗闇の中、不思議な温もりを掌に感じながら伯爵は訴える。
感覚がない、視覚も嗅覚も。確かにあるのは自分の意識。奇妙な空間でパニックに陥る中、知り合いの声が脳内に響く。
「まずい!伯爵の意識がない!」
『思っても無い好機だ!このまま伯爵が亡くなれば、繁華街の次期権力者は私だ!』
声は聞こえる。続いて聞こえるのはその人物の本音。どういうわけか彼はそれをすぐに理解する。
しかしそれが今の自分の自然体なのか、不思議と怒りなどの感情は湧いてこない。
「とにかく!すぐに運ぶぞ!」
『建前は私が先導しよう、事後処理は他の奴にやらせればいい。その隙に手柄が私だけに入るよう根回しすれば…』
また別の人物の声が響く。
「こいつの監視はどうする!?」
『適当に理由を付けて死刑が楽だが…』
はじめて聞く知り合いの裏側の声。地位や名誉を筆頭に欲望が形成されているのは自分だけではないという安心感を抱く。
「同レベルなのだな」そう、一人ぼやく。
「ほうっておけ!どうせ何もできやしないとも」
大きな足音と、扉を開くのを最後に彼らは部屋を後にする。
残されたのは拘束された青年とネックレス。部屋には金属音だけが響く。
「おおおおおい!?私はどうなったのだ!?そもそも、ここはどこなのだ!?」
助けではない、依然未知の場所に踏み入れた不安感から彼は叫ぶ。ふと、先の宿主が眠たそうに返事をする。
「うるさいよ」
振り向いたりはできない。脳内に響く少女の声で彼の不安感は増大する。
「だ、誰だ!?」
「宿魂。そうでない貴方は資格を持たない」
「な、なんの話だ?」
「出ていって」
勝手に話を進められる。その言葉を最後に、体を失った伯爵の意識は途絶える。
―――――――
建物の外。木材を肩に担ぐように伯爵を運ぶ三人の男性はいそいそと道を行く。
担がれた木材は目を覚まし、バランスを崩して倒れた男達を気にすることなく一目散に走り出す。
「伯爵!どこへ行かれるのですか!?」
立ち上がるや否や、来た道を戻る伯爵。どんどん距離が開きながらも、男達は伯爵を追う。
―――――――
青年は開けられた扉の方へ目線を動かし、その人物を捉え警戒する。
怒りの矛先を向ける人物が懐に手を入れ、近づいてくる。思わず目を背け、軽く走馬灯を見る。
しかし取り出したのは鍵。手際よく青年の手錠と首輪の鍵を外す。彼は自由を許された。
「私を連れて逃げて」
彼が何故このような行動を取ったのか、疑問を感じなかったのはその口調によるところだった。
安堵する暇はない。青年は転がるネックレスを拾い上げ、反対側の扉から外に向かう。
「今戻るね」
伯爵がそう言うと体は薄赤い光を放ち、粒子状となって大気中に消滅する。
完全に消滅した瞬間。既に開かれた扉をくぐったのは二つの人影。反対側の扉が開いていることに気が付き、足早にその後を追う。
路地を抜け、彼らは判断する。
「くそ!逃がしたか」
こういった仕事柄、何度も同じ経験はある。
しかし、比例して愚痴と唾を吐き捨てた。
「さっきの二人…どこへ行ったんだ」
「とにかくくまなく探すぞ!」
カナルドの役に立つため彼らを探す同好会の人々は、我が子を探すように血眼で路地を駆ける。
しかし彼らが見つからないのは、知る人ぞ知る路地裏へ消えたため。
光を浴びる資格を持たない彼らの生きざまが証明している。
光差さぬ場所に、神は目を向けない。
―――――――
ようやく合流した四人。城の前で待つよう指示されていたナギルッサが最後に来た。
「どこへ行っていた」
「すみません、あの子に声をかけられてしまって」
問い詰めるコーレルにナギルッサは笑いながら返す。何時まで経っても気持ちを切り替えられないのは悪いところである。
城の方にいる少年はお辞儀をし、コーレルは大人げないと感じ逆に反省してしまう。
こめかみを摘まむ様子を見て、気を張りすぎるのも逆効果だと考える。
「では行こう」
コーレルが先導し、一行はようやく国王の元へ向かうのだった。
―――――――
ナギルッサとカナルドはあくまで護衛。客間に通され、謁見を終えるまで待つことになった。
扉を前にして、初めて帝国に来た時を思い出す。
ファズさんを恐れて、リンナさんの人柄に安心し、コーレルさんとミレアラドムさんにとても世話になった。
ここの国王はどのような人物なのか。仲良くなれると良いなという感情を抱きながら、開かれた扉をくぐる。
衛兵が木々のように並び、構える獲物が威圧的に客人を迎い入れる。
赤い絨毯に跪き。かつてやったように挨拶をする。
「お目にかかりますミロク国王様。コーレル・フィーリアです」
「お初にお目にかかります、ミロク国王様。バハラム・レザリオです」
「うむ、遠方からよく起こし下さった」
コーレルが三点話す。魔王軍の存在、帝国の現状、バハラムが兵長に着任したこと。
「そうか、それは苦労の連続だっただろう」
帝国の現状を知り、王はただ客観的に意見を述べた。敵国であるからと言って、同情を持ち合わせないほど非道な人物ではないことが伺える。
「時にバハラム兵長」
興味を持ったのか、国王はバハラムに問いかける。
「其方は、命というのをどう考えるかね?」
「大きなテーマですね…」
スケールの大きな話題は今まで扱ったことがない。ミレアラドムと話すことはあったが、それは教養を身につけるため。あくまで学習の一環であった。
己の意見を出す上で、はじめての体験である。
「…神でもないのにこう意見するのは気が引けますが、誰しも、いずれ死ぬ時はくる。運命といけいれるべきかと考えます」
「ふむ、其方自身そう肝に銘じていると?」
「そうしないと、気が気でなくなるようで、自然とこうなりました」
「ふむ。では其方は平等主義である。ということかね?」
「それに近しいかと」
感心しているのか。顎に手を当てて王は更に考える。
「ふむ。では、魔物についてはどのような見解があるかね?」
バハラムはパニック状態になる。それを見て王は笑みを浮かべ、彼の弱さに付け込む。
「魔物は人々を獲物としか認識していない。英雄の制約によって領土に侵入することは叶わないが、行商人をはじめ多くの被害者が出ている。この国も昔は被害を被った。悪魔の襲撃、魔物による殺戮、前国王から聞いた話に過ぎないが、夜も眠れない日々が続いたそうだ」
彼の発言はバハラムの実体験を呼び覚ます。
正当化ではない。人々に感謝され、少なからず気持ちは高揚した。しかし魔物を殺し、手を汚したのも事実。
エッガ村での襲撃を鎮めたのは褒められ認められる行動だ。しかし彼らを同じく「等しい命」と天秤にかけて釣り合う存在とは認めていなかった。それにはルークも含まれていた。
動揺するバハラムの耳を塞ぐようにコーレルが割って入る。
「失礼ながらミロク国王。彼はまだ魔物と対峙した数が少なく、少し難しい問いかと唱
えます」
「そうか、それは悪いことをした」
国王が悪びれる様子はない。
「お詫びと言ってはなんだが、今宵は我が城に泊まるがいい」
思いもよらない提案。先ほどのやり取りを考えれば彼なりの良心なのだろうか。
初対面の人物に対して好印象を抱かないことは人によって異なる。しかしどれも共通して、違和感を抱く、否定的など、その者が良い感情を抱かない発言をすることだ。
そして、それを改善しようと試みるとしても、形成された人物像を大きく変えるのは難しい。ましてや、己のことすらままならないバハラムにとって、それを試みる国王の提案を受け入れるのは難しい。
一か月以上の付き合い。バハラムの性格を既に把握しているコーレルが代弁する。
「ありがたき提案ですが、早急に帝国へ戻らねばならぬ故…」
「遠慮することはないのだぞ」
「では、またご訪問した際に使わせていただきます」
ミロク王、手を頭に当てうつむく。
「そうか、それは残念だ」
兵たちが二人を囲む。
何故包囲されるのか。既に頭の中は重なる罪悪感と恐怖で剣を手に取ることすらできていないバハラムにコーレルが渇を入れる。
「見えているぞ!そのネックレスに悪魔じみた残留思念が宿っているのを!」
錫杖で音を立て、兵が二人を囲む。
王の発言に、彼の希望とは似た感情は打ち砕かれた。
そして、敵だと認識する。
「お聞きしたいのですが」
「何かね」
王は見下すように強気な声を出す。
「城下町で子供が誘拐されていると小耳に挟みました」
「ふむ…」
王は額に手を当て、目を隠す。
「嘆かわしいことだ」
そして左手を返す。
「バハラム兵長は下」
「はっ!」
両手を掴まれ後ろに。そのまま手錠をかけられ、先に連れられる。
「コーレル兵長は左だ」
「はっ!」
同じようにコーレルも拘束され、思わぬ形で謁見の間を後にする。
――――――――――――――
薄暗い螺旋階段を降りる。
王の言った下の通り、地下へ連れていかれるのは想像できていた。
しかし、その段数が圧倒的。既に目が回りそうになっており、それは兵も同じようだった。
ようやく階段を下り終え、最深部の石畳に足を付ける。
真っすぐ歩いているつもりだったが、前後の兵と共に何度かその場を旋回したような気がする。
その一番奥、ギィと格子を開く音は寒気を感じさせた。
「ほら、入れ!」
蹴り飛ばされ、溜まっている水を右半身に浴びる。
「待ってくれ!何かの間違いだ!」
前後感覚もはっきりし、機能を再開した脳が誤解を解こうと抗議するが、彼らは聞く耳持たず。
長い旅路も相まって、暗い気持ちと共に項垂れる。
――――――――――――――
赤い絨毯に暖炉、カーテンには埃一つ付いていない。
コーレルは見たところ普通の客間に通された。
正面には半裸の男が腰かける白いソファ。男の傍らには裸の女性がうつ伏せで気絶しており、腫れて
いる体はコーレルの目に焼き付けられる。
また、男の下半身の一部が妙に熱を纏っていそうに赤くなっているのは、この部屋がただの客間でないことを完全に裏付けた。
「おっ、新入りか?」
そこの女性のようになるつもりはない、コーレルの顔は睨みを利かせながら強張る。
男はその表情を崩すための道具の方へ視線を向ける。
白い壁に掛けられているのは趣味の悪い玩具。建築に用いる小道具や、暴行に用いるために加工された金槌など、コーレルはこの部屋がどういった場所か完全に理解する。
「お、びびったか?」
「誰が!」
表情とは異なる反応をしていると勘違いしたのか、男は不敵な笑みを浮かべる。
「あとは任せる、人質だ」
私が人質だと?舐められたものだ。
他国の者とは言え軽視されたことを侮辱と感じるのは、実績と共に自信があるため。
身内ならまだしも、王が判断したとはいえ一国の兵にそう言われた恥は、後ろで固定された腕の錠を破壊する程の力として暴れる。
「誰が人質だ!!」
気を抜いていたのか。腹部に殴打を受けた二人の兵は腰を抜かし、考えがあまかったのもあり回収していなかった真剣を抜かれてしまう。
「ば、化物だ!」
「化物は青い髪の少年だけでいい」
半裸の男に哀れみと切っ先を向ける。
「剣姫とナギルッサ、バハラムの居場所を吐いてもらおう」
男は手を上げて許しを請う。恐怖で口が開かぬがために首を横に振るのであった。
――――――――――――――
どれほどの時間が経ったのだろう。目が覚めたバハラムは己の現状を思い出す。
ミロク国王は自分を投獄した。何かの間違いだと思うが、現実を受け止めるしかない。
先ほど誘拐されても抵抗できなかった己の未熟さを悔やみながら、既に気力が底をつきかけているの
を実感する。
「くそが!」
その声は向かいの牢屋から聞こえた。自分と同じように怒りを感じ、ぶつける対象がいないことに憤慨しているようだ。
ふと、記憶を遡ると同時に、他の牢屋を見る。
人気がなければ、声もない。いるのは自分と対面の牢内だけだと把握する。
そして、今牢内にいる可能性のある人物をバハラムは知っている。
鎖がないことに多少の喜びを覚えながら、格子の間から向かいの人物の容姿を見ようと試みる。
垂れる青い髪に伸びる尻尾。翼爪はところどころ砕かれているがまだ形を保っている。それだけの情報があれば、該当する名前は記憶から出てきた。
「ルー…ク?」
「あ“あ“!?」
気が荒いそれは間違いなくルークだった。
お読みいただきありがとうございました




